二十一話 亜・獣解放戦線
二十一話 亜・獣解放戦線
赤い腕章を付けた魔天教の者は小銃を肩にかけており、橋に駆け付けて手を振る。後方からは荷車を押す2人、荷台にも誰かが乗っている。
手を振った直後、橋は降り始める。埃を立てながら巨大な鎖に繋がれて降りてきた橋を、荷車は渡っていく。黒い布に包まれら者が3人、橋の中間にある石の塔から慌ただしく走ってきた。
「負傷者の状態は!?」
赤い腕章を付けた魔天教の者が、進行を若干塞ぐように出る。
「戦闘中、建物から転落。骨折したと思われる」
「他に負傷者は?かなりの銃声が鳴っていましたが、他の方々はまだ」
「……全滅だ」
「……えっ?まさか、死神が」
「増えている。明らかにおかしい量だ。警戒を強めろ。弾薬の補給も兼ねたいのだが、いいか?」
「はい、塔内部にまだ備蓄があります」
「いや、戦力を増強したい。強力な兵器が欲しいのだが、ここにはないだろう……」
「そうですね……了解です、確かに緊急で入り用ですからね」
「では、警護も兼ねて一度部隊を引き上げる」
「はい、許可します」
荷台に乗せられた者がうめき声を若干あげながら、荷台は荒々しく進んでいった。馬の糞で歩道は汚れており、粘るような湿気や川からの異臭が蔓延している。橋を越えた路頭には幾人かの魔天教の黒布が待っており、馬車に駆け付ける。
「負傷兵ですね、電話で確認してあります。骨折だと伺っておりますので、我々衛生部隊が預かります。緊急で兵站を回し、装備を調達しております。係の者が来るまで待機をお願いします」
担架に移されらた者が連れられていった。
「君、さっき大きな声が聞こえたろう?何か知らないか?」
「ゼナイド様とアーサー王の計画が、最終段階に移行したのでしょう」
「……そうか」
「……どうかなさいましたか?」
「……いや、すまない。結局オレたちはどうなっていくのかなと、つい」
「ゼナイド様は、我々をミルワードの呪縛から解き放ってくれた方です。計画そのものは、僕も驚いていますが、それでも……ベストリアンである以上、これはやらなくてはいけないことなのです。悲しみも涙も、置いてけぼりになんかさせない。ゼナイド様がいなければ、亜・獣解放戦線、魔天教の存続、ベストリアンの権利保証などありえませんでしたからね」
「……うん?あぁ」
「様子がおかしいようですが……」
「……軽度だが、頭部をな、強く打った」
「意識はハッキリしていますね」
「……あぁ、大丈夫。こうなると不安だな。改めて、今回の作戦概要を教えて貰ってもいいか?」
「肉をできるかぎり回収し、城内大聖堂に集めよ。いつもと何ら変わりません」
「……ありがとう」
その者は、やや間を空けると去っていった。集団は目線を合わせると、担架で運ばれていく者を追跡し始めた。ギリギリ廃屋ではない建物に連れられるのを確認する。
遠目から見ると窓に見える部分から、羽織る布の裏に隠した狙撃銃を取り出し、内部を覗くと二名が怪我人の対応をしていた。確認したその瞬間、寝台から飛び起きた者がナイフで、後ろを向いた1人に飛びかかり、口を塞ぎながら逆手で喉を刺す。二人目が挙動に対応した瞬間に狙撃銃が放たれ、頭部に命中し倒れた。やや小さめの黒装束が、近寄っていく。
「君、こんなことできるんだね」
「あなた様の身辺を担うのです。相応に訓練はされました。それより、急ぎましょう。敵は亜人や獣人、物音が少しでもあれば……」
1人が素早く手を上げる。全員が別々に、物陰に潜んだ。足音が1つ響く。手を上げた本人が物陰から様子を伺う。近寄る者の様相は魔天であったが、手を上げていた。
「……隊長と雰囲気は寄せてありましたが、いつもの落ち着いた様子ではありませんでした。異様なまでに鼓動が激しく……ひょっとして、隊長ではない、のでしょうか?」
狙撃銃を持った者が構えようとすると、その腕を他の者が強く掴んだ。足音は近寄ってくる。
「やはりそうなのですね……いえ、もう誰であっても構いません。ここに誰がいても、誰もいなくても構いません。誰か、ゼナイド様を止めてくれる方はいませんか?」
暫くの静寂の後、銃を構えながら、数人の黒装束が物陰に隠れながら姿を見せる。手を上げた者はそのまま近寄っていき、銃を構えられた状態で崩れた建物に入る。
1人がその者の身体を検査し、武器がないことを確認する。倒れ込んだ同胞の遺体を横目に、寝台の側にある椅子に座った。
「……手は、下ろしても構いませんか?」
やや小さめの黒装束が寄る。
「構わない、で、止めてくれというのは、いったいどういうことだい?」
「……言葉の、ままです」
「ゼナイド……といったね。確か、君ら魔天党……いや、魔天教のリーダーのはずだ」
「……はい」
「彼は何をしている?君らはいったい……何をしたかったんだい?」
「……私たちは、ただ恨み・憎しみに駆られ、空っぽな心を血で満たし、満足することへの真似事をしているに過ぎませんでした。私は、少々過激なことをして、ただ自分が満足できれば、それで良かったのかもしれません。ですが……ゼナイド様が魔天教の実態を暴き、当時の先導者たちを殺害してから、状況は変わりました。ゼナイド様は、我々ベストリアンが受けた屈辱を、その歴史を、西陸に住まう人類全員に叩きつけ、そうして我々の涙を拭おうとしています」
「実態だって?」
「魔天教、これは最近できた呼び方し過ぎず、元あった名前は……亜・獣解放戦線。ベストリアンによるベストリアンのための集団、そういう認識がありました。ですが……その実態は、ミルワード、ひいてはプレイステッド派による、西陸支配を目論んでの先遣隊。ミルワードの力で武装させたベストリアンによりアドリエンヌを陥落させ、その後本国の傀儡政権を樹立させるための……工作部隊だったのです」
「何だって……そんな、そんなこと、知らないぞ……!?」
「ミルワードという島国から見れば、西陸は東陸と繋がる最前線。地形それ自体に目を付けた政治家が秘密裏に設立した工作部隊……ゼナイド様はその証拠を元幹部に投げつけ、同時に殺しました……私は、それを見ていた……間近で……組織はゼナイド様の指導のもと秩序だった動きを密にし、ここミルワードを事実上占拠するに至りました」
「……そのゼナイドは、ひょっとしてこの感染症に何か関わっていたり?」
「……そこまでは私でも分かりません」
「最後に聞きたいんだが、城内で誰か、王族で生き残りはいないか?」
「なるほど、あなたはミルワードの王族に関わる人物なのですね?……はい、存命です」
「……それは」
「アーサー・プレイステッド国王、そして妃である、エリザベス・プレイステッド」
「そうか、生きていたのですね……」
「彼らを止めて下さい」
「……彼、ら?」
「お願いします、言葉では説明できない……とにかく、場内の大聖堂へ。彼らは……」
足音に反応し、その者は外へ視線を向ける。
「私が時間をかせぎます。どうか彼らを、お願いします」
「待って、彼らって……!?」
外へ黒装束が1人、出ていった。




