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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第五章 冷土戦々 二幕

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八話 ルイバルカ作戦

八話 ルイバルカ作戦


工場。ノンナはリンデと一緒に、工具を振り回すようにして淡々と機関車の修理に取りかかっていた。駆動部となる蒸気機関を取り分け、1つ1つの部品へ分解。損傷の酷いものは製錬し直して、素材としての質を担保していく。


「リンデ姉さん、一応だけど」

「部品は出来上がり次第組み上げるんでしょ?無作為性の原則、部品の完成度だけじゃなく、全体の性能も上下させるとか……意味分かんないわね」


リンデが配管を組み上げておると、途端に間接部がひしゃげる。全体としても多く歪んだ。


「あぁ……姉さん、劣勢引いちゃったね」

「私、何か悪いことしたかな……?」

「運がね……」

「機関車一両に、どんだけ時間かかるのやら……」

「気長に作り続けるしかないよ、これは」


ノイが鉄の塊を運び込んでくる。床に置いた瞬間、酷い地響きがあった。


「……ノイ、もっと慎重に」

「ごめんごめん」


ノイの鎖骨あたりから首飾りが垂れ下がっている。その飾りは、ヴァルトがギムレーび来てから着けていたものだ。


「……えっと、確かそれ」


ノイは、首飾りを指で撫でる。


「うん、ヴァルトの剣の、さや?にあった名前。ナーセナルの子が勝手に付けたんdsけどさ」

「……それが、みんなの旅の目的、ってことよね?」

「……うん、そうだよ。守れないもの、多かったけど」

「ノイ、あまり気負わないで」

「ううん、違うの。やっぱ、救った命も、ちゃんとあるよねって思って……ヴァルトも、そう思ったから、これを首飾りにしたのかなって思って」

「似合ってるよ」

「ありがと」


ポルトラーニンが工場に入ってきた。右手の甲を擦っていて、包帯が巻かれていた。リンデが向かう。


「初めまして、ポルトラーニン……さん」

「……初対面ではないがな。して、進捗はどうじゃ」

「……劣勢を、引きした」

「まぁ、これほど大掛かりなカラクリが相手じゃ。相応に時間もかかるじゃろう。しかし、あのリヴァイアサンというのは待ってはくれぬ」

「……また、あれが来るんですか?」

「いつかは知らんがの……」

「……急ぎます」

「修理はほどほどにして、作戦を立てる必要がある。リヴァイアサンは強敵じゃ、何せ飛び上がった拍子の波、それだけで街を壊滅させられるんじゃ。ここギムレーではまともに相手はできん」

「では、なおのこと機関車が必要では?」

「……何を言うておる。隣の工場にすでに出来上がっておるんじゃ。2両目がな」

「えぇ!?」

「作戦もすでにあらかた組み上がっておる。一度幹部が集まって全体の会議を行う。フアンくんとナナミとやらを連れてこい、ノンナもじゃ」


ポルトラーニンの呼び声に、耳を高く張って、尻尾を高速で振りながらノンナは走る。ポルトラーニンに接近した。


「ん、えっ、えっ、何おじいちゃん!!」

「よさんか、埃が舞う」


ポルトラーニンは、言葉とは裏腹にノンナの頭を撫でる。少々口元が緩んだポルトラーニンだが、姿勢を正して後ろに向き、出口へと向かった。


「では頼むぞ」


ノンナは大きく手を振っている。


「おじいちゃんだっけ、嬉しそうだね、ノンナ」

「……絶対、次は倒そうね」


ノンナは、声が少し低かった。視線の合うノンナとリンデ。ノイは話を聞いていただけだった、。自身に指をさす。


「……あれ、私は?」


リンデが振り返り、冷や汗が一滴流れた。


「あぁえっと、炭鉱で鉄を集めなさいって」


リンデの少々裏返った声は震えていた。ノンナが強くリンデの袖を引っ張る。


「えぇ、おじいちゃんなにも言ってないけど?」

「なっ!!私って……戦力、外……?」


ノイは落ち込む。リンデが近寄ってくる。


「難しいことは、私たちに任せてよ」

「……うん」


リンデはノイを抱き締める。慎重さでちょうどリンデの胸がノイの顔を包んだ。


「……い、息できない」


籠った声が聞こえ、リンデはすかさずノイを解放した。


「あっ!!その、ごめん」

「……いいなぁ」

「……えっ、なんで?」

「このくらいあったら、ヴァルトだってきっと……」

「……1つ聞きたいんだけどさ。ヴァルトって、大きい方が好きなの?」

「それは……分かんないけど……」

「……じゃあ、気にしなくていいんじゃない?恋愛対象……かはともかく、青野菜の一見で、ヴァルトがノイのこと、すごく気にしてたのは間違いないよ」

「……でも、私女の子じゃないっていうか。傷とか、避けてるつもりだったけど結構着いちゃってるし……腕、太い。肩もこう、すらぁってなってないし……爪だって勝手に汚れてるし、割れることもある。脚なんて太くて見せられないていうか、ふくらはぎも妙におっきいし、肌も乾燥してボロボロだし、そもそも顔が」

「ノーイ」


両頬を優しく叩かれ、言葉が止まった。


「悪いこと、考え過ぎ」

「……うん。ありがと」

「第一.そういうのが趣味っていう可能性だってある訳じゃん?」

「そんなこと……」

「えっとなんだっけ、あぁそう、【一対の旅人】。それに出てくる女性の主人公?強いんでしょ?ヴァルトが男の主人公だと思って、ね?」

「……うん、分かった」

「ははっ、なんか私、お姉ちゃんみたいだわ」

「リンデ、姉ちゃん?」


リンデは再びノイを抱き締めた。


会議室には、国の主要たる面々が勢揃いで座っていた。リンデ、フアン、ナナミはギリギリ遅れない様子で席に着くと、会議が始まる。長机の奥で、ヴァルヴァラが両肘をついて、手の甲と手のひらを合わせている。


「……ではこれより、リヴァイアサン討伐に向けての作戦会議を行う。ナタリア、まずリヴァイアサンについての詳しい説明を」

「はい」


真面目な表情でナタリアは、自身が担いだ大きな布を、まるで絨毯のように長机に投げ出した。転がって展開されていく敷物には、クジラと蛇が混ざったような、黒く巨大な化け物が描かれている。


「リヴァイアサン、ミルワードの聖典にのみ登場する、外見はクジラともいえる水中に生息するベストロ。聖典によれば、肉体は力強く、心臓は石のように硬い。腹は陶器の破片を並べたようで、背中には盾のような鱗が並んでいる。口には恐ろしい歯が生えている。くしゃみをすると光を放ち、その両目は朝日のようである。口からは炎が噴き出し、息は炭に火を点けるほど高温。海を鍋のように沸かし、深い淵を白い髪のような光の筋を残しながら泳ぐ」


ポルトラーニンが手を上げた。


「そこ文言通りのベストロである場合、海が高温になっていなければならん。実際に我々が目にしたベストロは、天に届くほどの長さをもった、黒々とした蛇そんlものといえる。記載と大きく違わんか?」

「えぇ、ですが、全体像から最も近しいベストロとなると、リヴァイアサンになるという結論です」

「便宜上リヴァイアサンと呼んでいるに過ぎんということじゃな。すまん、続けてくれ」

「リヴァイアサンによる海岸線上への被害は尋常ではなく、ジークヴァルトの故郷とされるハーデンベルギアは、大波に飲まれ消え去り、旧亜獣解放戦線・魔天教の幹部諸とも、船舶を一飲みにして壊滅させたと、西陸の人間方からの情報があります」


ポルトラーニンは、拳を強く濁り閉めた。


「……同胞がやられたという訳か」


フアンは、言葉の意味を考える。


(……そうか、魔天教は人類に対して敵対心を持っている。その点でいえば、ポルトラーニンさん率いる亜獣第一党とは、いわば味方同士)


ナタリアの報告は続いた。


「ハーデンベルギアを、旧式の地図から参照して土地面積を割り出しました。ギムレーと比べて一回りほど小さな農耕と工場の街。それが波によって破壊され、工業の盛んな都市で作られた規模の帆船すら一飲みにしてしまうことから。リヴァイアサンと戦うにあたってまず考えるべきものが、2つ存在します」


イェングイが手を上げて、答え始める。


「それについては私から説明させていただきましょう」


イェングイは、両腕を袖に入れる。


「まず第一に、波を警戒して、ギムレー近辺での戦闘は控えた方が宜しいでしょう。そして第二に、あのベストロの独壇場である水中から、あれを引っ張り上げる必要があります」


ポルトラーニンが資料を見ている。


「ハーデンベルギアで、波はどの程度の高さだったのだ?遠方で確認した限り、防壁を越えるほどのものではなかったが」


フアンがポルトラーニンを見る。


「今回ギムレーを襲おうとしたのは、飛び上がった衝撃による波です。ハーデンベルギアを襲ったのは、あの巨体全体で海を叩き付けることによって発生しました」

「……では水平線から、少なくとも防壁以上の高低差のある地形が必要じゃな?」

「……はい」

イェングイが壁にかけられたギムレーの地図の、ある箇所を指差した。

「ギムレーと、鉄などの鉱床が固まっているキスロータ湖付近の炭鉱を繋ぐ路線は、断崖絶壁の上に敷設されています。ここなら大波によって火砲が破壊される心配もありません」


ヴァルヴァラは、羽根の筆を走らせていく。


「なるほど、海岸線崖際を防壁と仮定して、固定の砲台や列車砲で固めての集中放火で仕留めるということか。だがそもそも、そこにリヴァイアサンを誘き寄せる必要がある。それをどうするかだ」

「えっと、それについて1人、ここに呼んでいる方がいます。そろそろ到着かと」


扉が優しく叩かれる。イェングイがそこを開けると、狙撃銃を持つ兵士がいた。敬礼をしている。

「パーヴェル一等兵、只今到到着したッス」


ナタリアが書類から目を離す。


「あら、この前の」

「あっ、どうも、お疲れ様っス」


ヴァルヴァラがナタリアに睨みを聞かせた。


「お前、また兄弟増やしたのか」

「違うわよ、逆に断られちゃったわ……で、何か作戦でもあるのかしら?」


イェングイの小言を受け、話し始める。

「えっと、俺が狙撃した、天使という存在に関して……なんですが、西陸の方々の見解では、あれらは全人類の敵である、という認識で宜しいでしょうか?」


フアンが肯定した。

「……ではもう1つ。俺が狙撃した天使は、ある生物?を所持していました。俺が5発狙撃したのを全弾腕で弾いたと思ったら、次の瞬間……天使は、その生物を殺害したッス」


場にいたナナミは、酷い既視感を覚えた。


「……ほぉ、やはりあの生き物ただの愛玩犬っころという訳はないようじゃな。パーヴェルとやら、話を続けよ」

「その生物が悶え、ピタリと動きが止まった瞬間……ベストロの波が、ここギムレーを襲いました」


会議室が、しばらく静寂に包まれた。ナナミが口をきる。


「……お主、あるいは妾と同じことを考えておるようじゃな?」

「天使は、ベストロを呼び出すことが可能ではないでしょうか?そしてその鍵は、あの小動物にあると、俺は考えるッス」


ヴァルヴァラはナタリアと目を合わせた。


「……ナタリア、その小動物とやらは」

「回収は無理だったわ、防壁の奥はヴァルトくんの放った炎で、ぜーんぶ灰だもの」

「……ナナミくん、先程の口振り。何か知っているのかい?」


ナナミが、自身刀剣に巻かれた布を張っていた。


「……あぁ。ハーデンベルギアでおった天使も同様に、その小動物とやらを殺害したんじゃ。途端、リヴァイアサンは現れ船を喰らい、南部からはベストロの群れが襲いかかった……推し量ることしか叶わんが……それでも可能瀬尾はあるじゃろうな」

「……つまり、天使は小動物を殺害することで、ベストロを操っている?」


ヴァルヴァラの発言で、ポルトラーニンが目を見開いた。


「……では何か?ベストロは天使に、操られていると?」

「……仮定を結論とするなら、そうなるな」

「たまったものではないわい。天使は、西陸におけるいわば都市伝説、聖書に登場する文言の、解釈の一部にすぎん。それが、確実に明記されておいるベストロ、奈落の怪物どもを操って、我々ベストリアン、そして人類を攻撃しておるじゃと?何1つ納得いかん、整合性もまるでないではないか。天使とはつまり天の使いっぱしり、神と同様の存在であろう、信仰対象こそ人類を追い詰めておるではないか、人間には何をもってそれを信じ、我らの先祖を虐げたというのだ!?」


ヴァルヴァラは書類を見る。


「……事実として、少なくとも彼らの故郷ナーセナル、オルテンシアの行動隊ここギムレー、ハーデンベルギアにいた魔天教に倒する敵対があったことは確実だ。事実だけは覆らない」


リンデが、空いている議席に座る。


「……それでイェングイさん。具体的にはどうするの?」

「天使から、その小動物を奪取しましょう」

「はぁ!?」

「……ノイさんの赤裸々に語ったものによれば、イェレミアスの外務省大臣が怪しいとのことですね?であれば、そこに潜入し、件の小動物を奪い取れ良いと考えます。小動物のもつ、おびきだす能力は、つまり戦闘における主導権の確保でありましょう。神出鬼没な相手に対して、毎秒警戒するなど不可能です。こちらからうって出るには、小動物の性能にかける他はありません」


ヴァルヴァラが、書類を置いた。


「仮におびきだすとしても、我々の兵器は火砲だ。一点に集中して射撃する必要があるぞ」

「……そこを考える必要があります」


突如扉が叩かれた。返事をするまでもなく、お腹を抱えるようにして、シュエメイが入ってくる。


「很抱歉打扰你,但是我可以发表评论吗?」【お時間いいですか?少しお話が】


イェングイが対応で駆け寄ると、若干の唖然と共に、振り返る。


「一物降一物【何事にも打開策は存在する】、主導権を握って変幻自在に戦い、事前に的確な見通しを立て、敵の無備を攻め、その不意を衝く。シュエメイ、港街育ちの意地を見せてくれてありがとう。皆さん、1つ良い案があります」


ヴァルヴァラが首を縦に降る。


「では……案はたった1つ。リヴァイアサンを……釣り上げましょう」


イェングイの言葉は、議会を進めた。

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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