U?n?j?o話u断r片1+一話 帰還
U?n?j?o話u断r片1
「人はいずれ、自由を求め始めるのだと、レルヒェンフェルト家は常々思ってきた。それは……はるか昔、聖典教が二つに分かれ、片割れが海を渡ったときから考えていることだ。大地という父、文化という母に産まれ、国境線という敷地内に立つ社会という家で育つのが我々であり、その家たる社会とは、睡眠・食事・繁殖を半分自動化するための装置でしかない。巣立ちは息する者の定めであろう。特権による支配も確かに恐ろしいものだが、自由を手にするというのも存外、恐ろしいものだと私は考える」
「いいえ、自由は素晴らしいものです」
「そうだとも?自由とは甘美だ、まず輝いてみえる。悲しみも憎しみも、この言葉からは想像もつかないだろう。しかしそれはそう見えているだけであり、刷り込みや憧れによる色眼鏡の影響が大きい。自由により振りかかる苦難や代償、それらに焦点が当たらないようにしたい誰かが、いつの時代にか、そのきらびやかな印象を今の時代にまで植え付けたのは、残忍であることこの上ない」
「自由は、人類の敵であると?」
「自由は人類における薬である。過剰に取れば毒になり、しかし飲まなければ身体の調子は狂ったまま死に絶える。人は元から歪で、その価値が虚数まで振り切ったものを、自由という薬で水準まで戻すのだ」
第一話 帰還
薄い羊毛の髪色をした青年は、二匹の馬で引く幌馬車に仰向けで、所々破れた帆布からの冬入りの風と暖かさすら感じる日差しを浴びながら眠る……震えていた。
(si……g)
「誰……だ」
(si……g……)
「やめろ……やめろ……」
(lin……)
少年は夢から意地で覚め、直上の虫食いから来る日差しを寝起きの眼に食らった。
「まっぶし……」
「大丈夫ですか?」
馬車を操る黒頭巾はその奇っ怪な仮面の内側から、そよ風と戯れながら空に筆を振るうような声を放ち、少年に話しかけた。
その仮面は砂塵などから目を守る役目と、毒素を体に入れまいとしている様を有しており、顔を完全に覆っていた。木製の車輪が緩やかに回り、こぎみ良く馬の歩く音がする。
「あ~、昼かぁ」
「あの悪夢ですか?最近はあまり見ないって言ってませんでしたっけ?」
「ん~……」
「また昔みたく毎晩見るとか……」
「ありゃキツかったなぁ」
「ヴァルト……」
「お、なんだよ気遣ってくれてたのか。大丈夫だ、あん時みたく気が狂うこたねぇよ。あ、そういや……」
ヴァルトは、荷台に積まれている箱から小さな木材の部品や紐を取り出した。
「アイツらにオモチャ作る約束して……今、それを思い出したわ」
少し笑いながらも、丁寧に、入念に、ヤスリの加減や加工の程を確認している。
「託児所の子らですか?」
「そうそう、あと今日誕生日のヤツいるだろ?」
「ミアちゃん!」
「そうっ」
ヴァルトは背伸びをする。
「ん~それ用のも作らねぇと。こんなクソったれな世界だ、ちょっとでも幸せは稼がねぇとな」
「それと……」
「ん?どした」
「ノイ、には何か……」
「はぁ?アイツ俺と歳変わんねぇだろ」
「あぁ~……そうですけど、そうじゃなくて、ほら、久しぶりに3人揃って会える訳ですし……それにきっと、寂しい思い、を……」
理解不能そのものといった表情をヴァルトは黒頭巾に見せた。
「何で」
「あぁ……いえ、はぁ……」
「どうしたフアン、疲れたのか?手綱変わるか?」
「いいえ……」
ヴァルトは荷台でフアンに背中を向け、下を向いて作業をする。ふらつきながらも、慣れた手付きでオモチャを完成させていく。フアンは馬の速度を落とした。
「ヴァルト、間に合いますか?」
「ガキんちょを待たせる訳にもいかねぇ、速度は落とさなくて良い、飛ばせ飛ばせ、気遣いどうも」
荷台に固定された木箱、納められた道具、樽いっぱいの食料に水や酒が揺れる中、ヴァルトとフアンは、彼らの住まう所へ帰っている最中であった。
ここまで登り通りすぎた背景は、花や草木、木々のせせらぎに、焼けた家や人の残骸。ヴァルトは作業をしながら打ち捨てられた小屋と、転がる布などを見る……手が止まった。
「50年前……か」
「べストロ復活……突然だったらしいですね」
「酷い時代に産まれたもんだなぁ、俺達はよぉ……」
「今は一部を除いて、あまり遭遇しませんよね」
「分からねぇな……」
「べストロがですか?」
「全部だよ、この今の西陸の全部。教皇の祈祷で数が減ったって話とかまさに……なんつうかなぁ。まずそもそも、べストロってなんだよ」
「太古の時代に奈落へ封印された、僕みたいな亜・獣人みたく、ホニュウ類に似ている化け物……」
「奈落って何だよ」
「この大地の下にあるとされるもう一つの大地……」
「なんつうか……嘘っぽいっつかさぁ」
山を少しずつ登るような道、その脇を木々が締めている。ヴァルトは上を見上げ、それらの枝から見える空を見つめた。
「胡散臭い、よな」
「気にしすぎるくらいが丁度良い、じいさんの教えですね」
「なんで俺、寝てたんだ?危ないだろ」
「自分で言うんですか?まぁでも、僕は耳が良いので、奴らに出くわしたら馬を飛ばして叩き起こせますけど」
馬車の前の下り坂をまっすぐ、盆地に見えるそこに寄せ集まったあばら家が見える。
「ナーセナル、到着です」
ほぼ直上から照らす太陽が、乾いた空気をほんの少し暖めながら、眺めにある山々の草木に光を浴びせている。
山々とその間にある彼らの帰る場所を一望できる様をフアンはその仮面越しに深呼吸をしながらじっくりと堪能するが、未だにヴァルトは後ろを向いて作業をしている。
「まだ着いてねぇだろ」
「景色、見ないのですか?」
「絶景ってのは、技巧にまみえるんだよ」
「全く……風情がありませんね」
「悪いか?」
「いいえ、ヴァルト技師」
「あいよ」
「でも、技巧にま見えるって、本か何かの言葉ですか?似合いませんよ、あなたは言葉使いが荒いんですから」
「うるせぇ」
「ほら」
森に通る坂道を下っていく荷馬車は、小石を踏みしめながら進む。
「ノイ、今何しているんでしょうね?」
「知らねぇ、普通にガキんちょ供と遊んでるんじゃねぇのか?」
「あ~、ありありと浮かびます」
「それか普通に」
木々のせせらぎに混じる、確かな恐怖。揺れるではなく押し寄せるような、静かな殺害を包んだ、枝を折る音。
「ヴァルト、荷物を!!」
「あぁ!!」
恐怖を引き金に、馬を弾き飛ばすほどの速度で走らせた。荷物は固く固定されているが、それでも激しい揺れに耐えられるかは不明なほどだ。馬の上がる速度を超えて、森を何かがかけてくる、荒く低く……そして怒るような叫びが、深緑を貫きヴァルトらに届いた。
ヴァルトは木箱から剣に見えるものを取り出したかと思えば、柄の機構を起動し変形……刀身を矢を置く座に見立てた弩に見えるそれに矢をつがえた。
「馬車の左に2、右に1、後ろに2!」
「近けぇのは!?」
ヴァルトは剣に見えた弩をいくつか、弓をつがえて用意し、両手に2つ装備、残りは相手のいる向きに合わせて彼を中心に並べた。
「左です」
ヴァルトは半身になり左に武器を構えた。寸の静寂は、始まりの合図であった。
足音は蹄と車軸の調律を越える拍子で迫り、過ぎる木陰から二匹の猪らしき化け物が同時に現れた。全身の赤黒く紫な皮膚や毛……巨大な二本の牙などには血がこびりついており、口を大きく開けながら突進してきた。開けられた口には無数の犬歯が生えており、雑食の生物であるとは思えず、もはや肉食のそれである。
ヴァルトはその口に向かって右手の弩で矢を放つ。撃たれた猪らしき化け物は、痛みで体勢を崩し転倒した。続く二匹目を撃ち抜こうとする瞬間、馬車の右から狼に似た化け物が間髪を入れずに襲いかかった。
「はいはい!」
ヴァルトは左の猪に左手の弩で狙いを定めながら、右手の弩の剣先付近にある部品を歯で噛みながら剣先から引き下ろすように引っ張り剣に変形、猪に見えるそれに射撃すると同時に体を回転させ、遠心力と腕力で振り向き様に剣を投擲し狼に突き刺した。負傷で怯んだ隙にヴァルトは左手の弩を床に起き、装填済みのものに持ち変えて後方の猪らしきものに両手で射撃、どちらも命中するが倒れない。再び持ち変えようとしたときには狼らしきものが立て直し、今度は馬に飛びかかった。
ヴァルトは持ち替え様に1発を撃ち込むが既に飛びかかっており勢いは止まらなかった。
「やっべ!」
「来ましたね!?」
フアンは袖の中から例の剣を取り出し、鞍の付いていない馬に飛び乗る。
「そっれ!」
飛びかかりの力を利用して喉を刺し絶命させた。
「よし!」
ヴァルトは残る1発を残る猪のうち片方に命中させ転倒させるが、残るもう1頭が急接近してきた。ヴァルトは足元にある弩を次々に持ち替えながら矢を放つが止まらない。
「コイツ死なねぇぞ!」
「優性の個体……!?」
「かもな、やべぇ!」
ヴァルトは咄嗟に変形させた剣を投擲するが、猪らしきものは牙でそれを弾いた。
「弾きやがった!」
「ヴァルト、ナーセナルまで行きましょう!」
ヴァルトはひたすら矢を放つ。
猪らしきものは攻撃によって確実に速度は落ちているが、しかし距離を離せないままであった。そして、ナーセナルと呼ばれる場所が鮮明に見える地点までヴァルトらは来た。
「まだ着かねぇのか、もう矢ねぇぞ!?」
「見えてきましたよ、もう少しです!」
猪らしきものは力を振り絞るように血反吐と共に叫びながらヴァルトらの馬車に突撃し、浴びせられる矢をまともに受けながらも、ヴァルトらの馬車に突っ込んだ。
「おいおい!」
化け物がめり込んだことで、速度は低下する。ヴァルトは衝撃で崩れるが、体勢を立て直し剣で猪らしき化け物の目を抉り、鼻を落とし、背中に飛び乗って滅多刺しにしていく……離れようとしない。更に後ろから、撃ち漏らした猪らしきものが迫ってきた。
「後ろから来ます!」
「増えた!?いや、諦めてねぇって感じか!」
「ヴァルト、何かありませんか!? 油をかけて燃やすとか!なんとか引き剥がさないと!」
「油も、石炭もぉ、可燃物1個もぉ!積んでねぇぞぉぉ!」
剣を刺す拍子に叫ぶように会話をするヴァルトを睨みながら、猪らしき化け物が一段と迫ってくる。
「聖典にゃ、なんか書いてなかったか!?コイツらの弱点みてぇなの!」
「アリグネルスに“猪っぽいことと、体毛以外の情報“はないです!最後の方にちょっと書いてあるだけで!でも、名付きの中でも弱い部類のはずです!」
アリグネルスと呼ばれる猪の化け物は、そのおぞましい血生臭い息遣いが分かる距離まで近寄ってきている。フアンは矢を放ち、馬車1台ほどもない距離に迫るアリグネルスの足止めを狙う。
「ノイがいりゃこんな奴……!」
ヴァルトの呼び掛けに応える様に、1人の少女が彼らの向かう先から……走ってきた、恐らく馬の速度は越えているであろうそれは長く黒い髪で風を切る。
「ぅおりゃぁあ!!」
跳躍し馬を飛び越え荷車を覆う布や骨組みを破壊しながら飛び込む。
「ノイっ!?」
アリグネルスに跨がるヴァルトは、咄嗟に馬車へ飛んで戻る。それはこの猪もどきではなく、その少女を警戒してのことであった。
「ぅおらぁ!」
搭乗する際に行った跳躍の運動力を回転に利用し、時計周りに脚を軸に回転……拳で打撃を加えた、蓋にめり込みながら抉り、衝撃が伝わる。荷馬車に食い込んでいたアリグネルスを、ヴァルトの与えた傷があったとはいえ、1度の打撃で吹き飛ばし転倒、動かない、恐らく絶命させた。
「やっ!」
すかさず少女は、床にお落ちていた恐らくヴァルトが変形させていた剣を手に取り、迫るアリグネルスに投擲、深く刺して動きを停止させた。
「ド派手な登場だなオイ」
「あっ!投げちゃったけど、良かった!?」
「説明はあ」
荷車は大きく傾いた、荷車の4輪のうちの、後方左手のものが外れた。ヴァルトとノイが姿勢を崩し荷物ごと落ちそうになる。
「うおぁ!」
「ヴァルト!」
ノイはヴァルトの腕と荷馬車を掴みながら、後ろから落ちてくる荷物を背中で抑え、危害を無くした。異様なその踏ん張りは、ノイの足元で軋むそれが示している。
「ははっ、お前やっぱすげぇな!」
ヴァルトが眼前を確認すると、いまだにアリグネルスはこちらを追いかけていた。馬の速度の上昇により車体は安定した。
「くっそ、街はまだ」
ふと、陰がいくつも落ちた。細く多く、尖ったもの。それはノイが殴り飛ばしたアリグネルスに集合体していく……矢であった。ヴァルトらの車体の側面を木の柱や板材、金属などの端材で構成された防壁……その門を潜り抜ける、頭上には下方の先端を尖らせた丸太が一列に並んでいた。
「おろすんじゃ!」
防壁の上にいる何者かの指示で狼のような男が斧を振り下ろし、持ち上げられた門は急降下し閉鎖、残る一頭はそこに激突した。
「はなてぇ!」
馬車は車軸を中心に瓦解を初めていった。
「やべぇ、飛び降りるぞ!」
「荷物はどうするの!?一緒に!?」
「お前が抱えろ、ノイ!」
「何で私なのよ!?」
「お前がこれ壊したようなもんだろうが!いいか、全部持て!できるだろ!?」
「壊したのはあの化け物でしょ!」
「実質お前だ!」
「誰が猪よ!?」
フアンが怒る。
「言い争ってる場合ですか!?」
ヴァルトが頭を掻く。
「くっそもういい、ノイ、車体を持ちながら走れ!」
「分かった!」
ノイはヴァルトの指示で馬車から飛び降りた。フアンが驚く。
「え、えぇ!?!?」
ノイは言葉通り、車体を持ち上げながら車輪の代わりのように走り、馬の速度に合わせて速読を落としていき、遂にヴァルトらは荷馬車を降りた。端材の家々が並び、周囲には人だかりができていた。
「君ら、無事か!?」
1人の男が近寄る。
「あぁ……あぁ~」
「僕ら、生きてる、んです、ね……」
ヴァルトとフアンは、生命の危機が去ったことによる緊張の霧散により、酷く顔色を悪くしていた。
「いつまで持ってればいいの?」
ノイは声を出す、元気だ。
「もう良……いや、よくねぇ。待ってろ、荷物を……」
「私達で下ろしますから、皆さんはまず休養を取って下さい!」
人集りはすぐ、労働者と化した。ヴァルトらは馬車を降り、土を固めてなんとか舗装してあるだけの地面に、少しの小石の違和感や髪につく砂埃などお構いなしに、大の字に倒れた。
「あぁ~~しんど……」
「ヴァルト……いくらなんでもそこで倒れないで下さい、一応ここ道ですよ?」
「寝れりゃ床だ、休むんだ」
「歩けば自分の、ありますよ?」
「ちぃと、きちい」
「まぁ分かりますが……という訳で、ぼ~くも」
フアンは座り込んだ。
「ねぇ、その……」
ノイが近寄りヴァルトを向いて話しかけた、服の前身項……裾とも言える場所をぎゅっと握りながら、下向きで前髪で視線が見えない。しかし、顔が赤いようにも見える。
フアンは何かを察して疲労を忘れながらすっと立ち上がり、見守るように離れた。
「お、どうした?」
「その……」
少しの間を開ける。
「おか、え……えり」
「それ、さっき言ったな」
「さっきのはなんか、ちゃんとしたお帰りじゃなかった!」
ムキになったのか、少し怒ったように返した。ヴァルトは笑いながら続ける。
「ちゃんとしたお帰りってなんだよ」
「え!?それは……目を見て、向かい合ってちゃんと」
「いまのお前も、できてねぇけどな」
「え!?あ、えっと……」
ヴァルトは立ち上がって少しノイから離れ、砂埃を落とす。
「ほい、こっち見ろ」
「え、あ、うん」
ヴァルトは無言だ。
「お、おかえ……」
「荷馬車に突撃、アリグネルスを一撃で撃破、ありえない勢いでの剣の投擲、荷物を抱えながら俺を救助、最後にゃ車輪の代替を担当……お前また筋肉増えたか?」
ヴァルトはぶっ飛ばされた。近寄ってきた髭の生えた壮年の足元に転がる。
「お主……さては、また余計なことを言ったな?」
「お~じじい、今俺、骨が全部、粉になったんじゃねぇかな」
「淑女は大切にとあれほど」
「淑女の要素、どこだよ……」
「口を閉じんか、やれやれ……」
壮年はノイに向かって歩く。
「ノイ、お手柄じゃぞ」
「おじいちゃん!」
「フアンも、よくやった」
少し離れた位置のフアンに、大きめな声で話しかける壮年。
「いえ、荷物は全部ノイが守ってくれました、ついでにヴァルトも」
「あのね!?ヴァルト酷いんだよ!?」
壮年はため息を吐く。
「ヴァルトの礼儀知らずは、今に始まったことではないがの」
ふらつきながらた立ち上がるヴァルトを、壮年は見ている。その一瞬、目線は酷く、酷く、ほんのりと、だが確実に彼を憐れんでいた。
「アレは、できたか?」
「ご注文通り。何度行っても、あっちの設備はすげぇよ……さすがにこことは大違いだ」
鹿に酷似した女性と、弓と矢の詰まった筒を持った、ノイの半分程の大きさの少女が近寄ってきた。
「ハルトヴィンさん、荷物は無事です。まぁアタシら基準ですけどね」
「直せるなら良い、後でヴァルトにやってもらうからの」
ヴァルトの表情が変わる。
「あ、やべおもちゃ!」
「おもちゃってこれ?」
矢筒の少女は、ある程度傷はあるものの状態の良いおもちゃを持っている。
「これ、何?」
「こいつか?こいつはなぁ、こうして……こう、つんっとな」
ヴァルトはおもちゃを地面に置き、後ろ側を指で突いた。恐らく馬車の模型であろうそれは、一見簡単そうな構造の車輪により前進した。
「これだけ?」
「まぁ今の所はな」
「馬は?」
「こんな小さな馬いねぇよ」
「動けない馬車なんてただの車輪付きのガラクタだよ」
「しゃあねぇなぁ、作るかぁ」
「馬を?」
「無理だ……いやでも、いけるかもな?要は自分で動く何かがありゃ良いんだろ?こう~何だろう、自分で運動してそれを車輪に伝えるこう~」
「それ普通の馬車でもできる?」
「必要な力をどう生み出すかだよなぁ。馬と同じくらいのだろ……?」
ヴァルトは考え出すが、ノイが近寄る。
「ヴァルト、とりあえず家、帰ろ?」
「え?あぁ~……それもそうだな」
残る帰路は短い。
50年前、西陸に災いが訪れた……太古の時代に、奈落へと封印したとされる化け物達……【べストロ】が現れた。西方にある禁足地が発生源とされ、押し寄せるようにしてベストロらは、森や川の生き物、村落や市街の人々を次々に食い殺した。教皇アンブロワーズによる祈祷によりその個体数は激減したが、その年から教皇の住まう都市にべストロが大量に押し寄せる現象が発生……後にこれは、デボンダーデと呼ばれることになる。
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。