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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第五章 冷土戦々

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十三話 生臭い風

十三話 


脳髄がずり落ちる。欠けた頭部がぶら下がり、繋ぎ止めている筋肉がちぎれ、眼球が落ちた。防壁から見ても、距離は決して遠くない位置で止まっているシュエンウーの身体は、後方にそびえる山々を見せない。榴弾が全てを焦がし尽くし、塩が染み込み溶解させている。


焼け跡が収まる時、一個の分隊が小銃を構えて歩いてくる。


「久しぶりにこっち側に来たな……これは、あぁ酷い臭いだ」

「コイツらが現れる初めてから、俺たちはずっとここを戦場にしてきた。いまお前が踏んでるのが、土なのか雪なのか、肉なのかも分からねぇぞ」

「やめろ、さっき糧食を食ったばかりなんだ……あぁ帰りてぇ」

「報酬に飛び付いたばっかりにな……ヤツの死亡の確認なんざ、どうやるんだ」

「血流を確認しろだと、出血のしかたに脈がなければ、死亡判定だ。つか、さっき説明されただろ」

「もう喋るな、やつの目の前だ」


一個分隊は、シュエンウーの調査を開始した。フアン、ポルトラーニン、イェングイは外側から防壁に昇り、ヴァルヴァラやヴァルトたちと合流した。


ヴァルトは列車砲から降りる。


「お前ら、砲撃待たなかっただろ。大丈夫か」

「まぁ、このとおりです」

「何があった?」

「……ヴァーゴ・ピウスです」


ノイがヴァルトの後ろから現れた。ポルトラーニンは鎧を外し始めた。


「ヴぁー……それって!」

「はい、天使がいました。戦闘になり、危うく計画が……」

「おじいちゃぁぁぁぁ~~~!!!!」


ノンナが泣きわめきながら走っていき、鎧を脱いだポルトラーニンに飛びかかり抱き付いた。


「いぎでだぁぁぁ~~!!」


ノンナの頭を撫でるポルトラーニン。


「おぉおぉ、すまんすまん。じいちゃん、帰ってきたぞ~」


ノイが首を傾げる。


「おじ……えぇ?全然見た目違うよ?」


ヴァルヴァラがそれを見ながら、ヴァルトたちに寄った。


「まぁ、なんだ。あの子の機械いじりの趣味を、私より先に理解してくれてね、それっきりあぁさ。ポルトラーニンの方も、満更でもない様子で……中立派と亜獣第一派、思想が違って血統も違う、でも立派に子と祖父さ。私も雑には扱えないよ」


イェングイは、シュエンウーを見ていた。袖から、書籍を取り出す。ヴァルヴァラがそれを見ていた。


「……何か?」

「シュエンウーについて、いま一度確認をしておりまして」

「何か問題が?」

「一つだけ気がかりなのです。足元に向かったからこそ分かるのですが、あれは、何かおかしかった。地面を抉る、いや突き刺さるようにしたあの脚をたった一本吹き飛ばしただけで、ここまでの被害にできるでしょうか。亀はひっくり返っては死ぬだけの存在。陸に生息する亀ならば、足を地面に固定する爪なども相まって、安易には崩れないはず。この崩れやすさはもやは弱点、それが記載されていないのはおかしいのです」

「……まさか別の個体?」

「いいえ、類似するザションはいれど、ここまでの巨体はありえない。つまり、このシュエンウーは、書籍以上の弱さを秘めている……ならば、どこか強さを秘めている可能性も有り得る」

「……」

「それに、先ほどフアンさんからもありましたが、確かに天使というのは存在した。ポルトラーニンさんの機転がなければ、作戦の遂行は不可能だったでしょう」

「こりゃ勲章ものだな。制度こそないが、士気のためにもそういうのを……いや、今はそこじゃな……ん?」


甲羅の上に、羽の生えた男が一人。肩には、哀愁があった。兵士が小銃に単眼鏡がついたようなもので、しゃがんで腕で包むようにして構える。


「……誰かいます。脇に、何かを抱えておるようです。あれは……黒い、動物?」

「なんだ?」


ヴァルトが狙撃兵の方角に走っていく。


「抱えてるやつを避けて、狙撃しろ!!」


狙撃兵は、頭部に狙いを定め、呼吸を止めて、引き金を引いた。天使の頭部に弾頭が迫る。天使は片腕のみを振り、殴るようにして弾を弾き飛ばした。


「……はぁ!?」


狙撃兵は動揺しながらも、再び狙いを定めて狙撃する。しかし、続いて発射された4発も、同様の防がれた。


「……全弾、防がれました」


天使の片腕には、ひどく可愛らしい丸く、黒々として毛に覆われた、2つの目をくりくりと輝かせたものがいた。天使の脳裏に、言葉がよぎる。


【きっとお主はの戦いは、失わないための戦いではない。あるいは、自分を失うための戦いじゃ】


天使はため息をついた。


(機械のような、歯車に、きっとソフィーもなってしまっていた。我々の行為・命、すべてが部品だ。アマデア様は、あれほど愛していた、妹のように可愛がっていた、命まで助けたソフィーを殺した。私は何をすべきだった、命を引き換えにでもすれば良かったのか、本当にこれで良いのか……ヒトよ、私は妹の死という哀傷に、ここまで追い込まれている。君らの何倍も苦しんでいる、のかもしれない。ヒトよ、君らはどうして戦える……失う側になって分かった、この感情を、君らはどう……)


脳裏に、会話がよぎった。


「ヒトの本質という、大きな問いがあるとする。君はどう考える?ヴァーゴ・ピウス」

「……反骨です」

「おぉ、いいじゃないか。では、その理由の主軸はどこにある?」

「……彼らは、涙や血を通して悲しみを覚えてもなお、自らを奮い立たせて、もう失うまいと再び立ち上がります。そこにあるのは……愛?」

「美しい解答じゃないかヴァーゴ・ピウス。でも少し勘違いがあるかもしれない」

「……と、いいますと?」

「ヒトは、失ったとき、失ったと思うだけじゃない。怒り、憎しみ……そうおった負の感情も強く現れるんだよ」

「……しかし、そうであれば、学習と成長を繰り返す彼らに説明がつきません。彼らは、恨みに苛まれながら、部屋にこもって研究などをすることもできる。行動力を底上げする負の感情があっては、愚行を繰り返すだけの……」

「……では、それを踏まえてもう少し考えてみよう」

「……理性?」

「そうさ。人間は理性の元、努力を産出して利益を獲得し、欲求を満たす。愚かなだけで利益は出ないことを知った上で、恨みつらみの発生させる行動力なども踏まえて、すべて別の方向に向けその果てに利益を獲得する。そしてもう1つだ、その能力を活かすための能力は……?」

「……計算能力、あるいは、冷静さ?」

「ヴァーゴ・ピウス。君は家族のなかで最も優れた天使だ。彼女は云うまでもなく、ソフィーやレドゥビウスも、ハッキリいって不完全さ。ヒトへの理解度の足りなかったという、私の落ち度ではあるんだけどね。家族のために何ができるか、君なら私よりも、あるいは家族を大切にできると思うんだ。何かあったら、今の話のように、冷静になって、目的を定めて、そこまでの道を逆算していくんだ。ヒトのなかの、いわゆる賢人はきっと、そう動いていると、私は見える」

「……はい、父上」


天使は、息を1つ吸った。


(……アマデア、君はひょっとして、彼を恐れているのか?なぜ?計画の邪魔なのか?いや……冷静に、計算しろ。どう動けば、みんなのためになる?)


天使は、息を1つ吐いた。


(……そうか、少し、理解した。ならば私は、ここ、ここに至っては順じるとしよう)


片腕で、毛玉のような獣を抉り、握りつぶしていく。頭骨を握りつぶすようにして、次第に悲鳴を上げ始めると、フアンがそこに焦点を当てながら、耳を塞いだ。ポルトラーニンが近寄る。


「どうした少年!?」

(……これ、前にも……)


ヴァルトがフアンに振り向く。走り込んできた。


「……まさか、前と同じか!!」


「来ます。ベストロです。前と同じ音がしました。あの、街と……うぅ」


ヴァルトがノンナを抱えて操縦席に座る。


「砲身を逆向きに、海に向けるんだ!!」

「えぇ、なに急に!」

「来るんだよ、アイツだ!!」


少しだけあった海の風は止まり、しかし波だけは高くなっていった。水平線が盛り上がり、その波に見えたものは黒々として海面に上がってくる。

ヴァルヴァラはポルトラーニンに声をかける。


「リヴァイアサンだ……!!!」

「今じゃと!?しかしそれはあまりに……」

「列車砲の砲弾を至急配備!やつに対抗する……緊急避難を呼び掛けろ!!防壁の外側に、住民を集めるんだ!!」

「ダンチェンコさぁぁぁぁぁん!!!」


玄武シュエンウーの方角から、銃声が聞こえ始める。甲羅の周りから煙が立っている。


「奴らおかしい、蛇が、蛇が!!!」


一人の兵士は、横から凪払うようにして食い千切られ、両足が残った。大蛇は、その脚の根元から延びている。一個分隊は、腸などもろとも食い尽くされた。四肢が隆起し、尻尾のも含め、5匹の大蛇がそこで暴れ、一斉に防壁に向かってきた。


「……あれは!?」


亀の霊山を乗り越えて、昇り遠吠えをする黒い絨毯、すべてが哺乳類の形を成している。


「ベス……トロ、だと!?」


ヴァルヴァラは防衛隊に指示を出し、攻撃を開始させた。


「銃兵、砲兵は撃ち方を継続!!砲兵は、飛翔する敵には散弾、榴弾の効かない相手には徹甲弾だ!!近寄る雑魚どもはすべて小銃に任せろ!!榴散弾は効かないものと思え!!絵付きを最優先で叩け!!」


砲弾の爆発が甲羅・隆起した土砂を埋め尽くし、戦場は再び出来上がり始めた。雑凶の量をはるかに上回る量を有していた。兵士たちは、手持ちの弾薬を尽かす者が増えていく。補給が入り、その度にベストロの前線が上がり、防壁に近寄り始めた。


「近付けさせるなぁぁ!!」


ヴァルトたちは、経験したことのない量のベストロの波によ戸惑いを見せる。


「……んだこの量は!?意味わかんねぇぞ!!」

「お兄さん、ベストロって、こんなくるの!?」

「こりゃ不味いな、第一、第二、第三次のデボンダーデ合わせても、つりが来る規模だ……名無しだけでも、銃弾の数より多いんじゃねぇか……!?」

「どうしよ!?」


操縦席に鈍い音が響いた。ヴァルトは操縦席を離れて列車砲を降りる。大地を埋め尽くベストロの大群に向かって、右腕を伸ばした。力むようにし、小言を挟み、頭をかいた。


「……なんでこういうときに、言うこといかねぇんだ俺の身体はぁぁ!」


ノイが砲弾を担いで壁を上ってきて、ヴァルトに接近した。


「ヴァルト、砲弾持ってきた!!とりあえず、えっと、そうてんしておく!!」

「見ろ」

「あれ、ベストロ!?なんで!?何この数……!!」

「くっそ、海からはリヴァイアサン、陸からはベストロの軍勢、シュエンウーの正体は蛇の団子野郎だった、まだ生きてることになる……逃げ場もこの軍勢相手にじゃ無理だ。片付けなきゃならねぇ……くっそ、全部だ、全部が……足りねぇ」


ノイが列車砲に装填を完了させる。重心を安定させる重りが持ち上がり砲身が回転。リヴァイアサンが来る方角に向けられた。ノンナが列車砲の操縦席からヴァルトに顔を覗かせる。


「試作で作って倉庫にあった翼付徹甲弾、精度はまったく保障できないけど、ここから撃ち込んでみる!!」

「……それで止められそうか!?」

「水平線が波打ってる。なんていうか、本当に効果あるのかなぁ……」


ノンナの声が震えていた。ヴァルヴァラが操縦席に乗り込み、ノンナの点火装置を握る手を、身体ごと包んだ。


「大丈夫、ノンナの作ったこと大砲と弾丸なら、きっと上手くいく」

「お母さん、でも射程が、あんな、遠くからでも分かる。あんなおっきいの、どうやって……」

「……」

「お母さん……?」


ヴァルヴァラは、黙ってノンナを包んでいた。その手は深く包まれ、鼓動の早さをノンナ伝える。


「いやだ、いやだ、ここでみんな、終わっちゃやだよ……お母さん」


ダンチェンコの嘆きが周囲の兵士の耳に入り、兵士たちにも伝播し始める。銃弾の精度が落ちていき、倉庫に埋まっていた粗悪品の弾薬も引っ張り出し始めた。精度は悪化し、さらにベストロたちの進行が産まれる。防壁の内部では、ナタリアが先頭に避難を進めていた。


「皆さん、海岸から離れて下さい。ベストロらしき存在が接近してきています!」

転ぶ子供を抱え、ナタリアは頭を撫でながら、防壁を見上げた。


(……私、なにもできないわね)


ヴァルトが小銃を修理していると、ポルトラーニンが近寄った。


「……身体が、言うことを効かないというのは?」

「……俺は、なんつうか、えっと……雷を落とせる」

「何を言うておる」

「任意で爆発を起こすことだってできる……いや、できた」

「今はできん……と?」

「お前以上に、俺は、俺に驚いてんだ。くっそ、いまできりゃあリヴァイアサンにでも一発デカイのぶちかまして、いや海にでも雷撃かまして焼き殺せるっつうのに!」

「できんことで頭を回すな!まずはできることからやれ!」


ヴァルトは、あきらかに苛立っていた。頭をかいて、周囲を見渡す。フアンは小銃を手に射撃を繰り返していた。ノイは防壁を降りて、砲弾を取りに行く。下方に降りる寸前、ノイはヴァルトを見ていた。目を細めながら、階段を降りずに、落下を手すりで吸収しながら降りた。落下先で、ナタリアがいた。ノイが砲弾を担ぐ。


「どうにか、できそう?」

「ごめん、私は頭が悪いの」

「そうよね」

「頑張る。それだけしか、できないから」


ノイは熊の獣人のような大きさの砲弾を担いで、階段をかけていく。


ヴァルトが腕を伸ばして、ポルトラーニンと話しているとき、大蛇たちは、その空っぽのはずの甲羅に戻り、四肢に擬態して歩行を始める。


「あいつら、何してる?」

「いまだ進行を止めんということじゃろう……じゃが地面ごと落としたんじゃ、あの巨体では、首だけを出すので精一杯じゃ。書籍にも、奴の攻撃手段は記載されておらん」

「あの蛇のこともか?」

「……」

「少なくとも、ザションに関しちゃ書籍は関係ねぇ……そりゃベストロもそうだがなぁ……」

「奴を見ておけ、ワシは下がった士気を上げるにいく」


ヴァルトは防壁で、周囲の砲弾の人員を覗いては、一人になった。腕を伸ばし、怒りで震えた。

(……できない、できない、できない、できない!!)

(ヴァルトくん、大丈夫か。慌てるのも分かる。私も同感だ……だが)

シュエンウーはゆっくりと動き、抉れた脳髄をさらけ出しながら、首を地面に載せる。防壁を望むようであった。

「……」

ヴァルトの脳裏に、シレーヌがよぎった。首のない状態で叫び、前線を崩壊させた瞬間だった。


シュエンウーからの軋むような音に、蛇が威嚇するような声色が乗る。目がずり落ちた頭部の、亀なのか蛇なのか分からない頭部の、原型のあまりない口膣が開かれる。鯨が飲み込めそうなほどの開口の一番は、硝煙ごとその大気を吸い込む。軋む音は激しくなっていき、そして甲羅は膨らむようになり、硬化した皮膚の切れ目ともいえる場所がはち切れ、血が流れる。吸いすぎた呼吸を溜め込んで、開口は更に広くなる。縮こまっていた頭が飛び出るようにして、いまだ空気を吸い込む。大気の流れはそれに向かい、ヴァルトの髪がその方向に揺れる。


生臭い風を溜め込んだシュエンウーは、急に立ち上がり角度を斜めにし、防壁の中央を望む。はりつめてはりつめて、逆上にして激発させたその空気を、波動のように、大地を穿ちながら、差し込む光の速さで吐き出す。波動のように空間を捻り、歪む。その歪みが防壁と衝突し、青さのかかった防壁の中央を土台ごと粉砕した。揺れる防壁から、揺れる空中にさらけ出される大砲、小銃、弾薬庫、機関車、列車砲、線路、肉塊。何人を発破した肺活による空気での波動の大砲が命中し、防壁の数々が内側の住宅街などに落下し、家屋が崩壊し炸裂し、避難中の亜人・獣人を骨の原型ごと砕き、そうして何百という命が失われた。フアンは防壁の上で、中央よりだったヴァルトが機関車ごと吹き飛ばされ、落下していくのを目撃する。


「ヴァルトぉぉ!!!」


ヴァルトは内側に吹き飛ばされ、回転し、地面が遠いのをみる。


「……はっ?」


幾人もの亜人・獣人が巻き込まれ、防壁上から吹き飛ばされ、その多くは形という形をしていなかった。理解の追い付かないなか、その眼前にノイが迫る。


抱き抱え、およそ生きられるとは思えない高度から落下し、ノイは足腰の丈夫さのみで着地した。


「ヴァルト、大丈夫!?」

「……おい、壁は、壁はどうなった!?」

「下から崩れるとかじゃない、一面丸々、吹き飛んでる!!」

「フアンは、ノンナ、ヴァルヴァラは!?」

「分かんない……けどきっと大丈夫。ヴァルト、とりあえず降ろすよ」

「壁が抜かれた……やつらが、ベストロが入ってくるぞ!!」


ノイの眼前には、地面から抉れて、吹き飛ぶかのようにしている。削りとられ、完全に砕け破壊された防壁の一面。そのそばに、列車砲は投げ倒されていた。砲身はひしゃげ、砲台の部品が散らばり、鉄材の筒上の取っ手がひんまがって、ヴァルヴァラの脚部を貫いている。ノンナが加圧して止血をしながら、ヴァルヴァラを処置している。自分の服装を破いて傷に押し当てながら、懐から金切りノコギリを取り出して、少ない力け削っていく。


「お母さん、大丈夫、私が!!」

ヴァルヴァラのうめき声をかご付け、崩落した防壁の煙の外から、ヨダレを垂らすならず者たちが、足並みを揃えることなく来た。大砲の音は、一発も聞こえなかった。喚くのを堪えて措置を施すノンナに向かい、何つという数のベストロたちが襲いかかった。


「い、いやぁぁ!!」


落下の衝撃をいなすように垂直で、槍を突いてベストロを一体討伐し、着地とほぼ同時に刀剣変形して一挙動で5体の名無しのベストロを片付ける。


「ノンナさん、状況を!!」


フアンが駆けつけていた。ノンナは、鉄材を切断し、ヴァルヴァラを動かせるようにして、列車砲の操縦席からヴァルヴァラと出てくる。


「お母さんが怪我した!!自力じゃ歩けない!!」

「ナタリアさんの所へ運んで下さい、空中から、臨時の避難所を設営していたのが見えました。ここは僕が!!」


フアンの元に来るベストロの強さは増していき、名付きのベストロが現れる。巨大な熊のベストロ、人数人ほどの高さを持つ羊の獣人に似たベストロ。


「サテュロス……!!」


サテュロスは狼のベストロをわしづかみにして振り回し、フアンに叩きつけた。片足の軸回転でよけ、叩きつけの拍子に下がった首に向かってきた2つの刀剣を突き刺し引き裂く。サテュロスは倒れるが、側面から が口を開けて襲いかかる。飛びかかった瞬間に懐へ飛び込んで、刀剣で腹を引き裂きながら後ろを取り、槍に変形して高跳びし、背骨を歩いて頭部を狙う。そこに、何体ものトリやコウモリの名無しのベストロが襲いかかる。フアンがそれに対抗すると、が身体を揺さぶりふるい落とされ、腕でフアンを叩きのめし、吹き飛び、家屋にめり込んだ


「いったい……でも、まだ!!」

フアンの前に、サテュロスが両足で立って爪を尖らせる。


「くっそぉ!!」


頭上から、は真っ二つに割れる。


「……!?」

「ようやと妾の出番じゃと思ったが……これはちとキツイか、何があったんじゃ」

「ナナミさん!?シュエンメイさんの護衛は!?」

「知らん、とっとと行け!!と言われてしもうてな。存外、あの婦人は胆力があようじゃ」

「ですが……!!」

「阿呆、まず立ち上がらんか。そしてなんじゃこの音、ショロショロ言うておるぞ」


幾体ものベストロの先に、4体。大蛇が入ってきた。鉄の軋む音が聞こえる。


「……妾の知る蛇の伝説は、頭が八つあるんじゃ。それと比べればまぁ4つほど足りんし、海の奴も合わせて首は五つ」


ナナミの長刀の白布がほどかれ、輝く。上段で突きを構えるようにして、手を添えて呼吸を整える。


「……あなどるなよ?」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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