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桜マーブル  作者: 綾沢 深乃
「第4章  突発的行動は誰の為?」

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「第4章 突発的行動は誰の為?」(2ー1)

(2-1)


「あー、でもそうなると、やっぱり一度帰らないと」


 流石にこんな格好では東京に行けない。シャワーだって浴びてないし、服装もジャージのままだ。


 まだマンションに両親がいるだろうけど、なるべく無視する方向で自室に入って、パッと準備出来るだろうか。別に泊まりじゃないから、簡単な身支度さえ出来ればいい。


 だが一度帰ってしまうと、あの二人が再び外に出してしてくれるかどうか。マンションだから窓から逃げるなんて事も出来ないし。


 行くと決意したものの、途端に現実的な問題が次々に桜を襲う。やっぱり突発的な行動は難しいかなと、早くも頭の中で諦めの感情が出始めた時、真緒が首を傾げた。


「ん? 何で帰る必要があるの?」


「だって、この格好じゃ……」


 自分のジャージを引っ張って強調するように見せる。すると、真緒は大きく首を振った。


「ぜーんぜん大丈夫! 気になるんだったら、行く途中でユニクロでパッと服買っちゃえばいいよ。シャワーとかは、ネットカフェとかにあるし」


「ええっ!?」


 真緒に言われて桜が今日一番の大声を出した。


「いやいや! それは流石に……っ! それにネットカフェって言われても私、入った事ないし」


 ネットカフェの存在は、知識として知っているのみで、利用した事はない。それに何となく怖そうなイメージもある。


 せっかくマンションからすぐ近くにいるのだ。わざわざリスクをかける必要はない。第一お金だってかかる。一応、財布に生活費用の銀行のカードが入っているけど。


 桜が考えを巡らせていると、真緒がこちらをじっと見つめて「ねぇ」と言った。


「な、なに?」


「たまにはさ、あれこれ何にも考えずに動いてみない?」


 真緒にそう言われて彼女は目を見開く。


 それは桜の人生にはない考え方だった。もしかしたら、この先の人生でこんな機会はもう無いかも知れない。何も外国に行く訳じゃないんだ。後々、こんな事をしたなって笑える数年後が訪れるかも知れない。


 桜は、ベンチから立ち上がった。


「行こう、今すぐ」


「そう来なくっちゃ!」


 桜の決断に笑顔で喜んでくれた真緒。二人は待合室を出た。ホームに出ると、丁度それを待っていたかのように電車が到着するアナウンスが流れた。


 まるで決心した桜の背中を後押しするようだった。


 遠くからやって来た電車に髪をバサバサと揺らされて、桜は大きく一歩を踏み出して、電車に乗った。


 


 いつも学校まで行っている電車でまず神戸三宮駅まで行く。そこで降りてユニクロで服を購入する事にした。


 最初、東京に着いてから服を揃えた方が移動時間の節約になるのではないかという話も出たが、「どうせならサッパリした状態で行った方がいいじゃん! まだ時間早いし」という真緒の意見を採用して、先に揃える事になった。


 ジャージでいる事の恥ずかしさは、地元の駅を一つ離れたら、嘘のように消え去った。おかげで電車から降りても何の問題もなく、むしろいつも以上に堂々と歩く事が出来た。


 まだ午前中だったが、繁華街の週末という事もあり、大勢の人が歩いていた。二人で出来るだけ急いで、人の間を抜けた。アーケード街に入って、そこにあるユニクロに到着する。


 店内に入って桜は入口でカゴを持ち、服を選んでいく。普段は一人で私服を購入していた彼女は、真緒と二人で服を選ぶのがとても楽しかった。


 時間がないと分かっていても、どうしても並べられている新作に吸い寄せられるように足が向かい、着る予定はないのに真緒の体にも服を当ててしまう。


 更に桜は手ぶらだったので、カバンも買った方が良いという話になり、ユニクロにあるトートバッグも購入した。まだシャワーを浴びていないので試着はせず、体に当てるだけで選んでいく。「どう?」と服を手に取り、真緒に見せると彼女が真剣な顔で腕を組み見てくれる。


 そうして上下一式を選び終えて、二人はユニクロから出た。


「よし、無事に服も買えたし。次はシャワーかな」


「あ、その前にドラッグストアでシャンプーとかを買った方がいいよ」


 真緒の提案に桜は「えっ?」と言って、首を傾げた。


「ネットカフェのシャンプーって備え付けの置いてないの?」


「一応、置いてるけどね。けど備え付けのは髪が結構ギシギシになるよ。それだったら、ドラッグストアで用意した方がいい。ボトルタイプじゃなくて使い切りのタイプで売ってるから、それを買えばいいと思う。安いし」


「へぇ、そうなんだ。じゃあ、そうする」


 一人だったら確実に備え付けのを使っていただろうが、真緒のアドバイスだからこそ従う事にした。アーケード街にあるドラッグストアに入り、彼女がオススメするシャンプーとコンディショナーを購入した。


 そして電車に乗ってこの街に向かっている時に予めiPhoneで調べておいた女性用のシャワーがあるネットカフェまで行って、桜はシャワーを浴びる。女性用と書かれていてもやっぱり少し怖いので、真緒にはすぐ近くで待ってもらう事にした。


 こちらのお願いに真緒は二つ返事で了承してくれた。


 家とは勝手が違うシャワーを素早く浴びて、全身を綺麗にしてから、桜はシャワーから出る。バスタオルがあるのは助かった。体を拭いて、紙袋からユニクロで購入した服を取り出した。購入時にタグを切ってもらったので、すぐに袖を通せた。


 新品の服を着ると、桜の口から自然と息が出た。いつもと違うシャンプーに香りが自分の髪からする。元々の自分を構成するものを少しずつ変えていく事で、浮かびかけていた罪悪感や恐怖みたいなものから、解放された。


 それでも僅かに残った残滓が、ため息となって口から出たのだ。


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