十三話 要塞吶喊
十三話 要塞吶喊
ボヤけた視界の中、シャノンは目をあけた。
「シャノン、シャノン」
「お母……様……」
「起きてシャノン」
「お父、様……」
リンデの指示でシャノンはノイに担ぎあげられ、運ばれる。転倒しら貨車の中で声が聞こえ、扉を叩く音がする。ノイはシャノンを担ぎながら、ひしゃげた鉄の扉を引っこ抜くように開ける。
ぶん投げるように扉が転がり、中から兵士たちが走り出してくる。各員すでに装備を揃え、集まってくる死神たちに火炎放射を浴びせ始めた。ノイはアル=ライスと目が合う。
「助かった、ありがとう」
貨車の中で、首を垂れている兵士が何人もいた。エリオットがノイを見た。
「そっちは大丈夫かい!?」
「うん、でもシャノンが……」
「生きているなら問題ないよ!」
アル=ライスは、ノイが死体に目をやる、その目を見る。そしてエリオットがノイに話す。
「食われるよりはマシな死に方さ……むしろ喜ばしいだろうよ……」
アル=ライスは小銃を背中にリボルバーを構え、片手で地図を見ながら、死神を片付けるように動き、全体を指揮してサルディス要塞方面へ走った。リンデとフアンがノイに近寄る。
「ノイ、ありがとうございます。で、シャノンさんは?」
「頭打っちゃってるっぽくて……」
アル=ライスは走り、街道にみえる場所の真ん中で止まった。馬車や人の残骸が四散しているなか、足で泥にみえるものをどかし手袋を付けた手で地面に埋まる丸い鉄板を持ち上げた。
「下水道経由で工廠へ向かう!死神もいるだろうが、限られた通路だ。火炎放射で簡単に一層できる!」
ノイを先頭に一人ずつ兵士は梯子をおりておき、最後にフアンが鉄板を閉める。うめき声が重なり、鉄板をこえて響き渡る。
「危なかった……」
梯子を滑るように降りると、既に何体か死神を焼却したあとだった。一本道に、いつくもの死体が転がっている。アル=ライスや兵士たちは、ガスマスクの位置を正した。
「どれが死神かは肌を見れば分かる。先頭は燃料がきれ次第交代していけ。ゆっくりいくぞ」
アル=ライスの指示はリンデ経由でのとフアンに伝わる。アルテ=ライスは歩きながら、リンデの隣へ来た。
「お前、ミルワードの言葉が分かるのか」
「頑張れば、日常会話もできるわよ」
「すまないが、コイツらとはあまり仲良くできないと思ってくれ」
「あなたの部隊よね?長いのかしら?」
「短いな、よく変わっていった。だが、この感染症が広まってからは変わっていない」
「意外と、最近になっての出来事よね、この現象」
「魔天党の仕業だろう。そうじゃないとしても、国を破壊したやつらの一つだな」
「発生したのって、確か王都からよね?」
「あぁ、魔天党が選挙で野党として台頭して、直後の出来事、という話だ。怪しまれても不思議じゃない」
「……何かをしたとして、何が目的なのかしら」
「ミルワードっていう、聖典教の分派への復讐だろ」
「カヴェニャック派を潰さないでどうするのよ、総本山はあっちじゃない」
エリオットがアル=ライスの後ろから話す。
「確かに復讐は直接なほうが良いに決まってるだろう。だが、それは加害者を特定できるならの話だ。差別、戦争、迫害、そういうのは被害者も加害者も膨大、となれば、もはや敵と仇の境界線は曖昧になる。
被害者っていうのは、傷を治そうとしない身体がないように、あがってしまった拳をつい振りかざさずにはいられない、そして振りかざせないときが多いほど、かざす相手を選ばなくなる……そういうものだよレディー?」
エリオットは、懐からナイフを取り出すと、握り拳心地を確かめる。
「……アル=ライス」
「お前……」
話してているうちに、梯子をアル=ライスが見た。地図を確認して、振り返る。
「……ここがサルディス工廠のもっとも北側のマンホールだ。上がったのち、我々を攻撃したものを捜索、脅威を排除することになる。サルディス工廠の地図は頭に入っているな、南方は要塞化された駅が存在する、そこまでの道中は基本的には工場しかない。いつものように部隊を3つにワケ、それぞれ工廠の区画を捜索する。分かってと思うが、敵の数は不明だ。A班は先行して指令部を捜索、B班は我々を砲撃したと思われる砲台を捜索、C班は退路を確保だ。今回はいつもの3班に他の人員もいれる、A班はエリオット、フアン。B班にリンデ。C班にノイを組み込む。俺はA班だ。ノイはシャノンが起き上がり次第A班へ合流、シャノンはB班へ向かわせろ。リンデ、今の話をそいつらに伝えろ。以上」
フアンが手を上げる。
「……あの」
リンデがフアンの話を聞く。
「えっと、フアンは獣人、ベストリアンだから、周辺状況は粗方把握できる」
「そうか……隠してたことは当然だな。では先頭はフアンに任せる」
フアンが聞き耳を立てながら、梯子を上りマンホールを開ける。周囲に人がいないことを確認すると下へ合図し、エリオットとフアン、他兵士たちが上がってきた。あがったそばから小銃を構え、屋上や扉、物陰を分担して確認していく。フアンはアル=ライスに周辺状況を、簡単なミルワードの言葉で伝える。
「敵、いません」
「ここを見てない時点で、敵は少数ということだ」
足音をできるだけ抑えながら南下していく。フアンは屋根上に登ると、兵士が続いて登ってきた。
「あんたスゴいな、そんなはやく……」
「一応、師匠の一人は忍者です」
「ニンジャ……ワァオ」
兵士が空を見上げて太陽の位置を確認する。単眼鏡を構えると、敵兵士を確認していった。兵士は降りると、アル=ライスに報告する。
「敵はやはりミルワード陸軍のようです。ここに駐屯していた……ということでしょうか?」
「外見の特徴は?」
「陸軍らしい薄黄色の服装に、白い腕章がありました」
「白……覚えがないな」
「つまり……」
「ここの指揮系統は、ミルワードとは関係していない可能性がある。腕章は存在証明を外的に示すもの、いわば警告。経験上こういう場合、外的なものは周辺の人間。俺たちはキサマらとは違うという思想を持つ排他的集団。レジスタンスやテロリストに近い」
「じゃあ、やはり味方ではない……」
フアンが降りてくる。
「攻撃はたぶん砲弾です。東側から妙な金属音」
「大型の砲台がある可能性が高い……か。破壊せず奪取したいとこだな。敵の配置をB班に頼む。行くぞ」
兵士が一部分かれB班に向かう。廃工場の郡を先へ進んでいく。奥にはバリケードが敷設されていた。アル=ライスが疑問に思う。
(内部にバリケード……まて、警備が手薄という訳ではないということか。あえて工廠を全て掌握せず、区画を集中して偵察……さっきから死神はいない。だがこれは警備されているというワケではない、いるな……)
フアンが足音を関知し、袖から剣を取り出す。工場の陰から出てくる死神の首をを、フアンは剣を突き刺して倒す。ゆっくりと壁際に持っていき、さらにゆっくりと剣を引き抜いた。アル=ライスがフアンをの手さばきを見ていた。
(俺には何も聞こえなかった。だがフアンがいるなら死神は警戒せず……不味いな、B班とC班は……)
B班は別で動く。屋根上にリンデを配置して、やや東側へ向かっている。リンデは狙撃銃を構えていると、兵士たちのそばに死神を発見した。
(まっずい、でも……あっ!)
リンデは弾丸を一発、兵士たちの方向へ向かって投げる。詰まった薬莢が転がり音を立て、兵士たちがあたりを探り始めた。死神を発見し、近接戦闘で無力感していく。
(あっぶな……でも、これで気付けも効くでしょ。アル=ライスの部隊だし、あまり心配もいらなかったかしら?)
リンデは記憶を手繰った。そこに、クロッカスであった事件がある。
(あのとき、シャルリーヌ……だったモルモーンは、音を立てないでセヴランを連れて家から外に出た……もし、この死神とモルモーンが同じような存在だとしたら、音があまりしないことは道理がある。銃声はならせないってのに……)
リンデはいっそう周囲を警戒すると、レティクルの刻みに、白髪の男を捉えた。
(エリオット議員……なんで!?)
フアンが周囲を見渡すと、エリオットがいない。
(……あれ?)
アル=ライスがフアンの肩を叩く。
「心配するな、アイツのことは知ってる。ヘマはしねぇ、ちょっと待ってろ」
「……えぇ?」
フアンは、鉄のきしむような音を感じる。
「……何か動いてます、バリケードの奥?」
エリオットは電線の通ったバリケードを、付近の廃屋の屋根から飛び込む形で越える。5点着地で物音を立てると、すぐにゴミの積まれた物陰に隠れる。音に反応して兵士が一人来た。
「……気のせいか」
喉元をナイフで刺し、喉を締めながら物陰に引きずり込む。3度ほど刺して絶命させるとゴミに押し込むようにして片付ける。
小石を拾っては、建物の表から裏へ兵士を誘導して、その都度殺害して、陰にだけ血だまを作って、そうして一ヶ所、物資が集積されているのを確認する。
(補給所……丁度いい)
リンデは屋上から見えなくなったエリオットを探していた。
(……どこいったのかしら?)
バリケードの奥、南西方面で爆発が起きた。偵兵士が一斉に気を取られる。B班の兵士たちは一気に先へ進んで、呆気に取られた兵士たちを無力感していく。リンデは動きの早い兵士たちの背中覗いている。
(爆破の拍子に動きがはやくなった、作戦?違う、状況の変化に対応してる感じね。発砲できるときに備えて、私もちゃんと構えてないと……)
連続するような爆発の音、銃ではなかった。きしみ、振れる地面。かぶった埃を吐き出す廃屋。黒い煙が、バリケードで囲われた区画の中央から浮かんでくる。フアンは匂った。
「……何か、燃えてる?」
アル=ライスが嗅いだ。
「石炭じゃねぇ、なんだ?」
矢継ぎ早のような速度で、筒から異物を引っこ抜いたような音が響き渡った。その音に、味方兵士たちは困惑している。それは数秒もたたないうちに、兵士たちの襲いかかった。
空中で炸裂した小型の砲弾は細い針を飛ばし、兵士たちは眼や間接にそれらが食い込んで倒れた。砲弾はバリケード前方に降り注ぎ、リンデは屋根上から避難して屋内に駆け込む。
「……なに、なによ今のっ!」
アル=ライスの部隊は全員屋内に避難を完了している。兵士たちの肩などに一部刺さっていた。
「くっそ、なんなんだこりゃあ……」
兵士がそれを無理に引き抜くと、針が折れる。その針からは、腐った肉のような匂いが漂った。
「……はぁ?えっ」
兵士が悶え苦しみ始める。
「……こ、これっ……あぁ!」
黒かった兵士の肌が青く染まっていく。アル=ライスが銃を向けた。
「お前……そりゃつまりそうだってことだな……」
「隊長、俺……俺は」
「……野郎ども、弾丸に感染者の肉仕込みやがったな!」
「ええぇぇっぁかあおあぁぁぁあ!!!!」
アル=ライスがリボルバーで兵士の頭を撃ち抜く。爆発の煙に紛れて発砲音がサルディス工廠に響いた。敵兵士が気付く。
「発砲音確認!!伝令兵、報告を送れ!!」
アル=ライスの目の前で、死体になった兵士の皮膚はさらに青くさめていき、蠢き、破裂するようにして鋭い爪を持つ四肢の怪物が現れる。
同時に兵士たちが火炎放射で蒼騎士を燃やした。焼けた蒼騎士は暴れまわり、建物を破壊して倒れた。兵士が全員に、ガラスを割った音を耳元で聞くような、つんざく音が聞こえる。フアンは耳を塞ぐ。そして、声が聞こ始めた。
「ハロー、列車の横転から生き残った侵入者諸君、ご機嫌よう。早速だが、君らには是非とも……死んでいただきたい」
その声はこもっているが、鋭かった。
「我ら新・ミルワード軍は、この国をゼロから再建する。植民地人を優遇する愚民ども、あるいはその恐れのある者には……全て消えてもらう。青ざめた肉入りのフレシェット弾はどうだったかな?いくらか愚民どもが減っていればありがたい。我々は我々のための、我々による、我々のためのミルワードを宣言し、心に唱えている」
リンデが観察できないでいる間に、B班の兵士たちは一人を残して蒼騎士、あるいは死神になっていた。残ってしまった一人が、それらに小銃を構え震える。
「お前ら、やめろ、やめるんだぁ!!」
兵士は引き金を引けず、騎士によって切り刻まれ、バラバラになった四肢を死神が食らっていく。響き渡たる声は、まだ続く。
「潜入し爆発。乱した警備状況に乗じての戦闘行為、手に取るようにわかる……潜入は一人か?二人か?どうでもいい、私には近付けない。キサマらは諸とも今日、ここで、死ぬのだ!!」
またしても、筒から異物を引っこ抜いたような音が響き渡った。今度は廃屋が破壊されていく。揺れる下水道のなかで、C班は淀めく。
「……上で何かあったのか?」
「確かめに……いや、俺たちの任務はここを安全にしておくことだ。それに、ロードだっている」
「ロードだ?お前らのお偉いさんはお前らで守れ、俺は隊長のところに……」
色とりどりの兵士たちが口論になっているのを、ノイが感じた。ノイは拳で下水道の壁を殴り、崩す。注目を引いたノイは兵士をたちの手を取り、握手をさせた。ノイは身振り手振り、指差し、拳を付き合わせ、そしてバッテンをつくった。
「……sir」
「えっと……あぁ……ん?あぁそう、オッケー!!」
ノイは砲弾が兵器に装填されていることを確認すると、梯子を登っていった。兵士たちを、とんでもない勢いで首をふって、若干睨む。
「……sir」
「あの嬢ちゃん、言葉なしで世渡りできるな……」
「あぁ、しゃあねぇ……ロードっての、俺らで守るぞ」




