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帝都浅草 妖狐カフェーの怪奇譚  作者: 深水えいな
第陸章 青い目のアンテヰクドール

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31.志摩子の行方と誘拐犯

「志摩子さん……志摩子さーん!」


 千代は志摩子の名を呼びながら辺りを探し回った。

 だが志摩子の姿はどこにも無い。


 (志摩子さん、どこへ行っちゃったの!?)


 千代が狼狽えていると、常春と國仲が駆け寄ってくる。


「千代さん?」

「千代さん、どうしたの!?」


 千代は涙目になって訴えた。


「志摩子さん……志摩子さんが」


 震える千代の手を、常春は優しく包み込む。


「落ち着いて、千代さん。志摩子さんが居なくなったの?」

「大丈夫だよ、一緒に探そう」


 國仲も千代を勇気づけ、三人で一緒にフロア内を探すこととなった。


「居たぞ、こっちだ!」


 程なくして、國仲の声が聞こえてきた。


 見ると、藍色の着物を着た中年の男の人が、ハンケチで志摩子の口を押さえ、連れ去ろうとしている。


 あれはひょっとして誘拐犯ではなかろうか。

 怪異の仕業ではなさそうだけれど、それはこれで緊急事態である。


「志摩子さんっ……」


 千代が急いで志摩子の所へ向かおうとすると、その横をすり抜け、國仲が雄牛のような勢いで誘拐犯に向かって駆けていく。


「待て、貴様ーっ!」


 國仲のただならぬ形相に誘拐犯はギョッとした顔を見せる。


「な、何だお前!」


 青くなる誘拐犯。

 國仲はそこへ思い切り体当たりをした。


「貴様、志摩子さんに何をする!」


「ぐえっ」


 國仲に体当たりをされた男は蛙が潰れたような声を上げて倒れた。


「犯人確保、確保ーっ!」


 犯人の腕を背中でねじりあげる國仲。


「痛ててててっ!」


 しばらくして応援の警官たちがやってきて、志摩子を連れ去ろうとした男は逮捕された。


 千代はホッと胸を撫でおろした。

 犯人も逮捕されたし、これで事件も解決だろうか?


 ***


 翌日、國仲がいつもの様にお店にやってくる。


 カランコロン。


「やあ、千代さん、昨日はお疲れ様でした」


 國仲の姿を見とめた千代は慌てて彼に駆け寄った。


「その後、どうなりました? 犯人はどうして志摩子さんを狙ったんですか?」


 ライスカレーを置きながら尋ねると、國仲が教えてくれる。


「犯人は、モダンな女性を狙って犯行に及んだと言っています。彼女のような自由奔放な女性のせいで、日本は駄目になると」


「何それ。許せません」


 なんて身勝手な動機なのだろうと千代は憤る。

 どうも世の中には女性が権利を主張したり自由な生き方を選ぼうとすることに異常な反発心を持つらしい男がいることは知っていたが、まさか誘拐などという凶行に及ぶとは信じられなかった。


「でも、これで事件は解決ですね。私たちの出る幕は無かったみたい」


 千代が大きく伸びをすると、常春はその横で渋い顔をした。


「……そうだといいけどね」


 常春の浮かない顔を見て、千代は首をかしげる。

 せっかく事件が解決したのに、なぜだか常春はじっと何かを考えこんでいる。


「あ、そうだ。他にも失踪した人はいたんだよね。犯人は志摩子さん以外の誘拐も自供したの?」


 常春が思い出したように國仲に尋ねる。


「はい、犯人はこれまでの犯行を自供しました。志麻子さん以外にも、何人か女の人を誘拐していたと。ですが――」


 國仲の眉間に深い皺が刻まれる。


「犯人は、狙ったのはこれで二人目だと言っています。なので、残り三人の行方は未だに分からずじまいです」


 常春はふむふむと指で唇をせわしなく叩きながらうなずく。


「それで、犯人と青い目の人形との関連は?」


「それもまだ分かっていないですね。犯人は、人形なんて知らないと言っていますし」


「じゃあ、人形を見たっていうのはたまたまで、事件とは無関係だったってことかい?」


「……かもしれないですね」


 千代は常春と國仲の会話を横で聞きながら、何か釈然としないものを感じていた。

 だとしたら、自分が浅草十二階の帰りに見た人形は一体何なのだろう。

 それから展望台の所にいたあの黒いもやもやしたものも気になる。

 ひょっとしたら事件はまだ何一つ解決していないのではないか。そんな漠然とした不安が千代を襲った。



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