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帝都浅草 妖狐カフェーの怪奇譚  作者: 深水えいな
第伍章 秘密の恋まじなひ

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26.コックリさんの呪い

 静江が文子と一緒に再びカフェー・ルノオルを訪れたのはその数日後のことであった。


「こんにちは。約束通り、またこのカフェーに来ましてよ」


「わあ、ここが例のカフェー?」


 天真爛漫な表情の文子とは対照的に、静江の顔は真っ青で、少しやつれたようにも見えた。

 そしてその背後には、黒い根と黒い球根、黒い茎。

 以前よりも膨らみを増し、今にも花咲そうな黒い蕾が、静江に寄生するかのように生えている。


 (あの植物は一体何? どうやら二人には見えていないみたいだけれど……)


 千代は不思議に思いつつも笑顔を作り、二人をテーブル席に案内した。


「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」


 程なくして、常春がカウンターの奥から出てきた。


「やあ、二人とも、具合はどうかな?」


 常春の言葉に、文子は頭を下げる。


「初めまして。あなたが私を助けてくれたという店長さんですか? ありがとうございます。私はすっかり大丈夫です!」


 常春は文子の顔を見てうなずく。


「うんうん、それは良かった。でもね――」


 常春の瞳が妖しく輝く。


「文子さんは平気でも、静江さんのほうはどうかな?」


「えっ?」


 文子は静江の顔をじっと見つめた。


「そういえば静江姉さん、最近ずっと調子が悪いって――」


「ただの体調不良ですわ」


 静江が強がって見せたが、その唇は真っ青になり震えていた。


「ふうん、ただの体調不良? 果たしてそうかな」


 腕組みをする常春を、静江はきつく睨む。


「どういう意味ですの?」


「聞けば、コックリさんをしていたのは四人だというのに、文子さんだけが悪霊に取り憑かれるのは変だとは思わないかい?」


 常初の言葉を聞き、文子が慌てふためく。


「……ということは、今度は静江姉さんがコックリさんの呪いに!?」


「その可能性はあるね」


「大変! 静江姉さんもお祓いをしてもらいましょうよ」


 文子は青い顔で静江の袖を引っ張る。


「でも、お金が」


 静江はあまり乗り気ではないらしく渋り続ける。


 そんな静江に常春は微笑んだ。


「大丈夫。祓ったはずの呪いが今度は静江さんに行ったのだとしたら、それは僕のミスだから、今回のお祓いはタダにするよ」


 その言葉を聞き、常春がお金を取らないだなんて珍しいな、と千代は不思議に思う。


「良かった、タダですって。是非やってもらいましょう」


 文子の熱意に押し切られ、静江は仕方なくと言った様子で了承した。


「え、ええ。それなら」


 静江の了承を取り付けた常春はニヤリと笑うと、カウンターの下から何やら紙を取りだした。


「それじゃあ、始めよう。今回は、前回と違う方法を取るよ」


 千代は常春が取り出した紙を見た。


 紙に書かれていたのは、神社の鳥居のようなマークに、はいといいえの文字、それに五十音のひらがなであった。


 千代の背中にひやりと冷たいものが走る。


「常春さん、これってコックリさんですか?」


「そうだよ」


 言いながら、常春は財布から一銭銅貨を取り出した。


「何でコックリさんを?」


 千代がビックリしていると、常春は意味深な笑みを浮かべながら答える。


「残念ながら前回のやり方ではお祓いは不完全だったようだから、今回は四人でもう一度コックリさんをやって、二人に取り憑いたものを呼び出してみようと思ってね」


「なるほど」


 とうなずきかけて、千代ははたと気づく。


「よ、四人って、もしかして私もですか?」


「当たり前でしょ」


「ええーっ、だ、大丈夫なんですか!?」


「大丈夫、もし千代さんが取り憑かれたら、僕が手厚ーく看病してあげる」


 どさくさに紛れて、千代の手をきつく握りしめる常春。


「結構です」


 千代は慌ててその手を振り払った。


 (全く、人前で恥ずかしいことしないでよ!)


 千代は顔を真っ赤にしながらも、コックリは聞くところによると狐の霊らしいし、天狐である常春がついているなら大丈夫なのかも知れないと自分を納得させた。


 そんなわけで、千代と常春、静江、文子の四人でのコックリさんが始まった。


 銅貨にそっと指を置く。


「コックリさん、コックリさん、おいでください。コックリさん、コックリさん、おいでください」


 唱えると、少しの間硬貨がさまよった後、「はい」の文字の所で円を書くようにグルグルと回り始めた。


「きゃあ、動いた!」

「あの時と同じだわ」


 恐怖におののく静江んと文子。


 千代はというと、そっと横目で常春の顔を覗き見た。

 常春は千代と目が合うと、薄く笑みを浮かべる。


 (今の笑みは何?)


 千代が不思議に思っていると、常春が大袈裟な口調で話す。


「どうやら、コックリさんが来てくれたようだね。さっそく質問をしよう」


 常春は真面目くさった顔で質問を始めた。


「コックリさん、コックリさん、千代さんは僕のことが好きですか?」


「ちょっ……」


 (常春さんったら、何言ってるのよ!)


 千代そう思っていると、硬貨は勢いよく「はい」の所へ行き、グルグルと回り始めた。


 (ええっ、ウソ!?)


 千代があっけに取られていると、常春はさらに質問を続ける。


「コックリさんコックリさん、千代さんは僕と永遠に一緒にいたいと思っていますか?」


 またしても硬貨は勢いよく動き、「はい」の所でグルグルと円を描いた。


 (な、何これ!)


 千代が常春の顔を見ると常春は意地の悪そうな笑みを口元に浮かべている。


 (……もしかして常春さん、わざと動かしてる?)


 千代は常春のわざとらしい笑みを見て直感的にそう思った。


 しかし、だとするとこんな茶番までして常春がコックリさんをする意味は何なのか、千代には分からなかった。


「それじゃ、コックリさんも来てくれたみたいだし、本題に入ろうか」


 常春は大きく息を吸い込むと、ハッキリとした口調で語りかけた。


「コックリさん、コックリさん、文子さんに呪いをかけたのは誰ですか?」


 間をおかず、勢いよく硬貨が動き出す。


 硬貨が指し示したのは「し・ず・え」……。


 (えっ、静江さん!?)


 コックリさんの答えに、千代は目を大きく見開いた。


 まさか文子に呪いをかけたのは、静江さんだというのだろうか?


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