一話 波動の先
一話 波動の先
振り降ろされた炎の剣の切っ先は峡谷を遠く貫き、雪が積もり凍える森が真っ直ぐにえぐれて燃えていた。隔たれたようなその森に、二名の白髪が存在する。付近には羽毛が散乱しており、片方は怒りを表し、もう一方は艶かしく、しかし佇んでいた。
「お聞かせ下さい、アマデア様。なぜここにおられるのですか……?」
アマデアは、黒い毛玉のような獣の死骸を持っていた。姿には、陶器のような模様があり、それらは西陸の様相はていしていない。こときれていてその頬は垂れ下がり、深い傷跡から血が吹き出ている。アマデアは、手に血液を多量に付けていた。
「閣議で決められていないドミニの使用は、主たる父に多大な負荷を与えるため厳禁である。そう決めたのは貴女だったはずです。だからこそ、ソル・フィリアは……あの子は貴女が手ずから!!」
その男は、拳を震えさせていた。
「ヴァーゴ・ピウス、次の命令です」
「アマデア様!!」
「至急イェレミアス帝国へ帰還し」
「そもそも、彼を殺せという指示も、我々の手で直に行えば済む話……しかし先程放たれ、シュエンウーを2体も撃破し、こうして森を貫いたあの炎……私の目が確かならば、あれは私に殺せと命じた、ヴァルト・ライプニッツではないでしょうか。アドリエンヌからの報告では、彼は雷を放てることに限定されていたはず。しかし現在、彼はもはや何ができるというのですか、いえ、何ができないというのでしょうか。あれでは、まるで……まるで主たる父と!!!」
「ヴァーゴ・ピウス?」
「シュエンウーが二体も存在すること自体、我々は聞かされていなかった!!!」
「ヴァーゴ……ピウス?」
アマデアの顔を見て、ヴァーゴ・ピウスが黙った。睨み付ける上からの視線、クマがあるようなほどに仰々しく末恐ろしい。アマデアは空を見上げ、手を広げた。
「イェレミアス帝国へ即時帰還し、外務省大臣として、早急に帝国内の混乱を抑えなさい。いつも通り、直接的ではなく」
「……間接的に……殺害の、対象は?」
「いま殺すべきではありません。ですが、もし何かあった場合……ユリウス・フォン・バックハウス、ならびにマルティナ・フォン・バックハウスは、始末しなさい」
「……彼らは、まだ」
「えぇ、あの襲撃を生き延びたようです。どうやら、解体されたナハトイェーガーの人員が、バックハウス家の守衛に残存しているとか」
「……了解、しました」
飛び立つアマデアの跡には羽毛が散見される。ヴァーゴ・ピウスは、少々うつろいた視線をアマデアに向けていた。
(ソル・フィリア、私はどうしたらいい?君の姉ぎみを、我々の長女を、私はどう思えばよい?彼女は本当に、君の命を助けたのか?だとして、ここのところの様子が気がかりすぎるぞ。今まで違和感こそあれ、アマデア様は我々の悲願のために奮闘してきたはず)
ヴァーゴ・ピウスは、えぐれて燃える森を見た。地面の中にある木々の根元から燃える炎が周囲に移り、また一本と灰を纏っていく。
(あるいは、最初から……我々の悲願など毛頭、眼中になどなかった、などがあり得る……というのか?)
ヴァーゴ・ピウスは、再び強く拳を握った。
(君の犠牲すら、最初から厭わなかったとうのか?あの者は、あるいは計画を邪魔立て……いや、この計画の首謀者は彼女だ。我々は騙されていたのか?)
ヴァーゴ・ピウスは握る拳から血を垂らす。
(点と点を、繋げる必要がある。全ては、主たる父のため……いや、申し訳ありません。きっと私は、ただ敵討ちをしたいのかもしれません。もっとも、敵が身内で、被害者こそもっとも彼女を身内としていますが)
両手を握り、空を仰ぎ見た。
(御許しを……我らが父、エノアウス様。しかし我らは、必ずや御身の悲願を成就させましょう)
ヴァーゴ・ピウスは、息をやや深く吸った。
「Exitus acta probat【結果は行為の良し悪しを証明する】」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




