二十話 落ちる
二十話 落ちる
魔天教の分隊4人は、全員で隊列を組んで、ゆっくりと進んでいく。
「……声って、マジか?」
「あぁ、小声だった。老いてもいる」
「まさかまだニンゲンが?」
「片っ端から回収してんだ、ありえねぇ。だが……」
「南部はまだ制圧できてないんだよな」
「それ以外でかなり足りてたからな」
「……不安だ」
「やめろ、集中」
路地裏をいくらか曲がると、声が聞こえ始める。擦れるような足音が、前方から1つ。
「……前方、足を引きずる音」
「死神か?」
「少なくとも蒼騎士じゃない」
掠れた声は、1つの音階を伴っていた。
「Milward Bridge is falling down, Falling down, Falling down……」
声色のかすれ具合を感じとる。
「……脱水症状?」
魔天教の者らは、後方も確認しながら前進していく。音の地点にたどり着くと、茶色くボロい布をまとったみすぼらしい老人がいた、タバコ臭い。
「……コイツ、生きてるのか?」
「声の主はソイツだろう……どうやって今まで?」
「南部にはまだ生き残りがいるかもしれない」
「そこから出てきたのか……?」
「食べ物が少なくて、追い出されたんじゃないか?」
「……俺らと大差ないな」
「知るか、ニンゲンなんざ死んでもまだ足りないくらいだろ……」
老人が少し動くと、魔天教らは小銃を構えた。
「……動いたぞ!」
老人は、静かに息を吸う。
「……なぁ、あんたら。魔天教か?いやもう誰でもいい。そのあたり、タバコ落ちてないか?たぶん俺はもう死ぬ。他のやつ庇ってひかっかれたんだが、みんなから追い出された……みんな俺のことを怪物みてぇに見てきて……あんたら、こんな視線によく耐えてきたな」
後方の1人が銃を下ろしてタバコを探す。
「……ないです」
「いや、あるはずだ。さっき落とした」
「……さっきって、いつ?」
老人はまだ、微かに歌う。
「Milward Bridge is falling down……」
先頭の兵士一人が銃を肩に付けて構えた。後方の一人がまた探し始める。それを、止めに入る魔天教の者。
「もう、いいだろう!」
「いや、でもこのヒト……って追い出された?まさか、他に」
湿って最後に、吐き出すように老人が声を出す。
「My fair lady」
周囲の建物からフアンとムタリカが飛びかかる。フアンとムタリカは落下の衝撃で相手の首もの骨を折る。残る二人が銃を構えると、ノイが飛び降りて殴り飛ばし、飛ばされた二人の敵は家屋の壁に叩き付けた。
老人が寝そべるような腰本から二丁のリボルバーを構える間に、4人の分隊1つを壊滅させる。老人は起き上がると、タバコに火をつけて一服した。
「ふぅ。よしリンデ、シャノン、あんたらは上で引き続き待機だ」
屋根上からシャノンが覗く。
「じゃあ、宜しく頼むよ」
フアンが足音に気付いた。ブラッドがリボルバーの弾倉に弾丸が装填されていることを確認する。
「他部隊です」
「応援を寄越したか……耳のよ良いことで。よし、俺が仕留めきる」
「数、4……いや、6……いやもっと?」
「あんまり寄んなよ」
ブラッドは2丁のリボルバーのハンマーを起こすと片方を納め、路地の奥にフアンより先に走り込んでいった。
「ちょっと、待って下さい!」
ブラッドは正面から来る魔天教の視界に入る前に、置いてある樽の裏に隠れて待機し、走り込んでいく二人の兵士の後ろを取ってまず一発、頭部に当てて1人仕留める。
銃声に向かって振り向く前に片割れの脚部を撃ち抜き転倒させ、動けなくなった一瞬に頭部を抜いた。リボルバーから弾倉を傾けるようにし、薬莢を3つ取り出して再度装填。小さく長い薬莢が地面に落ちて、金属製の音が響く。
弾倉を固定し遊ぶよいに回転させると、腰に当てて樽陰を出る。正面から来る3人に、腰溜めで3発連射して転倒させる。
後ろに振り向きながら同じように3発射撃、後方から仕掛けてきた兵士を2名殺害、また振り返ると二丁目を抜いて倒れている者らを仕留めきりながら前進していく。同時に、空のリボルバーから薬莢を棄てると口に咥え、6発揃った丸いクリップでリボルバーを装填。
奥にいる魔天教に向かっても発砲撃しながら装填し終わる。同時に、もう一丁のリボルバーの装填が終わると、咥えたリボルバーを手に、少し射撃の間隔を開ける。物陰から出てきた魔天教に向かって射撃して命中。フアンが合流した。
「……はぁ、はぁ」
「おっせぇよ」
「……周囲に敵はもういません」
「マジか、俺ぁ鈍ってねぇみてぇだなぁ!」
ブラッドはリボルバーを装填しきると、死体を確認していく、
「よし、何人か頭抜いちまって汚ねぇが、まぁ大丈夫ないな、元々そういう任務っぽいし。あとは腕章なんだが……」
「……凄いですね、こんな一瞬で」
「まぁ、俺の故郷じゃよくある話だ。喧嘩売ったヤンキーどもがたった1人のガンマンに返り討ち……外で銃が持てるミルワード人間は調子も屁もこく軍下崩れかアホども、1対多だけはぁなれっこだ。逆に周囲に味方がいると俺は戦いにくい。感じるやつ全員を一旦敵って考えて動いちまう」
「……服装は確保として、あとは腕章ですね」
リンデとノイ、シャノンは屋根の上でしゃがんでいる。リンデは拾った布切れをサプレッサーに巻き付けていた。ノイがそれを見ている。
「何してるの?」
「これサプレッサーっていうらしいんだけど、すっごい熱くなるのよ。こうやって布巻いておけば、火傷が防止できるんじゃない?って思って」
「へぇ~……」
リンデは狙撃銃を構える。大きな街道の真ん中を、荷台と共に移動する集団。
「味方同士ですら距離を置いて、平地をゆっくりと。死神対策にしたって、背中がら空きね……」
リンデは腕章を持つ隊列の者に照準を合わせると、息を止めてブレをできる限り無くした。
(100ヤードあたりでメモリ1つ……じゃあ、このくらい、ね)
引かれた引き金は静かに、鉄鋼に包まれた鉛弾を放つ。




