十五話 Да пошел ты змея.
十五話 Да пошел ты змея.
「一気に仕留めるぞぉぞぉあぁぁ!!」
大蛇たちの死体、その間を縫うように走り込んでくるベストロらは小銃の火力に押し負けていき、ベストロの侵入経路が銃兵に囲われていく。ナタリアの背に、避難の完了をした住民たちが、列になって早足で向かってくる。ナタリアが兵士に指示を出していく。
「蛇の死体を退けて!!壊れた防壁から、住民を外に逃がします!!ポルトラーニンさんが防壁の上で、外にいるベストロを討伐してくれています!!波が、あるいはあの巨大なベストロが来るまでに、どうにかして住民を完全に、ギムレーの外に避難させます!!」
兵士の一人が近寄る。
「ナタリアさん、防壁の出口は他にも……それに防壁の上だって」
「それだけでは間に合わないし、防壁の上は戦場よ。防衛をするための構造、門なんて機関車をキスロータ湖に繋げる路線を繋いだ北側の一ヶ所しかない。北方ならまだしも、それ以外の住民の避難が終わらないわ。ヴァルヴァラさんの目算よ」
「獣人を配備して……」
「それには及ばないわ、ここにはあの子がいるもの」
「……あの頭巾を被った方ですか?」
大蛇が防壁に詰まるように死体を倒している。持ち上がった。
「……えぇ?」
ノイが一人で、少しずつ大蛇の死体を退かし始める。駆けつけた亜人や獣人の兵士や住民たちが総出で動かした始める。
「一人で大蛇を……」
「動かしてるわね。あれたぶん列車砲なんかより重たいわよ」
ナタリアの後ろから、兵士が走ってきた。
「防壁上の戦闘激化に伴い、負傷者が急増中です!医療部隊が対応していますが、避難まで持ち込めるか……」
「私が向かいます」
ナタリアが戦域に声をかける。
「医療に心得のある方は、下がって対応をお願いします!」
ノイが、背中合わせで援護するヴァルトを見た。
「ヴァルト、行って!」
「あいよ。お前ら、補給は必要か!?」
フアンが左手に付けた、破城釘をヴァルトに見せる。
「これ、強いですね」
「そらまぁ、ここの開発環境がすげぇだけだ。使い勝手は?」
「剣を出し入れできますし、威力も十二分、文句無しです。これに使う弾丸をお願いします」
「あぁ。ナナミ、あとイェングイは!?」
ナナミが前進し、重装歩兵の射撃をかわしながら、ベストロを切って回る。イェングイが下がってヴァルトに声をかけた。
「ナナミさんはとくにはないようです。妻の安否、お願いできますか?」
「あいよ」
ノイや住民によって開けられた防壁の外は、いまだ砲弾が降り注ぐ戦場であった。ナタリアが先行していき、少し遅れてヴァルトが下がっていった。
防壁上から、単眼鏡で海を、ポルトラーニンが覗いている。海は著しく荒れており、水平線が立ち上がり、一つの柱があるように、ひときわ大きな波があった。波の中から口を開けて、岸を全て飲み込もうとするような形相で顔を出したそれは、船の一つ二つは入るようであった。
(あれがリヴァイアサン……話によればミルワードの伝承の怪物)
ヴァルトが避難民の奥へいき、兵士たちが負傷者を避難させている団体へ混ざり、治療を開始しているのを見る。北部に向かうように並び、詰め込まれるようにして防壁に沿っている集団のなかを抜けていき、手前以降の軽傷者に向かっていく。ナタリアはさらに北部へ行き、ヴァルヴァラや雪梅【シュエメイ】の安否を確認しにいく。ポルトラーニンはそうした光景を見ていた。
(負傷兵含め、防壁外部への避難は進んでおる。しかし、この後、この後なんじゃ。ギムレーがどうなるのか。仮に防壁で波が止まった場合……ん?)
ポルトラーニンは、防壁の外につらつらと並ぶベストロとザションの死体を眺めながら、ふと山の割れ目を見る。いまだ赤熱した雪山はが見える。雪が溶け、飛び立っていき、暗雲が立ち込め、暗さが目立つ。湯気の立ち込めるそこに、蠢きが過った。ポルトラーニンは目を疑うようにして、再度単眼鏡を覗く。曇った鏡を越えてボヤけて拡大されるのは目と鱗に牙。ポルトラーニンが単眼鏡を外す。巨大で細長い舌が目に入る。その怪物の目玉は、いくつか存在した。赤い目玉は煙を越えて現れる。大蛇はギムレーを睨み付けるようにして見下し、先客に破壊され、窓枠から見下すようにすることはできないが、赤熱した峡谷に甲殻を擦らせ、玉歩する巨大な亀の怪物は、腕や脚を地面の貫くようにして歩く。
「に、二体、目……じゃと……!?」
その頭に位置する亀の様相を呈した蛇の頭は、やはり一まわり以上は大きく、亀とは思えないほどに長く首が伸び始める。
クジラを飲み込みそうなほどの顎を開けてると、脚に擬態した蛇たちは一様に、亀を地面に張り付け、逆間接の昆虫のように固定しはじめる。岩を砕き砂利を作る蛇の腹這いは赤熱をもろともしない。空気を吐き出し威嚇する5つの蛇の、恫喝のよいな空気の震えがギムレーに鳴り響き、次第にその体たちは強く、力むようの震え始めた。ポルトラーニンは、その亀が息を飲んでおるように思えた。そして防壁を破壊した、シュエンウーの攻撃を思い出した。
「ヤツめ、あの距離から!?!?」
空間を歪ませるほどの、斬撃にも見えるような波動の太い一閃が、山を揺らす轟音と共に届く。その通り道全てのベストロを音ですり潰し、ポルトラーニンの左手の視界にある防壁に届いて炸裂、火炎を伴わない爆発が防壁に、到底、穴とは言えないほどの大きさに破壊した。
付近に避難していた多種の亜人・獣人は、一つの悲鳴を上げることなく、山が崩れた後の木や石のようにして埋もれ、ひしゃげた。内部を構成するあらゆる石材や木材に、大砲や装填前の砲弾や兵士の残骸が、その破砕の勢いのままに吹き飛んでいく。
それらは勢いよく防壁付近から飛んでいき、街中に降っていく。避難の遅れた老夫婦などは脚を潰され、子供の手には親だった左手が握られ、乳母車の取っ手が海の方へ飛んでいった。防壁に空いた二つの隙の補填を残る兵士で足りるか、ポルトラーニンは吹き飛ばされながら頭に過るも、防壁の下は近かった。
目をつぶったポルトラーニンは次に目を開けると、重装歩兵に抱えられており、声が少しずつ聞こえてくる。
ヴァルトは多くの負傷兵の、その残骸の中に埋もれていた。無数に迫り来る防壁の残骸があった。全てが砲弾のようで雨のようで、その一瞬、全員が空を見ていた。大蛇たちの死体を超えて押し寄せるベストロは勢いが衰えることはなく、空の脅威を知らないでノイたちに襲いかかっていた。ノイは防壁の炸裂を、振り返って見る。顔は青ざめて、大蛇を捨ててしまう。その瞬間、フアンが叫んだ。
「ノイ、ヴァルトを!!」
ノイは、その瞬間襲いかかったベストロを、走り込んだ勢いで弾き飛ばした。踏み込んだ地面からは投石のように石材が吹き飛ぶ。風を切り裂き、人を飛び越える。いまだ落ちてくる石材や木材、それに押し潰される亜人や獣人、一切を無視してノイは、ただその茶色い羽織り物、灰色に近い髪の毛を探した。涙と震えを置き去りに、幾人もの死体を死に物狂いで踏んで、幾つか勢いでその四肢を千切るも、ノイは気付いていない。
「ヴァルトぉぉ!!!!!」
ノイは前方で、落石を頭上に控えたヴァルトを見た。頭巾が防壁の決壊の勢いで外れ、顔がハッキリと見えている。ノイは転びそうなままに、前傾姿勢のままで、そこに突っ込んだ。
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




