三話 Hello
三話 Hello
さらに船を進めていく一向は、風を感じ始めた。ほの暗く景色を鈍感させていた霧が若干晴れ、仮面に取り付けられたガラスごしでも、光景が見える。
出迎えるたきっと白かったであろう塔、数々の船、遠くにそびえ立つ巨大な城。全ては青黒く、まるで肉にその表面全てが犯されているようであった。乗員の幾人かが、船側面に向かい嘔吐する。リンデが呼吸を荒くし、呼吸缶の音が響く。ノイが手を繋いだ。
「……大丈夫?」
「ノイ……凄いね」
「……ううん、でも止まるのは嫌。もう、ぜっったいに誰も失いたくない」
リンデは、ヴァルトのことを考えた。
「……うん、そうだね」
「あなたもだからね?」
「えぇ?」
「お願いね」
「……分かった」
リンデはノイの目を見ていた。フアンが遠くを望む。すると、錆びれた港の方が、点々と燃えているよう見える。
「……あれ、人じゃないですか?」
上で監視する亜人が声を大きくある。
「人間に見える。服装はまともだ、魔天教の服じゃない!!」
リンデは目を見開いた。
「生存者……!」
船は、その点々とした光に導かれるようにして、港へ向かった。
―城のどこか―
「誰か来たようだ……だがもう、遅い。私の勝ちだ。誰も、誰もこの私たちを引き裂けはしない……そうだろう、ゼナイドさん」
「……君は、私たちを恨まないのだね」
「少数派というのは、いつだって仲間じゃないか。仲間を疑う理由はないよ」
「……この国を追いやってまで、あなたは彼と」
「彼女と!!!!!」
「……っ!?」
「……彼女と、呼びたまえ」
「失礼を、ミスター……ミスター、プレイステッド」
―港―
リンデたちは港の、ギリギリ機能していそうな船着き場へ進路を向けていき、近付いていった。船着き場の奥から、近付くにつれて、そこには兵士がズラリと並んでいることも分かり、ギムレーと同様とも言えなくはない小銃を構えている。
船が船着き場へ着くと、兵士が囲った。フアンが隠れたので、リンデは話しかける。
「ねぇ、どうしたの?」
「僕の格好、魔天教に見えなくもないですよね?交渉、任せます」
リンデは、船から身を乗り出して、脳内で会話を組み立て、兵士の列の真ん中で指揮をしていると見える金髪の少年に話しかけた。
「あぁえっと……I have no intention of attacking. You don’t even have to put down your gun. But please hear me out.」【攻撃の意思はありません。銃をおろす必要もありません。話を聞いて下さい】
少年の手には、おそらく銃のようなものが握られている。
「……Je peux parler la langue d’Adrienne.」【アドリエンヌ語で大丈夫です】
リンデは、その少年の持つ銃を目にいれながら、恐る恐る話す。
「……お、おぉけぇ」
「アドリエンヌ訛りが酷い……いや、イェレミアス?」
銃口がリンデに向けられる。少年は、乗組員の亜人の持つ耳に目がいく。
「ベストリアンを使役……いや、服装の感じ、純粋に労働させている?全員、銃をおろせ、どうやら西陸とは違う場所から来たらしい」
「いえ、この船に乗っている人間、亜人、獣人、全て西陸が出身です」
獣人の1人が、少し苛立つ。
「一緒にすんな!俺たちはギムレー出身だ!」
「あぁ、えっと、ごめんなさい……」
少年は驚いた表情を見せる。
「その口振り、奴隷の契約などはしていない様子だな」
「そうです、私たちは仲間で……信じられないかもしれないですけど……」
「稀有ではある。だが、西陸にも心の平静な人間がいたというだけだ。そして、そんな人たちが何をしに来た?」
「……えぇっと、その」
ノイがフアンから渡された本を渡され、言伝も受け取る。リンデは、本を見せつけた。
「……この本に隠されているであろう、暗号を解読したい。ミルワードの技術なら可能だと思った」
本を船から投げ、少年が手に取る。中を開いて、所々に二重線が引かれているのを確認していった。
「……それだけか」
ノイがさらに、フアンから言伝を受け取り、リンデに話した。
「この島に、西陸の犯罪者、ゼナイド・バルテレミー及び、魔天教の残党が潜んでる可能性がある」
「魔天教は、ベストリアンの味方であろう。なぜだ?なぜ追いかける?」
フアンが船側に姿を表す。少年が身構える。
「構えろ!!!」
フアンは状況を理解し、リンデに言伝をする。リンデは大きく息を吸って話し始めた。
「……ゼナイド・バルテレミーは、人をモルモーンというベストロに変身させる術を持っている。我々は西陸で発生したデボンダーデという現象を、その知識があれば解明できると考えた。1人でも多くの命を救うため、ここにいる魔天教の信徒、フアン・ランボー氏は魔天教を抜け出し、その情報を提供してくれた。いまの魔天教に対する異様なまでの警戒度、おそらくこの島が、奴らに何かされたというのは明白だと思う。私たちの敵は一緒。だから、戦う必要は一切ない。お願い、信じて!!!」
少年がしばらく沈黙し、手を広げて上げ、兵士たちは銃を下げた。リンデは茶色い上着を脱いで1人、船から降りる。手を上げ、全身を一周相手に見せる。
「一応、ね?」
「そこまで先出しされてしまっては、交渉もなにもないですね……」
少年は、丁寧に、おそらくミルワードの上流が行うであろうお辞儀をした。
「初めまして、西陸並びにギムレーの皆様方。僕はシャノン。シャノン・プレイステッド」
「プレイス……!?」
「はい。父はアーサー、母はジュリエット。現ミルワード王国、国王陛下の第一子。そして現在、ここ暫定政府スミルナの管理主任を勤めているものです」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




