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SM官能作家の真実  作者: さば缶
第1章 目覚める欲望と日常の裂け目
3/16

第3話

 四限目の授業が終わると、香澄は書店のバイトへ向かう前に一度自宅へ寄ろうと、大学の正門を出た。

都内にある大学から彼女の住むワンルームまでは電車で数駅。

夕方の混雑前の時間帯で、車内はそこまで混んでいない。

吊り革につかまりながらスマホを開き、SNSを眺めていると、タイムラインの一角に「神楽坂 雛人がオンラインサロンで読者交流を企画中」という情報が流れてきた。


 「また新しい企画かな。普段はめったに表に出ない人なのに。」

そうつぶやきながら、バイトのシフトを思い浮かべる。

このサロン企画、時間帯が合えば参加してみたいけれど、詳細はまだ出ていないらしい。


 帰宅した香澄は、簡単な着替えを済ませてから机の上を整理する。

そこにはバイト先で仕入れた文学雑誌や、自分が書き散らかしたメモ用紙が雑然と置かれていた。

大学生らしい資料も混ざっているが、何より彼女の目を引くのは神楽坂 雛人の文庫本の山と、電子書籍リーダー。

その横にあるのは、母から届いた封筒。

「ちゃんと授業に出てるのか」とか「食事はちゃんととってるのか」とか、そういう内容が書かれているだろう。

母の文章はいつも決まった形式で、愛情は感じるものの、やや窮屈さを覚える。


 「優等生でいるのも、疲れるんだよね。」

独り言をこぼしながら、ハンドクリームを塗って作業の手を止める。

ふと、PCの画面が光っているのに気づいて、メールをチェックした。

大学のサークル広報かと思ったら、「神楽坂雛人ファンクラブ運営」からのメッセージが届いている。

“プライベート・オフ会参加者募集のお知らせ”という件名に、思わず目を見開いた。


 「少人数制……抽選……。これ、めちゃくちゃレアじゃない?」

興奮気味にスクロールを進めると、応募フォームへのリンクが貼られている。

リアルイベントは都内のどこかで開かれるらしいが、場所は当選者にしか明かされない。

神秘的な雰囲気を保つためか、事前の宣伝もほとんどないようだ。


 香澄はドキドキしながら、スマホで再度ページを確認する。

「当たるわけない……けど、やるだけやってみようかな。」

そう思いつつ、画面を閉じる。

この作家との距離がほんの少しでも縮まるかもしれないなら、挑戦してみる価値はある。


 夜のバイト先へ急がなければいけないのに、部屋を出る直前にもう一度だけメッセージを読み返してしまう。

気づけば心臓が高鳴っているのがはっきりわかる。

その瞬間、ノートの隅に書き留めていた言葉が脳裏をかすめた。

「あの禁忌の世界を、いつか自分の身体で実感したい……」

誰にも言えない願望と日常のギャップ。

自分でも時々混乱しそうになるが、どうしてもそこから目を背けることができない。

香澄は深く息を吐き、鞄を肩にかけると玄関のドアを押し開けた。


 彼女の胸にはまだ、ファンレターの下書きの言葉が残響している。

「あなたの描く倒錯は私の中に根を張り、現実にこそその花を咲かせたいのです。」

その一文を思い出すと、なぜだか背筋に微かな震えが走るようだった。

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