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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第六章 蒼之肉叢

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四話 ミートワールド

四話 ミートワールド


リンデ一向は亜人・獣人に船を任せ、港へ降り歩いていく。シャノンは、受け取った本を読んでいる。


「この暗号も、そのデボンダーデとやらと関係が?」

「デボンダーデのこと、知らないの?」

「ここ50年、ミルワードから北南、つまり西陸への国交は断絶していました。巨大なクジラのような蛇、リヴァイアサンと呼ばれていたそれが、海路を完全に塞いでいたんです」

「リヴァイアサンなら大丈夫よ。私たちとギムレーで、倒したから」

「えぇ!?」


シャノンは慌てながらも、落ち着いた様子にすぐ戻る。


「コホン、それは素晴らしいです。報奨を与えたいところですが、生憎と物資がなく……それと、この暗号についてですが、残念ながら僕では解読できません。軍関係の工廠がある場所に指南書を取りに行くか、あるいは相応の人物を探すしかないでしょう……」

「移動って、この肉だらけの島を?」

「あぁそうですね……作戦室に行きましょう。この島の現状をお伝えしてもらいます」


そういわれ、市場を突貫で改築したような場所に入る。


おそらく魚が吊るされていたりしたであろう場所。血が染み付いていたりもするが赤く黒く、青ざめた肉に比べて怖くはない。奥から、白髪で、肌の黒い女性が走ってきた。


「お嬢様!!」

「ムタリカ、すまないが彼らに現状の報告を」


少年はその女性に両肩を掴まれ、大きく揺さぶられる。


「あのですねお嬢様!!勝手に動かれては困ります!!港から船が見えたと報告にーが入った矢先に飛び出すなんて、王族らしくありません、子供ですか!?いいですか、あなたは暫定政府の一番上なんですよ 一 番 上 。 分かりましたか!?」

「……うん、すまない」

「あと管理してた拳銃が一丁ありません、持ち出しましたねひょっとして!?」

「……すまない」


その女性は睨みを利かせながらも、姿勢を正した。服は薄く汚れてはいるものの白くハリがある。下に着る緑の服と黄色い蝶結びの襟締めが目立った。


「おそらくあの船からのお客人ですね?私はシャノン様の側近、エセル・ムタリカと言います。以後お見知りおきを。現状の説明は、作戦室内で行います。それからそこの魔天教の方とお見受けいたしますがシャノン様、このお方もということで宜しいでしょうか?」

「彼も仲間だ、いいね?」

「かしこまりました」


通された部屋は、資料が山と積まれていた。長机の奥に、黒い板がある。ムタリカは白い棒を取ると、ミルワードの地図を描き始めた。


「……では、ミルワードの現状を説明していきます。王国の首都ペルガモを中心に急速に拡大した謎の感染症により、国内は混乱を極めました。ここスミルナは当時の市民と、居合わせた我々王家の関係者らによって、強固な防衛設備を建築。感染者を収容することなく、結果、現状唯一ミルワードの人間が生存している場所になりました」


リンデが手を上げる。


「感染症って……あの青い肉に関係あるわよね?」

「はい。あれらは動物に感染し急激に体積を膨らませ、あるいは膨張することなく身体が急速に変化、四肢をもつ怪物に成り果てます」

「モルモーンっていうベストロと、関係あると思う?」

「当初、そのモルモーンというベストロとの関係性も疑われたました。しかし国家として、カヴェニャック派の聖典を受け入れる訳にはいかなかった。そして、我々の聖典に記載されているある現象に準えて、この感染症はこう呼ばれています」


大きな黒い板に、白い棒で文字を書いていく。


【PALE RIDER DISSEASE】

「蒼騎士病。黙示録という、信仰が消え行く我が国において常々議論の対象になった、ミルワードの聖典に記載されていた世界の終焉と再誕の物語があります。そこに登場する死神の名前です。感染すれば蒼騎士……つまり死神になり、次の死神を作るためにただ動く。感染者は青ざめ、腫瘍ができ、そして死神が生まれる。そちらのおっしゃる、ゼナイドとモルモーンとの関係性は不明です」

「病気みたいに、近くにいるだけでも危ないんじゃ……」

「顕微鏡で調べたところ、空気感染は難しいと、国立の研究所が発表されました。同じような機関を持つ軍事施設からも同様に」

「顕微……いやいいわ、対抗策はあるの?」

「焼却による撃滅。遠距離で対処。皆様方は近接戦闘が得意とお見受けいたしますが、咄嗟の場合でもまず距離を空けて、できる限り銃撃で対応して下さい。感染源である青ざめた肉や血液との接触を回避してください。触れること自体で感染はしませんが、傷口や粘膜……目や口への干渉は危険です。港から外に出る場合、厚着は必須です。それは皆様方、大丈夫ですね」


フアンは、軍事施設という言葉が引っ掛かった。


「その軍事施設には、どうやっていきますか?」

「それは」


シャノンが会話を止める。


「それは僕から説明させてほしい」


黒板のミルワードの地図に、何本も線を描いていく。


「いま港内で志願兵を募って、物資調達の作戦を計画している。この鉄道を沿ってね」


ミルワードの国内において、南端の街まるで囲った。


「ここが今いるスミルナ港。そこから鉄道を介して一本直通、北東に向かうと王立研究所があるエペソ学院。そこから更に北上して軍需施設サルディス工廠、更に北上すれば首都ペルガモがある。王立研究所は植生に関する研究も兼ねていて、小麦や大豆、芋なんかの種が豊富に貯蔵されているはずだ、そこを確保して資源を回収。次に軍需物資と工廠を確保するために軍事施設を奪還する。そして北上、首都奪還……なんて、簡単に言ったが、つまり大がかりで場当たりの総力戦がある。君らには、すべての作戦に参加する意味があると思うんだが、どうだい?」


ノイは、頷いた。


「……私、やるよ」


フアンも頷いた。

「ですね、魔天教が生存している可能性がある以上、結局全部やらないといけませんし」


リンデも頷き、合意した。すると、シャノンがため息を出した。


「あぁ……凄いね君たちは。でも残念、この計画を実行するにあたって、もっとも大きな弊害が一つある」


ノイが首をかしげた。


「……実は計画を立案した数日後、機関車を操縦できるやつが感染してしまってね。現場検証の結果、どうやら空腹に耐えかねて釣りをして食べたようなんだ」


リンデが手を上げる。


「私、できるよ?たぶん」


シャノンは驚く。


「えぇ!?いやだって……えぇ、西陸の……」

「あのね、ギムレーに実は、密輸した技術で機関車走らせてたんだ。操縦技術は、そこで掴んでる」

「凄い、凄いじゃないか!!ではさっそく……いや、それに機関車の整備も行わないと……」

「たぶん、それもできるわ」

「はぁ!?……コホン、君、本当に女の子かい?」

「えぇ!?えぇ、まぁ……」

「あぁごめん失礼なことを……まぁ僕もよく言われるから……」

「あなたって……」

「立場は王子だけれども、実際は王女。部下には教えないでくれると助かります」


リンデは自分の事情を説明できることなく、作業に取りかかった。


フアンは各種の書類に目を通しながら作戦室を後にし、ノイは何もできず椅子に座って足をバタバタさせていた。シャノンが、香り高い飲み物を持って来る。


「紅茶は如何かな?お嬢さん」

「こうちゃ?」

「はい、この国の名物です。もっとも、この国では取れませんが……」

「なんで名物なの?」

「……お嬢さんには、少し難しいかと」

「いいよ、どうせ時間あるし、話してよ」

「お名前お伺いしても?」

「ノイ」

「ご苗字は?」

「……」

「……ではノイ様、お話しましょう。ミルワードの歴史は御存じですか?」

「……なんか、戦争してる感じ」

「そうです。技術で全世界を統べる力を手にした先々代からここ70年以上、ミルワードは、国々に戦争をしかける日々、ときには悪徳な手順を踏んで戦争中の国同士を共倒れさせ、支配件を獲得するなどして、その勢力を拡大してまいりました。紅茶や胡椒、嗜好品の数々から、兵士は、そうした国々で生産され、ミルワードに安く買い叩かれてきました」

「えっ……」

「この香り高い透き通った恵みは、血で染まっております」


シャノンは紅茶を一気に飲み干す。


「……他国の方に、飲ませてはいけませんね。いま思いあたりました、申し訳ありません」

「……ねぇ、一個聞いていい?」

「なんでしょう?」

「人間って、3種類しか人種ないって本当?」

「……そう捉える方もいるでしょう。ですが、人種という言葉は様々な意味で、実に多様です。家族、組織、村、街、国、思想、それらに該当するような、ヒトを何かに帰属させるモノの数だけ、人種とは存在するものでしょう。帰属意識が、人を囲い、育み、隔てるのですから」

「3種類じゃないんだね……」

「そう捉えても問題ありませんし、あるいは1種類と捉えることも可能です」

「……もう一個、あのね、みんなは亜……ベストリアンって、嫌い?」

「いいえ、我々ミルワード人は、ベストリアン、亜人・獣人を嫌ってなどおりません」

「あれ?そうなの?」

「とはいっても、ここ数十年で変わったことらしく、僕が生まれた頃には、ベストリアンという言葉も、消えていました。先ほどはそちらに合わせてベストリアンと呼称させていただきましたが……」

「なんで、嫌いじゃなくなったの?」

「植民地が増えるなか、国内で人種差別の問題が活発に議論される時期があったそうです。そんな流れのなか、ベストリアンはどうなのかという議論になった。そもそもベストロはこの世界に存在するのか、ベストロとか、哺乳類とは何か、ヒトとは何か、教えとは?宗教とか何か……そうした議論がなされていき、亜人・獣人はベストリアンという蔑称のあるだけの、ただ獣に似ているだけの部族なのではというのが、結論として出ました。その空気が国中に流れた結果、西陸に住まう亜人・獣人が、ただの被虐の存在という認識が生まれ、その認識は国中に広まりました」

「変なの」

「加害者こそ、もっとも被害者の心に寄り添える……そんな言葉を残した政治家もいます」

「なにそれ!?何か腹立つ、私より頭悪いよその人」

「はい、アホでした。そして消されました」

「……えっ?」

「ムタリカの住んでいた国で、消されました。その人物は、一方では人格者でありながら、自身の持つ土地での、少数派部族に対して高い税率を強いていました。犯人の供述は至ってシンプルでした。人を憐れむ趣味も大概にしろ。たったその一言を覚えているものも今では、少ないでしょう。搾取により潤い、平穏となったミルワードで起きた、弱者を憐れむ風潮を汲み取る形、あるいは加虐者としての相手の沈静化の手段としての、友好条約。そうした相応しくない形で彼女は、被害者部族の代表としてこの国に高給で登用され、私の配下になっております。彼女もきっと、本意ではないでしょう。僕に口うるさくするのは彼女だけですから、きっと怒りを込めて、国の代表として、私を、ミルワードを、叱っているのでしょう。この紅茶も彼女が入れました。毒や、青ざめた肉を浸した可能性もすてられない……やはり、お嬢さんには飲ませてはいけませんね」


シャノンは、そう言い残して作戦室を出ていった。

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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