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桜マーブル  作者: 綾沢 深乃
「第2章 真緒を探して、追いかけて」

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20/50

「第2章 真緒を探して、追いかけて」 (1ー1)

(1-1)


 土日を終えて(金曜日の帰りは、最寄り駅からを降りてから本降りになってしまい、洗濯物は全滅してしまったので、週末に干し直した)翌週、月曜日。桜はいつも通りマンションを出て学校へと向かう。


 代わり映えのない朝を過ごして地下鉄に乗り、学校に到着する。テスト明け月曜日の学校の光景は、いつも通りに戻っていた。


 グランドでは、朝練を終えた運動部が片付けをしていた。月曜の朝から大変だなと彼らを一瞥しながら、桜は校舎に入り、靴を履き替える。教室に入るとそこには普段の朝だった。


 真緒は来ているかと探したけど、どうやらまだ来ていないようだった。


 自分の席に座り、結衣と話をしながら、朝のホームルームを待つ。二時間目からの体育が嫌だとか、お互いに愚痴を言い合っていると、チャイムが鳴る。ガヤガヤとした雰囲気が静かになり、担任の山本が教室に入ってきた。


 この時点でもまだ、真緒は来ていなかった。体調を崩したのか? 金曜日の雨は本降りになっていたから、最後は濡れて帰ってはずだ。そのせいで風邪を引いたのかも知れない。漠然とそんな事を考えた。


 山本から真緒が体調不良で休む旨を連絡された時にやはりと思った。


 意外だったのは、真緒のグループが驚いていた事だった。仲間内には既に伝えていると思っていたが、そうではないらしい。連絡が出来ないくらいに酷い風邪なのだろうか。


 休み時間にでもLINEで送ろうか。つい、そんな事を考えてしまう。でも本当に風邪が酷いなら、かえって迷惑かも知れない。思考に強力なブレーキがかかってしまい、結局送る事が出来なかった。


 真緒が学校に来たのは、水曜日になってからだった。朝、教室に入ると、その日は彼女の姿があった。いつものグループと楽しそうに談笑している。良かった、体調はもう大丈夫みたいだ。そんな事を思いながら、桜は彼女達の後ろを通って、自分の席に向かう。


 すると、また以前のように真緒に声を掛けられる。


「おはよう桜〜!」


「うん、おはよう真緒。もう体調は大丈夫?」


「もう完璧。ごめんね、心配かけちゃって」


「ううん。元気になったなら良かった」


「ありがと〜」


 最低限の会話を済ませて桜は自分の席へと急ぐ。この場所で長々と話すのは、どうしても周囲の目が気になってしまう。


 自意識過剰と言われればそれまでだが、どうしたって難しい。現に真緒が桜の名前を呼んで、グループを包んでいた空気が僅かであるが、変わったのを感じていた。


 自分の席に着くと、既に来ていた結衣が振り返る。


「桜おはよー。市原さん、学校に来れたみたいで良かったね」


「結衣おはよう。うん、もう体調は大丈夫そう」


 やはりテスト明けから二日連続で休むと結衣も心配していたようだ。桜の報告を聞いて「良かった」と言って、満足そうに前を向いた。


 テストも終わり、真緒も学校に来るようになって、いつもの学校生活が戻って来た。桜は授業を受けながら、そんな事を考えた。




 金曜日の放課後。


 その日、掃除当番で普段より遅くなった桜は、帰り支度をして教室を出て行った。一週間前と違って、窓の外からは運動部の掛け声が聞こえて空き教室からは、吹奏楽部の練習の音が聞こえた。放課後の学校は部活動をしている生徒の物。どこか、そんな気がしてしまう。


 桜は教室を出てから昇降口まで降りて来てローファに履き替える。窓から入ってくる夕焼けが、誰もいない昇降口を照らして、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 履き替えて、帰ろうとした時に背中にポンっと誰かに叩かれた。突然の衝撃に「うわっ!」と声を出して振り返ると、そこには真緒が一人で立っていた。


「ま、真緒!?」


「ゴメン。そんなに驚かせるつもりはなかったんだ。桜、今帰り?」


「うん。掃除当番だったから、もう帰るところ」


 説明をしながら、真緒が一人でいる事に若干、戸惑う。いつもの彼女なら放課後に一人なんてあり得ない。必ず誰かと一緒にいる。


 もしかして自分を待っていた? つい、そんな考えが浮かんだ。そんな考えを見透かしたように真緒は、「あっ、」と小さな声を上げる。


「もしかして、自分を待っていたとか思ってた? ざんねーん、さっきまで山本先生と話してたの」


「あっ、そうだったんだ」


 考えが外れて自惚れていた事を認識してカッとなる。それに気付かれる前に「山本先生と?」と続けて真緒に質問した。「うん」と彼女は頷く。


「ちょっとね。色々と話し合ってて、結構長くなっちゃった。皆には先に帰ってて言ったから、今日は私一人。だから今、ココで桜に会えて嬉しいのはホントだよ?」


「ありがとう。私も嬉しい」


 桜が同意すると、真緒は目を細めた。


「えぇ〜、ホントかなぁ?」


「本当だって」


「でも桜、学校だと全然話してくれないじゃん。朝だっていつも私から挨拶してるし」


「あー、それは……」


 自覚している事を指摘されて、桜は言い淀んだ。テスト勉強の一件で確かに真緒との距離は縮まったが、それは学校外での話。いくら下地があるからといって、次の日からいきなり、教室でも気軽に話し掛けるのは難しい。


 それをどう真緒に伝えたらいいか悩んでいると、彼女はニコッと笑って「なーんてね」と言った。


「ちゃんと分かってるよ。桜が私に気を遣ってくれてるの。確かに今まで話してなかった二人が急に仲良くなったら、皆ビックリするもんね」


「う、うん」


 こちらの考えを読み取ってくれていた事に喜びつつ、どこか複雑な気持ちは消えなかった。


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