二十二話 あぁ、喇叭よ
二十二話 あぁ、喇叭よ
場内の大聖堂にはしきりに黒装束が集まり、主身廊の席は詰まっていた。
「God save our gracious King,Long live our noble King,God save the King」
高い天井と床材を、口を開くように湾曲した支柱がいくつも備わっている。床を覆った建材は白と黒で交互に組み合わさり、壁や回廊には敷き詰められるように絵画が飾られている。
「Send him victorious,Happy and glorious,Long to reign over us,God save the King」
高窓はどれも絵柄が付いており、そしてすべてにおいて蒼く燻るようにして染まっていた。祭壇奥では、蒼い肉に呑み込まれた備え付けの風琴があり、誰かが演奏している。
「Thy choicest gifts in store,On him be pleased to pour.Long may he reign」
祭壇の上、尖塔の内部に蠢く執拗なまでに肥大化した腫瘍が、その音色に合わせて音を発する。
「May he defend our laws,And ever give us causeTo sing with heart and voice……God save the King」
緋色の異臭を吹き出しながらの単独での合唱を終えた腫瘍は、落ち着きを手に入れるようにして、収縮するようになる。祭壇上にこびりついたその腫瘍は、常に血液を垂れ流し、大聖堂のあちこちには触手がうごめき、血管のようにこびりついている。
魔天教の者が、次々と五体不満足な死体を触手に投げる。絡み付いてすり潰しながらそれらは腫瘍に持ち運び運ばれていき、咀嚼音を立てる。食べ掛けの腕や足に頭が腫瘍から落下してくる。魔天教の者らが、外から死体を運んでくる。内部で静かに会話をする音が、その者には聞こえた。
「……なんで最後が教会なんだよ、俺らはこんなことの為に」
「ミルワードのお偉いさん、かなり聖典教に御執心だったそうよ」
「へぇ……で、それがなんで俺らとねぇ」
「利害の一致だとか?と言っても、私たちに分かる必要もないわよ。私たちの願いは叶う、ただそれだけで良いのよ」
「……自分の支えるのがニンゲンってのが、シャクに障る」
「でも、夢や希望を叶えられる……いえ、そう希望を持てる亜人・獣人がこの世界に何人いたと思う?」
「……指折りより上なのは幸いか」
「そういうことよ」
死体を運び込む魔天教のものらのなかには、赤い腕章を着けている者がいる。静かに話をしていた者が近寄ってきた。
「……よっ、おつ」
赤い腕章を付けた者は、指を立てて喉を口元に持っていく。
「……ったく、わぁったよ。まぁそうだよな、ここが俺らの終点、俺らの墓場。お前でも静かになるってんなら、俺もそうするよ」
その者は赤い腕章の者にリボルバーを渡す。
「肉がまだ足りない、俺らの最後は、餌だそうだ。ま、妥当だわな。国を巻き込んで、大勢殺した。国にいるほとんどのニンゲンを食わせても、まだ足りないみたいだ。ったく、女王が聞いて呆れる、あの腫瘍の中身知ってっか?国王の妃、エリザベス・プレイステッドだとさ。ったくお笑いだ、なんだってあんな化け物に成りたがったんだか……まぁ、好都ご」
その者の頭部が撃ち抜かれる。脳と血液が白黒の床材に飛び散り、触手がうごめいて死体を掴むと、四肢を引きちぎった。祭壇の奥、風琴を演奏していたはず男は上部に登っていた、片手で構えた小銃から煙が上がっている。引き金を覆っている取っ手を中心に小銃を回転させるように引いて戻し、薬莢が1つ給弾口から弾き出される。
「……静粛に」
魔天教のものらは一斉に各員が持つ銃器を構える。咄嗟に席から祭壇に立ち上がり、片手を出して魔天教の動きを止めた。
「みな、落ち着くんだ」
「なぜです!?仲間がいきなり撃たれたんですよ!!」
「…………構わない」
異様に間隔を開けたその者は、だからこそ全員を静めた。噛み締めるような、彼の妥協を伝播する。祭壇にいる者は手を下げる。奥から1人、小銃を持って歩いてきた。
「……我が妻渾身の国歌、余韻すらこうも官能的というのに、モノを分からないというのは、まこと愚かである」
「……というワケだ、みな良いな?さて、そろそろ時間だ」
優しい声でそう言う者により銃器を下ろす魔天教の各員。その者は、腰に携えた鞘から剣を抜く。その剣は片刃で細身であり、上向きに抜かれる刀身は白く輝いていた。鍔は紋様が描かれているが、西陸では見られない様相である。刀剣は上に向けられた。
「……魔天教各員、整列せよ」
祭壇前に列に揃う魔天教。下ろした刀剣を握ったまま、その者は話し始める。
「……この日を迎えられたのは他でもない、みなの一人一人の、努力の結果である。全てを誇り、大いに喜ぼう。だが、我々だけの力ではなし得なかったという事実は、胸に刻む他ない。そしてこれらかみなには、ある選択をしてもらいたい」
各員が銃器を取り出す。
「……どうやら、どこかで情報が漏れていたようだね」
魔天教の1人が、リボルバーの撃鉄を起こす。
「……私たち、死なないといけないのでしょう?」
「厳密にはその必要はない。ただ、これから起こる事象に巻き込まれる可能性がほぼ確実に存在し、それはみなに痛みと絶望を与える。私は、どうやって最後を迎えたいか、それを選んで欲しいだけだ」
「……これから、どうなるのですか?ゼナイド様」
「……教えましょう」
ゼナイドは、懐から小瓶を取り出す。中には蒼い肉片がある。
「これまでとこれからを」




