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魔導科寮の黒一点!  作者: 花宮リオ
始まりの1週間!
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第五話 入寮!?

「おかえり、思ったより遅かったな。先に食べ始めてるぞ」


「そこで先生と合って、一緒に買い物してたんだ」


「先生がご馳走してくれたの」


 アリスとアカリはもう先にお昼を食べ始めていた。僕たちも昼食を摂るため、中央に集めた席に着く。やっぱり、席を固めると教室の広さを感じる。


「そういえば、この後の授業ってどうなってるの?」


 先生は午前中までは普通科と変わらない授業だと先ほど言っていたが、この後のことはあまり詳しくは聞いていない。


魔道具(クリード)に関する座学とか、山の方に学校が持っている土地で魔道具を使ったりすることが多いな」


「そうなんだ。今日は何するんだろ」


「アンタが来たから基本的な説明とかじゃないの? 何にも知らないでしょ」


 確かに僕は魔道具のことに関してほとんど知らない。普通科の人たちよりは少し理解がある程度のものだ。魔導科で過ごしたことはないというのは知られているだろうから、そういったところの説明になるのかもしれない。


「ほとんど何も知らなくて。本当に大丈夫なのかな」


「大丈夫だよ。皆いるし、なんとかなるよ! 多分」


 普通の授業は普通科の方が進んでいるみたいだったし、魔導科のテストも流石に先生が考慮してくれるだろう。幸いなことに勉強は嫌いな方ではないから、なんとかなるはずだ。


「メイ、アンタ私たちの中で一番成績悪いのによくそんなこと言えるわね」


「だって難しいんだもん。アカリちゃんとアリスちゃんがいるからなんとかなってるけど……」


 僕が魔導科に誘われた時には私が手助けするとかいう話だった気がするが、その実上比奈知は勉強がそこまでできるわけではないらしい。


「僕勉強嫌いな方じゃないし、なんとかなると思う」


「なら安泰ね。勉強嫌いがこれ以上増えたらどうしようかと思ってたのよ」


 そんな話をしながら昼ごはんを食べているといつの間にか時間が過ぎていて、予鈴が鳴った。僕たちは席を元に戻して、次の授業の準備をしていると、本宮先生が入ってきた。


「みなさん、揃っていますね。今日は美旗さんが来たので、魔道具と魔導科について基礎の基礎からおさらいしていきます」


「やっぱり今日はそういう感じなのね」


 先生はアカリの言葉に(うなず)くと、僕の方を向いて話し始めた。


「はい。まず、美旗さんはどれくらい魔道具のことに関して知っていますか?」

 

「僕はほとんど何も知らないです。昔は魔道具も使えたんですけど、小学校に入る前には壊れてしまっていたので……」


「ではまず魔導科の話からしましょうか。魔道具は強大な能力を持っています。ですから放置していると危険ですし、今でこそ減りましたが、貴重なものですから盗難や強盗の被害に遭うということが実際に起こってきました。そこで地域に一つは魔導科が設置されるようになり、更には魔道具を持っている人向けの大きな学校、魔導学院といった施設もできるようになりました」


 ここまでは僕でも知っている話だ。先生は僕が頷いているのを見ると、話を先に進めた。


「次は魔道具の話をしますね。魔道具は普段使われているモノが、その人の精神と結びついた際に、魔力を帯びて顕現するものです。モノと精神がどのようにして結びつくか、未だ詳しいことは解明されていません」


「まだ解明されてないんですね」

 

「はい。一部では研究が行われているようですが」


 魔道具の研究など、少しずつ僕が聞いたことのない話が出てきたが、皆の様子を見る限り、魔導科では普通の話のようだ。


「それと、魔道具と魔導科に関してあまり知られていないこととして、普段からしっかりと扱っていないと、思春期に精神が不安定になって魔道具を制御できなくなる人がいるという点も魔導科が早くから設置されている理由の一つですね」


「それ、僕は大丈夫なんでしょうか」


「サンプルケースがあまりにも少ないので確証を持って話すことは難しいのですが、美旗さんは思春期も終わりかけですし、大丈夫ではないかと思います」


「アンタが中学生とかだったら魔道具が暴走して大変なことになってたかもね」


 アカリがしれっと怖いことを言う。確かにそんなことになる可能性があるなら、もっと慎重になるべきだったのかもしれない。


「アカリちゃん、変なこと言わないんですよ。そもそも制御を失うと言っても動かなくなるだけですから。そんなに危険なことが起こる可能性があるならメイさんに修復の許可なんて出しません」


 アカリの大袈裟な表現を本宮先生が訂正する。上比奈知もそうだが、二人とも平然とした顔で僕を揶揄(からか)ってくる。


「そして、今からはこの学校の魔導科の話になりますが、基本的に昼からは魔道具を使用したり、魔法史を勉強したりと、魔道具や魔法に関する授業を行います。授業はこのまま進めていきますが、美旗さんには別途で課題や補講を行うつもりです」


「追いつけるんでしょうか。僕まだ全然魔道具も使えないですし、魔法史とかも全然知らないし……」


「そのあたりはこちらで調整しますから大丈夫ですよ」


 不安を隠せないでいる僕に先生は優しく微笑む。それを見たメイは、頬を少し膨らませていた。


「先生、私も手加減してほしいです」


「ではメイさんは魔導科のテストを手加減する代わりに課題を三倍にしましょうか」


「やっぱり良いです……」


 少人数ということもあって、先生が授業をするだけではなく、こうして皆が会話に入ってくる。先生もそれを許しているようだったし、僕もこちらの方が過ごしやすく感じる。


「魔道具について話さなければならないことはまだあるとはいえ、初めての授業で一気に話しても混乱するでしょうから、一旦ここまでにしましょうか」


 先生はそれほど多くのことを話したわけではなかったが、環境が変わったこともあって、僕も少し疲れていた。上比奈知から、想定外の言葉が飛び出したのはそんな時だった。


「そういえば、美旗くんって私たちと暮らすことになるんですか?」


「美旗さんが正式に魔導科に転科するなら、そうなりますね。魔導科寮に入寮してもらうことになります」


 (一緒に暮らす?)


 明らかにそう聞こえた気がする。魔導科は生徒は僕たちだけだし、先生も本宮先生だけだ。男がいないことは見るべくもなかったが、一縷(いちる)の望みをかけて質問する。


「……男子寮とかないんですか?」


「昔はあったのですが、ここの魔導科に入る人が少なくなってからは大きめの一軒家を寮代わりにしています」


 普通の一軒家なら、水回りなどは共用だろう。生徒が女子だけならそれでも大丈夫だったかもしれないが、僕が入るのは流石に気が引ける。


「本当にそこに入るんですか? 皆嫌なんじゃ……」


 僕が戸惑っていると、アカリからは意外な答えが返ってきた。


「アタシは良いわよ。覗いたりしたら殺すけど」


「私も問題ない。ハルとは何かと一緒に過ごしてきたしな」


「私も大丈夫だよ。美旗くんは私たちと一緒に暮らすの、嫌?」


 上比奈知は赤い目をこちらに向ける。ここ数日過ごしてきて、僕は上比奈知がことあるごとにこちらを覗き込むようにして見てくることが多いのに気づき始めていた。そして僕自身、こうされると断れないということにも。


「僕は大丈夫だけど……」


「なら、準備しなくっちゃ」


「メイさん。美旗さんが正式に転科すると決まったわけではないですからね」


 先生は上比奈知を(なだ)める。しかし僕としても、案外魔導科の居心地は悪くないし、このまま転科しようとは考えていた。


「確かに一旦こっちに来た、みたいな話だったわね」


「まだ一日も経っていないが、ハルはどうするつもりなんだ?」


 アリスがそう話すと、上比奈知とアカリがこちらを見る。どうせ転科するなら、変に濁すのもおかしな話だし、話してしまうことにした。


「僕は正式にこっちに来ようかなって。今日過ごした感じだけど、こっちの方が合ってる気がするんだ」 


 僕の話を聞いた先生は少し不安そうな顔をしていた。


「もう決めてしまうんですか?」


「人数少ない方が授業も集中できるし、購買とか行けば元のクラスの人にも会えるって分かったので」


「……分かりました。では基本的には転科の方向で進めていきますが、正式に書類を出すのは週明けにしましょう。あと数日、学校でも寮でも過ごしてみて、考えが変わらなければ正式に、ということで」


「分かりました!」


 先生は僕のことを最大限気遣ってくれているのが分かる。普通科から魔導科への転科なんて滅多にないのに、しっかりと対応してもらっていて申し訳なさすら感じるほどだ。


「実は、魔導科に正式に転科する前に一度寮でも過ごしてもらおうと思っていて、美旗さんの準備が出来次第泊まれるように掃除は済ませてあるんです」


「僕の準備なんて大したことないですよ、一人暮らしですし」


 いつもは食事を作り置きしているのだが、ここ数日はバタバタしていて、週末に作ったものは食べ切ってしまっていた。もし家を開けるなら、今が一番良いタイミングだ。


「なら、放課後用意をしてもらえますか?」


「分かりました」


 先生と話していると、控えめに手を挙げたのは上比奈知だった。


「なら、私美旗くんについていって良いですか? 寮まで案内が必要だと思うし……」


「そうですね。ではメイさんにお任せします。時間もちょうど良い頃合いになってきましたし、一旦終わりにしましょうか」


 僕が準備を終えたら寮へ行くということで先生が話をまとめ、僕たちは一度休憩を取ることになった。

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