十四話 四岐大蛇【シマタノオロチ】
十四話 四岐大蛇【シマタノオロチ】
防壁に空いた大きな隙間から、4つの首は伸びてくる。
(まぁカッコ付けはしたが、しかし太いのぉ。音だけで分かる、もう骨から太い、どうしたら良いものか……)
ナナミは、耳飾りの鈴を鳴らす。
(……そう来たか)
脚を溜め、衝撃に備える姿勢を取り、長刀を持ったまま耳をふさいで、口を開けた。
「発射ぁぁぁ!!!」
ヴァルトの声に合わせた轟音と共に、大蛇の一匹の首が爆炎に包まれ、眼球が吹き飛び、落下した列車砲の横転した側に落下し抉れた。ノイはその根元付近からたった一人で砲身を担ぎ上げ、軋む音を奏でながら金具を強引に破損させながらも、ヴァルトの指示で照準を動かしていた。ノイは砲身を落とすと、無理な姿勢で操縦席に入ってっているヴァルトが頭をぶつける。
「装填急げぇぇ!!」
ノイは叩き込むように砲弾を装填し、再び担ぎ上げようと腰を落とす。力みながら、太い血管を浮き立たながら、砲身を担ぎ上げる。
「もっと上だ、ちょい左!!」
「分かっ……たぁ~!」
狙いを定めた大蛇はそれに気付き、首の高度を上げて急接近し列車砲の上から口を開ける。防壁の付近にある建物の屋上から飛びかかり、左手の腕あたりに固定した大きめの兵器を振りかざし、大蛇の、ノイたちから見て右側の眼球やそれら周辺を吹き飛ばした。大蛇は気絶し落下、砲口の目の前に来る。
「ぶっ飛べぇぇ!!」
ヴァルトの声と共に、砲口から極至近距離の大蛇は喉ごと吹き飛ばされ、骨の幾つかが弾丸のように吹き飛び、防壁に突き刺さった。砲身に肉や血液が飛びかかり、ノイもろとも酷く赤くなる。
「ノイ、大丈夫か!?」
「だ……大丈夫!!」
ノイは血と油で少し滑りながら、装填のために銃身を開放する。内部から極大の空薬莢を取り出そうとすると、砲身にこびりついた灰色の肉が、生焼けで、引き千切れるように出てくる。
「ヴァルトどうしよ!!なんか、変!!」
ヴァルトが確認に来た。
「くっそ、ぶっ飛ばした拍子に、砲身に野郎の血肉が入りやがったんだ!内部で焼けてこびりつてやがる……いや、だがいい、あと一発くらいはイケるはずだ!」
「あと一発……もう2発いけないの!?あと一匹は!?それにリヴァイアサンだって」
「まずは目の前の奴からだ!!ノイ、砲弾持ってこい!!」
「分かった、すぐ取ってくる!!」
ノイは地面を砕くようにして、風を叩き切るように走り去る。イェングイは、フアンたちのところへ着地した。
「……いやはや驚きました。ヴァルトさんは天才です。破城釘というそうですね」
炎輝イェングイは、腕に装備していた兵器をフアンに渡す。イェングイはその機構に目がいっていた。
「原理など分かりませんが、装填の操作手順がボルトの後退のみで可能です。政治局にいた私だからこそ分かる。この兵器の精密さは尋常ではない」
「ヴァルトは、ほぼ独学で特科礼装……西陸の最先端技術を再現したんです。それくらい、訳ないでしょう」
「では私も武闘にてその活躍に応えるとしましょうか」
フアンは左腕に破城釘を装着する。フアンは、固定具が腕の内側を邪魔していないのを見る。
(……これ、ひょっとして)
フアンは兵器ごと袖を振るように動く。回避のために片付けていた刀剣が両袖から出てきた。
(僕でも扱えるように設計してある。これならとっさの抜刀、近接戦にも参加できる……)
フアンは左手の刀剣を逆手持ちにする。砲撃の音が鳴り響く。大蛇の体や、周辺に群がるベストロがなぎ倒される。
「砲撃が復活した……!!」
ナナミが前に出た。
「ここの連中だって日々を戦い生きておる。じゃが、防壁を砕くほどの攻撃があっても、雑兵が腰を抜かさず再び立つとはの」
フアンは袖から銀粉の入った小さな袋を取り出して武器に振りかける。イェングイとナナミはそれを受け取り、自身の武具に同様にまぶした。
「僕らで時間を稼ぎましょう。奴の顔面にさえ届けば、破城釘で列車砲を守る時間はできます」
「では行こうか!!」
ナナミが、大蛇の後ろから迫るベストロの幾体を、すり抜けるようにして横に両断した。フアンと炎輝【イェングイ】は、硝煙とベストロを縫うようにかけていった。
炎輝が、牙を向ける犬のベストロを三節棍で打撃、頭部を吹き飛ばし、その胴体を回転蹴りで突き放し、ナナミの前方にいる幾体のベストロを転倒させる。ナナミは、飛びかかりながら地面と水平になり回転して、伏しているベストの腕や首を撥ね飛ばして前進、フアンは二人の後ろを離れず付いていきながら、大蛇の動きを見ていた。大蛇は大きく口を開けたのを見て、フアンは腰を溜めて構えた。
「攻撃来ます!!」
大蛇はしかし、口を閉じて、高度を上げて待機するようにする。ナナミは耳飾りの鈴を鳴らした。イェングイは大蛇の目線の先に、フアンの持つ破城釘があることに気付いた。
「フアンさん、どうやらその釘を警戒しているようです!!」
フアンは、奈落でベヒモスが一体だけ動かず、状況を見ていたことを思い出した。
(……ありえなくはない。でも、知性で優性を引くのだって、そう数は多くない!!)
フアンは、列車砲に駆けつけるように移動した、警戒する一体だけは距離を取るように動き、残るもう一体は睨むように接近してくる。フアンは左拳を強く握る。
(一体だけを引き付けて、損傷を与える。ノイはおそらく砲弾の回収に動いている。砲台に近付けて、照準を合わせやすくする!)
一体の大蛇がそこに突き進もうとすると、破城釘を警戒している大蛇がその胴体に食らい付き、胴から首までを持ち上げる。
「おいマジかよくっそ!!」
持ち上げられながら、縦振りに大蛇が大蛇を列車砲に叩き付けた。列車砲は地面とにめり込むようにひしゃげる。大蛇は腹部ありを噛まれたまま、今度は横に凪払うように動く。
「こんなの避けられる訳が……!!」
ヴァルトの後方から、大蛇を食らい持ち上げている大蛇の片眼に銃弾が何十と撃ち込まれる。振り向くと、ナタリアを先頭に小銃を構えた兵士がいた。集団で1つに固まり、単一目標である眼を狙った集団での狙撃。
「ヴァルトさん、お待たせしました!!」
眼球がえぐれ吹き出るように出血し、食らい付いていた大蛇が離されて列車砲の上に横たわるようになる。奥からベストロの幾体が現れるも、すぐの銃殺されていく。
前線に、走りこんでくる重装甲の歩兵たちが、ベストロの牙や爪を防ぎ、立ち、やたら大口径の銃で胴体を丸く開けるように近接で風穴を開けていく。ヴァルトはそれを見ていた。ナタリアが小銃に弾丸を一発ずつ装填しながらヴァルトに近寄る。
「コイツらって」
「あなたのご友人、ノイさんがコテンパンに叩きのめした重装歩兵たちです。過剰に鍛え上げた獣人の強さを遺憾なく発揮してますね」
「助かった、お前指揮官だったのか?」
「ポルトラーニンから一時的に」
ヴァルトは右手に手袋をした。指先には磁石が備えられている。
「リヴァイアサンはどうなってる」
「これらを討伐し次第防壁の外側へ全員を避難させます。この防壁なら、波の被害もそこまでに収まるでしょうし」
「列車砲がダメになった」
「ポルトラーニンさんが動いております。彼を信じて、今は……」
一体、素早く重装歩兵をかいくぐるベストロがいる。ヴァルトはこのに下げた刀剣に手をかける。ギムレーの小銃に酷似した鞘に付けられた引き金を引く。射出された刀剣は磁石付きの手袋により強引に起動を曲げられ、火花を散らしながら抜刀され、ベストロを両断した。
「前のよりは扱いやすいな、コイツは」
ヴァルトは鞘のボルトを交代すると、薬莢が排出された。手元から、弾頭の詰まっていない薬莢を装填する。
「ふふっ、良いところいただきました」
「くっそ、列車砲がねぇんじゃ砲弾もクソも……」
「そろそろご到着ね……さぁ、出番よ!!」
ノイがナタリアを飛び越えて参上、腕に抱えられた砲弾は2発。ノイは走ったままの慣性で列車砲に横たわる大蛇の正面に飛びかかると、その慣性を乗せ、片手で砲弾を叩き付けて突き刺す。砲弾の後方にある雷管を、腰に装備した戦棍を使って殴り、砲弾を爆発させた。ノイは爆発に巻き込まれ吹き飛び、片手に持った砲弾が飛ばされ落下、ノイはヴァルトの元に落ちる。ヴァルトがそれを受け止めた。
「何やってんだお前!?」
「だって、大砲なかったから!!」
「気張んなっつったろうが!!」
大蛇の頭部は半分以上吹き飛び絶命する。4つの大蛇はあと一体となった。ぬた打つように、吹き飛ばされ今だ脈打つ大蛇の、曝された筋肉の脈動に、押し寄せるベストロたちが噛みついた。
「マジで、アイツらどこから来やがった……!!」
「急に来たよね、ザションはどこにいったの……」
大蛇の残る一体の体が完全に入り込む。胴体が入りきるまえに討伐された3体のを押し退け、あるいは飛び越えてギムレーに侵入してくる。ナナミとイェングイは列車砲後方にいる重装歩兵の射撃に合わせて突撃し、乱れた戦列に飛び込んで、体格の大きな名付きのベストロなどの四肢を破壊して退却する。ナタリアのところに伝令が駆け込み、話を聞く。その後、ナタリアは指示を出した。
「前衛は後退を、防壁に沿う形に、ヤツを誘い込みます!!銃兵は大蛇や穴を起点に包囲を展開、ベストロを街へこれ以上入れてはいけないわ!」
進行を阻害しながら徹底して攻撃を繰り返すと、大蛇は首を高くしながらその体を捩らせながらヴァルトらに迫る。列車砲が大蛇によってすり潰される残る一体の大蛇の懐へ繋がる道を、ナタリアが見る。
「ノイさん、腹部に向かい弾頭を叩き込んで下さい!!」
「でも、それじゃ頭を!」
ヴァルトが、ノイの手の皮膚が焼けて捲れているのを見る。服は若干爛れている。
「ダメだ、お前死にてぇのか!」
「大丈夫、熱いだけ!!」
「それ、弾の種類は!?」
「えっと……なんか2番って書いてある」
「榴弾か……」
ヴァルトは、ノイの担ぐ砲弾の後ろに備わった、雷管に目を向ける。
「そこの兵士、銃貸せ!!」
「ヴァルト、どうするの!?」
「俺もいく。いいか、できるだけ真っ直ぐ、あと全力で、ヤツに向かって、向かってだぞ、回しながら投げろ!」
「……向かって回す……こう?なんとなく分かった!」
ベストロらが大蛇への進路を塞ごうとするとき、ナタリアの号令により小銃が掃射される。
「今よ!!」
ヴァルトを先行にしてノイが砲弾を担ぎ走っていく。近寄ろうとするベストロは銃撃で撃ち殺されていくが、数体痛みを伴っても突撃してくる。ヴァルトは左手で銃を持ちながら、右手で左腰の刀剣を、引き金を引きながら抜刀する。赤熱はこれまでの刀剣よりもさらに赤く、振り抜く軌道に赤が宿る。
飛びかかる幾つものベストロの四肢や首を、抜刀の勢いに任せて踊るように切断する。
「ノイ、投げたらすぐ離れろ!」
無作法で不細工で、叩ききるような最後の振り回しにより飛びかかるオオカミの名付きの個体が討伐される。そのまま刀剣を手放し、回転しながら腰を落として上向きに左手で、脇を閉めて抱えるように構える。
「いけ!!!」
ノイは足を軸に一回転し、腕や刀剣や首筋に血管を浮かばせながら、遠心力と筋力で砲弾を、軸回転させながら投げる。
腹部に向かっていき、弾頭が弾むようにしてその腹部に触れる。ノイが急速に反転し跳んで逃げ、ヴァルトの背に向かう。
ヴァルトは息を止めて白い息をなくすと、小銃の照門と照星の震えるのを抑える。銃床などの、射撃に必要な部位以外を木製で構成された小銃の引き金が引かれ、その反動がヴァルトの肩に当たる。
照準の先にある砲弾の雷管に命中、弾頭が撃鉄のように叩き、雷管から先の炸薬が燃え盛り、薬莢を加圧し、弾頭が発射される。回転がほんの少し乗り、貫徹力を持って砲弾が蛇の腹に食らい付き、少し貫通してから発破し爆散。
血に肉が雪崩れ、大蛇は体制を崩す。倒れてくるところに、フアンが飛び込み頭部に破城釘を構える。突き刺すようの叩き込まれた兵器は爆音と共に突き刺され、脈打ったような鱗や皮膚は、勢いのいい水のように収束し爆裂。頭骨を砕き弾け、だが損傷は少なかった。しかしその角度により、大蛇は防壁にもたれ掛かるように頭部と胴体の少しを寝かせる。
フアンはボルトを引っ張って装填を行い、再度構える。ナナミが耳飾りの鈴を鳴らすと、それを止める。
「下がるんじゃフアン!!」
「何を、今が一番!!」
「上じゃ上!!」
防壁の上では、ポルトラーニンの先導により、かき集められた砲弾や爆弾を一纏めにされ、登山用の縄のように長い導火線が繋がれていた。ポルトラーニンは、導火線に火をつける。
(列車砲が破壊され以上リヴァイアサンとやらの対処は後回しじゃ。波によりギムレーの大半は沈むか……じゃがそれでも生きねばならん。生きることはいつだって大変じゃ、じゃがの、だからといって投げ出すもの、ワシを産んで育てた、希望を繋ごうとした者らすべてに格好がつかん。択がないなら作れば良い、創作・開発とはちと言いがたいが、まぁ客に何も出さん訳にはいかん、そら)
兵隊たちが、ひとまとまりに縛り上げられた砲弾や弾丸の塊を押して、防壁の上から、大蛇の上に投下した。逆さまになって、著しく燃え盛る導火線が、大蛇への命中と共に内部の火薬を爆発させる。
蛇は空気をつんざく声を上げながら、胴体と頭を切り離すように爆散した。吹き飛んだ中からは胃液が吹き出し腸内が露になる。
「Да пошел ты змея.」【くたばれクソ蛇野郎】
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




