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帝都浅草 妖狐カフェーの怪奇譚  作者: 深水えいな
第肆章 呪いのレコード

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25.学園の眠り姫

 静江さんの話によると、コックリさんをした際に昏睡状態になってしまっているのは、文子ふみこという、私や静江さんの一学年下の女の子だということだった。


 そこで静江さんから依頼を受けた千代と常春は静江と一緒に、お見舞いというていで文子の家へと向かうことになったのであった。


「あらまあ、良くおいでなさいました。こちらへどうぞ」


 優しそうな母親に案内され、三人は文子の部屋へと向かう。


「文子さん、お友達がお見舞いに来てくださいましたよ」


 母親が部屋の戸を開け、布団の中で眠る文子に声をかける。


「お邪魔します」


 千代たちも母親に促されて部屋に入ると、長い黒髪の色白な女の子が、まるで眠り姫みたいに布団に横たわっていた。


「ふーむ」


 常春は文子の姿を見るなり眉をしかめた。

 常春が渋い顔をしたわけが、千代にはすぐに分かった。

 寝ている文子の体には、真っ黒い紐か縄のようなものががんじがらめに絡まっていたからだ。


「何……これ」


 千代がハンケチで口を抑えていると、常春が興味深そうな顔で聞いてくる。


「千代さんにも見えた?」


「はい。真っ黒い縄か何かが文子さんの体に絡まっているように見えます」


 千代が言うと、常春は首を横に振った。


「いや、これは縄じゃない。もっと別の……蔦かな。何かの植物の茎のようだ」


「植物? 私には何も見えませんけど……」


 常春と千代の会話に、静江は渋い顔をする。

 どうやらこの黒い蔦のようなものは静江には見えていないようだ。

 ということは、これはやはり怪異なのだろうと千代は思う。


「これは、普通の人には見えないものだ。どうやら呪いの一種のようだね。とにかく焼き払ってしまおう」


 常春が上着からお札を取り出し、文子に貼り付ける。


「――狐火」


 ボッとお札から炎が上がるのを見て、静江が慌てる。


「火が!」


「大丈夫です、あれは人間には熱くないので」


 千代が答えると、静江は真っ青な顔で常春のことを睨んだ。


「本当なんでしょうね!?」


 そうこうしているうちに、文子の周りにあった黒い茎が見る見るうちに燃えていく。

 静江は初めこそ動揺していたものの、文子の肌にすすひとつ付いていないのを見て徐々に落ち着きを取り戻し、ほっと息を吐いた。


「これでよしっと」


 常春がパンパンと手を払う。

 全身が黒い茎に覆われていた文子の体は、いつの間にかさっぱりと綺麗になっていた。心なしか顔色も良くなったように思える。


「これでもう、心配は要らないはずだよ」


 良かった。こんなにすんなりと解決するだなんて。

 千代はホッと胸を撫でおろした。


「ありがとうございました」


 静江は深々と頭を下げた。


 それにしても――千代は疑問に思う。

 

 千代の読んだ雑誌によるとコックリさんというのは普通は狐や狸といった低級の動物霊だということだった。

 しかし常春が焼き払った怪異はまるで植物みたいであった。

 あの怪異の正体は一体何だったのだろう。


 ***


 

 数日後、沖さんの言葉通り、文子は意識を取り戻し、女学校へも普通に通えるようになったらしい。


「あら、千代さん、常春さん、この間はどうも」


 千代がカフェーの前を掃除していると、通りかかった静江と文子が声をかけてくる。


「二人ともこんにちは。どうですか? その後は」


 千代の問いに、二人は笑顔で答える。


「ええ、体調に問題は無いみたいだし、順調よ」

「文子さんを助けてくれて、本当にありがとう」


 頭を下げる二人に、千代は笑顔で答えた。


「いえ、私は何も。ほとんど常春さんの力ですから。それより、せっかく来たのだから珈琲でも飲んでいきませんか?」


 千代が二人を誘うと、静江は首を横に振った。


「いえ、申し訳ないけれど、今日はこの後習い事があるの」

「ええ。また遊びに来ますね」


 どうやら二人はこの後用事があるらしい。


「ええ、また今度ね」


 千代が手を振ると、静江たちは手をつないで去って行く。

 その後ろ姿を見て、千代は背筋にゾッと冷たいものが走るのを感じた。

 静江の背中には、黒くて太い、植物の茎のようなものが巻き付いていた。


 いや――茎ではない。がんじがらめに巻きついた、あれは茎じゃなくて根だ。千代は本能的に思った。

 静江の背中には真っ黒な球根が植わっていた。そしてそこから真っ直ぐにそびえるように立っているのは茎とつぼみ


 (どうして? あの黒い植物は、沖さんが焼き切ったんじゃないの? それに、どうして今度は文子さんじゃなくて静江さんに?)



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