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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第六章 蒼之肉叢

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十九話 王都ペルガモ

十九話 王都ペルガモ


平原を越えた先、ゆっくりと速度を落としていく機関車は、酷く青ざめて穢れた王城を峰々のように遠くから捉える。リンデが前方に見える工場や家々を狙撃銃弾で確認していく。機関車は止まった。ブラッドは貨車から降りると、大きく息をすった。リンデに近寄る。


「サルディス工廠でデータをみた感じ、王都からこの距離まで飛んで来る火器はねぇよ、気張るんじゃねぇ」

「でも……」

「気張るほど敵を見落とす。力抜けよガキが」


ブラッドは揚々とリボルバーを二丁構えると、指で回転させていく。


「俺は近距離でしか動けねぇ、見落とすなよ~」


シャノンは貨車から、ムタリカと一緒に降りてくる。


「だから、僕は貨車じゃなくて良いだろう……」

「万が一を考えてです」

「ノイくんのいる所のほうが絶対安全だよ」

「保障できますか?」

「あのねぇムタリカ君……」


リボルバーの回転をやめて二丁を、シャノンとムタリカに向けた。


「おい、ちゃんと金貰えるんだろうなぁ!?」


シャノンは思わず手を上げるが、ムタリカがシャノンの前に立つ。


「王家を愚弄するか、売人風情が」

「あぁなんだお前、俺と結婚してぇなら最初からそう言えよ?三食おやつに子種付きだぜ」

「なんと下賎な……」

「ははっ、俺は植民地でガキ作った男だ。そう小綺麗にキマッちゃぁ、女は心開いちゃくれねよ。あとお前はケツが小せぇからナシだな、はっはっはっ!」


リンデ、ノイ、フアンを先頭に、草で開けた場所から徐々に建物の乱立する建物に向かっていった。シャノンはムタリカを見る。


「あぁ、気にしないでやってくれたまえ」

「いいえ……ただ、あの方はあの方で、ちゃんと私をヒトとして見ているのだなと」

「……!」

「そう思うと、少し複雑でして……」


ブラッドがリボルバーを回しながら振り向く。


「なんだ、金の相談か?」


フアンが袖から地図を取り出すと、バツの印の箇所を指差し、地形に沿って崩れた建物を進んでいく。靴の響く音のみが響いていた。


「……おかしい」


フアンの声が、崩れた工場に響いた。ブラッドが懐からタバコを取り出し、火をつける。


「……んあぁ、おかしいな」

「分かりますか?」

「ここまで来るのに機関車使って、なんつうか、一体も死神を引き殺した感じがしねぇ、平原すらざっと見ても安全圏過ぎてビビったくらいだ。リンデが狙撃銃構えても一発も撃たないで終わったの加味すると、蒼騎士もさっぱりいねぇ可能性だってある」

「さっき力抜けっていったのって……」

「いねぇっつう方がおかしいからに決まってるんだろ」


ムタリカが地面の足跡を見る。若干踏み荒らされ隆起した土や泥や汚れの塊が、固まっている。


「……比較的古い足跡。死神が徘徊しているとは思えません。王都を中心に広まったはずなのに、ここに来てさっぱりいない……なんてことが……ん?」


青ざめた肉欠や、こびりついた黒いものが、のけぞるように地面にまかれている。


「これ、血痕です……足跡と同様、古いものかと」


血痕を辿り、全員で歩いていく。ブラッドが急に先頭に出た。


「待て、こっから先は大通りだ。敵がヒトと仮定すると、狙撃班を配置するはず」


フアンが太陽の位置を確認しながら、崩れた建物を登って、石材と窓枠の間から単眼鏡で覗く。


「……!?」


大通りには無数に血痕が、脇道から一本の束に終結するようにあった。所々空白があり、車輪の跡も確認できる。


(……どういうことでしょうか)


フアンは状況を全員に報告する。シャノンが顎に手を当てた。


「……あり得るとすれば、ニガヨモギの発生だ。アレは死神や蒼騎士が一ヶ所に固まって、卵のような状態になる。だが……車輪の痕跡は奇妙だ。ニガヨモギに車輪が生えることはないだろうし……」


ブラッドは溜め息を付きながらしゃがみこむ。


「……昔こういう仕事を手伝ったことがある。麻薬の取引現場の後始末さ。お互いのグループが、金が足りねぇだの量がすくねぇだのって撃ち合いになって壊滅、下請けの俺ら日雇いが、場の後始末を頼まれた。その場で処理するはやめろって話だった、そして死体を荷馬車に集めて……ちょうどこういう血痕になったのを思い出すぜ、死体を引きずるからな。これはただの妄想だがよ、ひょっとして死神はいないんじゃなくて、全部殺されたんじゃねぇのか?死体は絶賛で王都で燃やしてる最中……みてぇな?」


シャノンがブラッドに近寄った。


「……まだ、王都は生きている?」

「さぁな、だがどうであれ車輪っつうのが奇妙だ。いつだったか、皮膚に黒い斑点ができる病気流行っただろ?」

「ペストの話ですか?」

「あのときも、死体を集める墓場とかでよく病気になったもんだ。それを反省してるんなら、病原体である死神の死体をわざわざ一ヶ所に集める理由なんざねぇよ。焼却のためっつったって、大通りまるごと引きずった血で汚れるほどの数を、生き残った幸運な連中がやるとも思えねぇ、奴らのお仲間になっちまう可能性を、自分から上げるほど人間はアホじゃねぇだろうに」

「ネズミなどのげっ歯類による媒介を懸念したとしても、やはりやり過ぎ……王都につけば、真実は分かると思います」

「あぁ~、まったく気がノラねぇ。それは、てめぇが命張ってでもやるものなのか?俺にはよく分からねぇ」

「……国王の子ですから」

「ミルワードがもうねぇ可能性だってあるだろ?背負うべきもの、間違えんなよ?」

「……ご忠告、感謝いたします」


港よりも前から、そびえ立つのが見えていた巨城。寄るほどにくっきりと肉がこびりついているのが分かる。単眼鏡でフアンは、歩きながら城を観察する。


「……なんであんなに汚れてるんでしょう?港の所々もあぁなっていましたが、あそこまで巨大な建造物にまで」


シャノンは所持するリボルバーの弾倉を確認する。


「感染者の死体は、重なるほどに溶解し溶け合い成長してしまいます。運が良ければあぁしてただ巨大化し、周囲にこびりつきます。運が悪ければ、今日討伐したニガヨモギのように、一つの怪物になります」

「じゃあ、さきほどの集めるというものは……」

「非常に危険な行為です。ですが、大量に重なるほどに巨大化の規模も上がります……まとめて焼き払うのも手ではありますね」

「では、あの肉片は……あるいは、城内で何か……」


ブラッドが単眼鏡を取り上げる。指を上に向けた。


「ちょうど昼になった。直角に光が当たってもまぁほぼ反射の可能性は低いが、一旦コイツは無しでいこうや」


ムタリカはフアンに寄った。


「聴覚に優れる貴方が頼りになります」

「先導します」


進行をフアンに任せ、残り5人は少し遅れながら建物を縫うように動く。建物の陰には、まったくではないにしろ死体は少なく、1体2体の死神と遭遇するだけで先に進んでいく。ペルガモ中央に近寄っていくにつれて霧が発生していく。全員がガスマスクを着用して進行していくと、橋が現れた。生ぬるく湿った腐臭の漂う巨大な川に、城のような外観を揃えた建物を中間に備える。ムタリカが地図を取り出した。


「ペルガモ橋は崩れていないようですね……ここを渡り北上すれば、ミルワードの中心、千年城にたどり着きます」

「ここ以外の道はないのですか?」

「かなりの遠回りになりますし……それから、現存するかが怪しいです」

「でも……」


橋は城塞のような部分で区切られ、2つに分離するように持ち上げられていた。


「橋って……上げられるんですね……」


立ち込める霧ごと地面が揺れるようにして、大きく、甲高く、艶かしい、女性の裏声のような声が轟いた。フアンは耳を塞ぎこんで地面に伏せるようになる。リンデとノイがかけよった。ノイがフアンの耳を、上から押さえてさらに強く塞いだ。


「……これ、何!?」

「分からないわ、でもあきらかに以上よ!」


音がなりやむと、フアンは立ち上がった。


「……城の方から、です」


フアンが音に気付いて、橋の方角を見る。軋む音を立てながら、橋が降り始める。橋の方向から数十の、黒いぼろ布で全身を覆った者が小銃を携えて、それぞれ少数で隊列を組んで歩いてくる。


後方からは荷台を担いだ大柄の者がおり、また先頭の兵士は赤い布を腕に巻き、全体に振り返る。


「もう少ないとは思うが、それでもまだ……肉の数が足りない。これまでと同様、できるだけ南下し、死神でも人間でも動物でもいい、回収を急ぐぞ。毎度お言っているが、弾薬が尽きた場合・聴覚に優れるものが負傷した場合、迅速に撤退せよ。これは私からの命令ではない、ゼナイド様からの命令である……では各員、行動開始!!」


その者らは橋を渡りきる。赤い腕章の者が橋に手を振ると、大きな荷台が渡ってすぐ、橋は迅速に上がっていった。ブラッドがニヤつきながら状況を伺っていた。


(声は聞こえねぇが、アイツが指示を出して橋を下ろさせてる……要するに、あの腕章野郎が隊長を務めてるってワケだな?)


ブラッドが全員に向いた。小声で伝える。


「部隊が出てきやがった、服装からして明らかに魔天教だ。野郎たちを人数分シバいて服装ごと奪う。変装して潜入するぞ、腕章付きのヤツは最優先だ」


魔天教の一人が銃を物陰に構える。


「……声?」


分隊1つが、路地裏に入っていった。

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