十六話 エリオット
十六話 エリオット
駅構内から奥は、兵士は一人もいなかったシャノンは違和感を持つ。
「……いない?さっきので全員だったのか?」
シャノンは駅員室から繋がる要塞への階段を上がる。防壁のように築かれた要塞の中に入っていくと、発砲があった。そして声が聞こえてくる。
「サルディス工廠……意外にも警備は薄いですね。ひょっとして……あなた自身で減らしましたか?」
「……アンタ、なんで」
発砲があった。音源を辿るように、シャノンたちが走る。血痕が壁に辿るようにある。また、声が聞こえた。
「ほぉら逃げろ逃げろ……いいなぁ、逃げれて、俺は逃げられなかった。確か5歳きろだったか……いや、昔話はやめておこう」
「話は、聞かないということか。だが、あぁ……くっそ、なぜだ!!」
「……なぜ?」
「エリオット上院議員、アンタだったら分かるはずだ!この国の現状が!!」
「……ふふ、でぇ?」
音をたどり、電線の繋がる部屋に向かう。また声が聞こえる。
「電話線ですか、さっきデカイ声でほざいていたのは……アンタ、確か自国を優先しろって議会でも吠えていたなぁ、名前は確か……チェスター、そうそう、チェスター・アバークロンビー」
「アンタ、いったい……」
人が倒れる音がする。足音、そして、激しく鈍い音。シャノンは兵士のたちを止めて、部屋に歩いていった。鈍い音は響く。
「お前が俺に……そんなことして、何になる……あぁ!!」
「何にぃ?何になるかって?ふふふあっはっはっはっ……復讐ってやつだよ、ミルワード人?」
「何を言っている……アンタだって、ミルワード人だろ、あぁぁ!!」
「ふふふ、あはははは、そうこれだよこれ、ずっと見てみたかった……お前らも俺たちと同じように、苦しんで悲しんで、絶望できるってとこをさぁぁ!!!」
シャノンは部屋を覗く。銃で傷をつくられた箇所に蹴りを入れているエリオットがいる。
「植民地人にぃ、労働のほとんどを、任せぇぇ!!アンタたちは、国にぃ、引きこもったぁぁ。すると、お前らの間で、競争が起こった……良い学校を出て、デカイ企業に入って、金を稼ぐやつをほど、人間的に選ばれるようになっていった。取引、結婚、なんだってそうだった。キサマらはその結果、自己研鑽という歯車に自らを乗っせぇ、互いが互いを不干渉で蹴落とす社会ぃ、学歴社会へと舵を切っていった!!」
呼吸するように蹴りあげるエリオット。
「他人と上っ面に関り合い、あるいは関わることなく勉学に励んだ……そうして周りのことを伺うクセに、青春を勉学に費やしたことによってぇ、他人との関わり方を知らない大人が溢れた。そうキサマみたいな高学歴の奴らさぁ!!他人の見方、尺度を知らず、お前みたいに自分の殻にこもって鼻高になるやつもいたぁ!!だが俺たちが見ていたのはそっちじゃない。自己を肯定する要因を自らを担保できるお前らみたいなのはぁ、この国の弱点じゃなかった……俺たち工作員は、高学歴の政治家どもに結論ある弱点を見出だした……ハニー・トラップだ!!他人を知らない、分からない人間にとって、自分を全肯定する女は女神に見えただろうよ!!あるいは関わり方が分からず女に相手にされない奴にとっては、都合の良いオモチャだっただろううよぉあ!!全部ぅぅ、俺が口説いた女だって知らねぇでなぁぁぁ!!俺は仕掛けた、数多の国の重要人物どもに!!そして勝ち取った、報道局各社に流せる、デカイ弱みを……あはは、そっからは早かったぜぇ?緊縮財政、植民地優遇、ぜんぶ他人が分からず、他人を恐れ、自分を可愛がったゴミどもが、俺に操られて打ち出した政策だぁ!!」
「そんな下劣な策で……だが、そんなもの公に公開する前に」
「ご丁寧に写真付きだこのゴミくずがぁ!保険でその女たちは全員未成年!!情報社会に片足を突っ込んだ貴様ら先進国の連中には、手痛いトラップさ!!」
「お前、なんで……どうして……」
「……金を騙し取るために植民地にいったやつが、報復として殺されるなんて当たり前だろう?するとどうなるよ、キサマらミルワード人が、顔も覚えていない人間が、戸籍情報をこっちに残して消えるんだ……俺はその戸籍情報を買い付けて密入国した……そう、俺はミルワード人の血だけを受け継いでる、植民地生まれ植民地育ちの帰化議員……そう、工作員だよあぁぁ!!!」
息切れしながらエリオットは、空気を激しく吸った。チェスターは泣いていた。
「なんで……なんで俺たちを……そうか、恨みか……」
「そうだともそうだとも、そーだともーーーーぁぁ!!!お前、ケツ掘られたことあるか?俺はあるぜ五歳のころぁ!!ミルワード人が植民地でだれかれ構わず犯すあわって、路上には親の分からないガキで溢れた……だがそいつらだって、農場で紅茶でも麻薬でもコーヒーでも作る人材になれる。だが俺はどうだ!?ミルワード人の血しか受け継いでいなかった。大人も子供も、俺を恨みか憎しみか快楽のために殴り犯し捨てていった!!てめぇ、知らねぇオッサンのうんこ口に入れられたことねぇだろぁあ、俺はあるぜ!?六歳のときだぁ!!」
エリオットがリボルバーを構え、部屋中を撃ちまくる。
「お前らにこの屈辱を味合わせてやりたくって散っ々っぱら国を破壊してまわってやったぜぇ!!おまけにミルワード国民は植民地を優遇しろなんてほざいてるからなぁ!!」
「……すまない、すまなかった」
「勝手に戦争しかけて奪って殺して責任持たないで、今さら国民全体で良い人がぶろうってかぁ!?話にならねぇよゴミカスどもがぁ!!」
装填を何度もはさんでは、20発以上部屋に弾丸を撃ち込む。エリオットはリロードをしなくなった。
「……だが、仕込んだ計画も全部ぜぇんぶあの魔天教にもってかれた。もっと苦しむやつらが見たくて、もっとっもぉっと復讐できると思って……魔天教ども、いったいどんな手品でこの国をぶっ壊したんだ?このクソみたいな現状はなんだ?なんだよオイ、感染症って……ふざけんな、ふざけんなよ……俺がどれだけこの計画を練ったと思ってるんだ……あぁアル=ライス、すまない、せっかく救ってくれたってのに、俺は夢すら叶えられないで……」
シャノンが部屋に入る。リボルバーがエリオットに向けられていた。
「……おやマイロード」
「……マイなんて、もう誰も付けてないですよ。嬉しかったんですよ、議会制の結果王族の価値は下落していき、党の代表として存在するだけになったという歴史がある。父も母も、お飾りな血に苦労していた。だから、君が、誰からも呼ばれなくなったマイロードって、呼んでくれてて、だから君の名前を覚えていたんだ……」
シャノンは泣いていた。そして、リボルバーの構えをといた。
「ふふ、まぁたミルワード人の涙だ。どんな味がするんでしょうかねぇ、煎じて飲んだら紅茶くらい深くなるんでしょうかねぇ」
「……でも、この涙も、結局、私の勝手なんだよね。勝手に期待して、裏切られて、全部君は経験しているんだよね?」
「悲しみに慣れるコツを教えましょうかぁ?……ゼッッッタイに返すって心に決めることですよ、マイロード」
「君は、アル=ライスと仲が良いのも、どこか別の国で仲良くなったのかい?」
「聞いたのですか、勝手に」
「詮索はしないよ、私ができたことは、紅茶を飲んで自分がミルワード人だって自覚することと、みんなに優しくしようとすることだけだ」
「……そうですか」
エリオットは、握ったリボルバーをリロードし始める。
「……では、国王としても、私を見逃すので?」
「……あぁ、見逃そう。君の人生は、無関係な人間が客観的に聞いても同情できるほどだ」
「そうですか……」
エリオットは、リボルバーをシャノンに向けた。
「これでも、ですか?」
「……」
兵士が一人、部屋に入る。
「エリオット」
「……アル=ライス」
「銃をおろせ、もう良いだろう」
「……俺は、いつ生きるんだ、アル=ライス」
「……」
「土に生える草の強さに憧れたり、空の大きさに感慨深さを見出だし、星を見て涙して、海を見て自由を感じて……そんなことすら、俺には……俺には……夢物語なんだ。俺は、いつ生きていると実感できる?いったいいつになったら、俺は生きたいと思える?命に価値はあるのか?なぁアル=ライス、なぜ俺は生まれた?命に意味があると、きっとそうだと思うことも……こんな日もあるさと思って自分を誤魔化すのも……俺には、俺にはもう……無理みたいなんだ……」
構えたリボルバーを、エリオットは自分のこめかみに向けた。
「……でもさ、でもさ、俺は臆病だ。自分に引き金が、どーーーしても引けない。飯を食いたくなる、吐きながらでも。寝たくないのに寝たくなる。心が寂しくなる」
アル=ライスは、小銃を構えた。
「出会ったときも頼んだっけ……もう、俺いいんじゃないかな?」
「……そうだな、お前は背負いすぎた」
「そうか……やっと、俺いいのか?あんた、許してくれるのか?」
「……あぁ、もう大丈夫だ。こっからは、大人に任せろ」
小銃は引き金が引かれる。ほとんど立ったままエリオットは頭を撃ち抜かれ、力が抜けるように倒れる。
弾かれた弾丸はエリオットの頭部を貫通して、後ろの壁に弾痕を残した。倒れるエリオットをアル=ライスが抱え、チェスターの血のない壁に立て掛けた。ヒドく笑顔で目を瞑って死んでるエリオットは、まだ脳から血が出ている。シャノンが近寄った。
「……他に、道はなかったのかなって」
「それを潰したのは、アンタらミルワード人だろ」
「……そうだよね、すまない」
「いや、いい……すまない、俺が言ったのにな、ここからは大人に任せろって。アンタいくつだ」
「……16だ、子供じゃない」
「20もいってねぇならガキだ」
「こんな日もあるさと思って自分を誤魔化すのも無理……彼は、物事をいい方向に考えることを諦めていなかったんだ。彼は、いつか救われると信じていた時期があったんだ……」
「……最初にコイツを見たのは、植民地番号17番。お前ならどこか分かるだろ?」
「……あぁ、分かる」
「酷い国だった……戦争として換算されたミルワードによる支配への抵抗で賠償金は膨大、強制的なミルワードとの貿易で格安で買われる食糧、入ってくる金も貿易で仲介するミルワード人にほとんど取られる。孤児を集めた娼館なんてもの、あそこで初めてみた。コイツは、そこですら働けなかったそうだ、それほどに、ミルワード人への恨みが強かった。買うんじゃなく、襲う対象、犯す対象、恨みをぶつけるサンドバッグ……だからコイツは……こうなった」
「誰も、彼の不遇を、不遇として扱わなかった」
「むしろ、殴れるミルワード人だって喜んでただろうよ」
「……彼とは、いつ?」
「……それは、俺のことを全部話す必要があるな」
アル=ライスが、電話線に繋がれた機械のボタンを押す。
「こちらアル=ライス、敵指令部を制圧した。残る兵士がもしいるなら、抵抗せず武装を解除しろ」
アル=ライスが、チェスターの遺体を整える。シャノンが手伝う。
「俺は、いや……俺も、工作員だ」
「……えぇ?」
「色んな紛争地を回ってるうちに、お前らからは変なあだ名付けられちまったが、その裏で、また別のあだ名ももらった。コードネームってやつだ……俺は各紛争地を転々しながら組織を束ね1つの共通目標、打倒ミルワードを掲げるための先兵になった。キリングマシーンとして意図的に担がされ、名を上げ、永住権を確保したまでは良かったが、そこからが難航した。俺はそのとき、コイツを見かけた。ケツから血を流して倒れこんで泣いていた子、そばにはズボンを履こうとする男……何をされたかは一発で分かった。そして俺は男を殺して、コイツにメシを食わせた。まともなやつだ……そのメシが、コイツを変えちまった」
「変わったって……嬉しくて、とか?」
「羨ましくてだ……こんなのを毎日食ってるやつがいるのが許せなくなったらしい……俺はどう言えばいいか分からなくて……つい言葉を吐いちまった。冗談まじりに、イヤな奴ならぶっ飛ばしちまえくらいの感覚で……絶対に返してやれって」
「……っ!?」
「俺には、返す力があった。でもコイツにはまだそれがなかった。俺は想像もしないうちに、コイツには重すぎる指標を出しちまった。結果はどうだ?俺とコイツは同じ工作員としてここに潜入する運びになって、俺よりも任務に忠実な、復讐の怪物に成り果てちまった……言葉を、もっと優しい言葉をかけてやればよかった」
「……そう、だったんだね」
シャノンは、チェスターを見ていた。
「……彼もまた被害者だ。エリオットが言っていた、学歴社会への傾倒。価値の可視化された世界では、あるいは価値の飽和した世界では、価値は咀嚼されない。そうして見向きされないことが前提となる社会に、どうやって希望を持てばよいのか、考える必要が出たことには既に遅かった。彼はきっと、選民思想に取り込まれたんだ……新・ミルワード、か……確かに、この国が変わるのにこの感染症はちょうど良かったのかもしれない」
シャノンはチェスターの襟を整える。
「……でも、誰かを悲しませることを良しとするのは、勝手が過ぎるかもしれない。この発想に至れない君に育てた環境、それを、せめてこれからは作らないようにしなくては……!」
アル=ライスは、シャノンを見ていた。
「……お前、大人だな」
「まぁ、そうなれと育てられたので……しかし、現状兵力の低下は激しい、生き残った全員だって、疲労は溜まっているはず」
「あぁ、A・B班はほぼ全滅、C班だって気張り続けているのは事実。俺もお前も、あの西陸の連中だって、体力は無限じゃねぇ。まずここの食料かき集めて、腹いっぱいに食わせろ、他の物資を集めるのはその後でだって良い」
「……ありがとう、ではそのように指示を出そう」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




