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桜マーブル  作者: 綾沢 深乃
「第5章 前に進む勇気の出し方と作り方」

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「第5章 前に進む勇気の出し方と作り方」(4ー1)

(4-1)


 東京駅構内には、何店舗か喫茶店がある。


 三人は、フロアマップの前で何処の喫茶店が一番適しているかを考える。スターバックスのようなよく知っている喫茶店があったが、新幹線の改札から近い。


 おそらく混雑しているだろうから、残念ながら話し合いには向いていないだろう。


 フロアマップに表示されている喫茶店一覧を見ながら、三人で相談する。今朝は修復不可能な程の言い合いをしていたのに夜には、こんな事になっている。その不思議な展開に桜は、軽く違和感を抱いた。


 何故なら、自分はその話し合いが嫌で東京まで逃げた。そして、二人はココまで追いかけてきて、続きをしようと言ってくる。そんな事を言い出した母は確かにおかしいと思うし、今朝までの自分なら間違いなく、怒っている。


 しかし、今の桜はもう怖くない。それどころか自分の考えを二人に早く話したいとすら、思っている。ちゃんと考えを口で伝えて、反応が欲しかった。


 話し合っている二人に「ココは?」と桜がお店を提案した。


 その喫茶店は、現在地から少し歩いた場所にある喫茶店だった。


 新幹線の改札から離れているし、iPhoneで店の情報を調べたところ、店内奥にはソファ席がちゃんとある。東京駅構内で選ぶなら、間違いないのでないか。


 桜が二人に店を提案すると二人とも好感触で、行き先はそこに決まった。


「よし、行こうか」


 父の出発を聞いて、三人は待合スペースから離れて、喫茶店へと向かった。途中、何人にも利用客とすれ違う。こういう場面でも相変わらず、真緒がいないかと目が探してしまうが、やはり彼女はいない。


 目的の喫茶店に到着して、店内に入る。グリーンドアとは違って、それ程広くない店内だったが、幸運にも奥のソファ席は空いていた。


店内には、他にサラリーマンの客がおり、ノートパソコンを開いて、仕事をしている様子だった。これなら奥で自分達が話していても大丈夫そうだ。


「やった〜。奥のソファ席、空いてる〜」


 そう言って、母が奥のソファ席に自身のトートバッグを置いた。その隣に父が荷物を置いて、対面となる椅子に桜が荷物を置く。席の配置は自宅マンションと同様で本当に今朝の続きとなった。


「先に飲み物を買いに行こう」


 父が二人にそう提案して、三人はレジへと向かう。そして各々が飲みたい物を注文した。父と桜はカフェラテを母がキャラメルラテを注文した。


 最後にまとめて父が会計を済ませると、レジ横のカウンターで三人分のカップが載せたトレーを父が受け取った。注文後、二人は先に席に戻っているように父に言われていたので、その通りに二人はソファー席で待っていた。


「お待たせ、」


 座っていた二人の前に父がトレーから注文したマグカップをそれぞれ置いた。目の前に置かれたコーヒーを手に取り、三人がカップに口を付ける。


 疲れ切っていた桜の心に温かいコーヒーは染み渡り、寄り添ってくれるようだった。多少、眠って回復したとは言ってもまだまだ疲れていたと思い知る。


「あ〜、美味しい」


 口を離した母が三人の中で第一声を口にした。


「本当。この喫茶店にして正解だった」


 同じく口を離した父も感想を言う。両親から揃って言われると、この喫茶店を選んだ桜は、褒められているみたいで恥ずかしかった。三人が注文した飲み物を堪能してから数分経ち、母が「では、」と口火を切った。


 それが話し合いの再開する合図だった。


「今朝の話の続きだけどね」


 母が口火を切ったところに桜が「あのね、」と割り込んだ。


「私、東京の大学に行かなくてもいいよ。地元の大学に進学する」


 まず初めに自分の意志をハッキリ伝えるべきだと思って二人に告げた。今朝とは正反対の発言に二人は目を丸くして驚いていた。


「……それは、どうして?」


 父がそっと口を聞いてこちらの真意を聞いてくる。彼の表情からは困惑が見えた。そう思うのは当然だ。桜は、両親の疑問を解消すべく、抱えていた自分の気持ちを丁寧に伝える。


 そもそも東京の大学に行こうとした訳。


 実際に東京に来て、自分の目で見たものや得たもの。


 そして、最終的に決めた自分の進学先。


 桜は今日一日の出来事を両親に伝えた。そして一人で来たのではなく、真緒と一緒に来た事も伝えた。彼女の名前を出した時、父は「あぁ〜、前に話していた一緒に勉強をしていた子?」と聞いてきた。それに対して「うん」と頷く。


「それで? その真緒ちゃんは?」


「……真緒は、先に帰った」


「あら? そうなの?」


 一緒に来てくれる程、優しいのに帰りは桜を置いて行くのか。意外そうな母の顔からはそんな感情が垣間見えた。その誤解は絶対に解かなくてはいけない。


「違うの。真緒には私がココからは一人で大丈夫だからって伝えたの。本当は今だって、傍にいてくれたはずなのに」


 どうにか真緒に生まれてしまった不審感を拭いたくて、桜は説明する。すると、それに対して父が反応した。


「それで帰ってもらった?」


「うん。だから私の為にしてくれた事なの」


「なるほど。まぁ、分からなくもないけど……」


 父が補足してくれて、母が腕を組み何とか理解を示そうとしてくれている。彼女の心には、まだ若干の違和感があるだろう。今その全てを取り除くのは不可能だ。少しでも減らす事が出来たのなら、それでいい。


「うん。だから地元に帰ったら真緒にはお礼を言いに行く」


「そうしなさい。ココまで付いてきてくれる友達は、普通いないよ? 大切にね」


「ありがとう、お母さん」


 これで真緒の件については、一応の決着を見た。東京の大学について、少し逸れてしまった話を修正していく。


 そこから最後に話終えるまで、二人は黙って耳を傾けてくれた。


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