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魔導科寮の黒一点!  作者: 花宮リオ
始まりの1週間!
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第四話 本宮先生

「そういえば、どうしてこんなに人数少ないの?」


「そもそも魔道具(クリード)を持っている人数が少ない上に、ほとんどの人は十張(とばり)の魔道学院に行くからな。こんな田舎に残っている方が珍しい」


 アリスも幼い頃に両親を亡くしている。魔導学院に通うのには高額な授業料か、試験でものすごく優秀な成績を収める必要があると昔アリスから聞いたことがある。


「この辺りじゃやっぱり不便だから、ちょっとずつ人が減ってるのよ。サキも少しずつ入学希望者自体が減ってるって言ってたわ」


 アカリの言う通り、新入生のクラスは僕たちが入った時よりも一つ減ったと聞いた。ここ、桔梗ヶ峰(ききょうがみね)はどこへ行くにも電車とバスを乗り継ぐ必要があり、不便な土地ではある。僕はこの街が好きだけど、不便さを感じないと言われれば嘘になる。寂しい話ではあるが、出ていく人が多いと言うのも納得だった。


「どこにいくのも大変だし、仕方ないのかな」


 僕がそう話すと、皆から少し物悲しい雰囲気を感じた。皆、僕と同じでここに愛着を感じているのだろう。


「さぁ、ではそろそろ授業を始めましょうか」


 僕たちが話し終わったところで、本宮先生が休憩の終わりを告げ、授業が始まった。最初の授業は至って普通のもので、普通科となんら変わらないどころか、普通科の方が少し進んでいる授業もあるくらいだった。


「美旗さん? どうかしましたか?」


 僕が考え事をして、授業をほとんど聞いていなかったことに気付いたのか、本宮先生に声をかけられる。今までは三十人ほどいたクラスだったから、ある程度は目立たなかったが、僕を含めて四人となると、すぐに気付かれる。


「あ、いや意外と普通だなって」


「そうでしょう。午前中は普通科と変わらない授業ですから」


「これならなんとかなりそうです」


「ふふ。それは良かったです」


 今度は集中して授業を受けていると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「では一旦ここまでにしましょう」


「「「「ありがとうございました!」」」」


「本宮先生って国語も担当するんだね」


 僕はてっきり、普通の授業はその教科の先生が教えてくれるものだとばかり思っていたが、意外にも教壇に立ったのは本宮先生だった。


「うん。本宮先生が全部の授業を担当してるんだよ」


「本当?」


「まさか。冗談冗談」


 上比奈知はそんなことを言いながら、こちらを見ていたずらっぽく笑う。でも確かに先ほどアカリも似たようなことを言っていたような……?


「では授業を再開しますよ。次は数学です」


「え」


 本当に本宮先生が戻ってきた。小学校ならまだしも、ここは高校だ。魔導教員として活動しながら、それで授業を全部行うなんて、アカリの言う通り、同じ人間とは思えない。でも上比奈知は冗談と言っていたはずだ。


「これは、幻惑の力の一つで、いわば分身のようなものです。本体の私はこの建物のどこかで休憩していると思いますよ」


 本宮先生は驚きの表情を隠せないでいる僕に説明をしてくれた。分身が授業を行なっているということは、別に毎回本人が授業に出ているわけではないらしい。でもそれなら、上比奈知の言っていたことは? 僕がそんなことを考えていると、隣の上比奈知がジッとこちらを見ていた。


「私が冗談だ、って言ったのに先生が入ってきた時、すっごく驚いてたね。びっくりした?」


 してやったり、という顔でこちらを見る上比奈知は、クスクスと笑っている。確かにこれのやり方なら、確かに一人で回せるのかもしれないが、結局魔道具はずっと使っていることになる。疲労度があまり変わるとは思えない。


「もう。ほんとにびっくりした」


「ごめんごめん。美旗くんいい反応するから」


 出会ってから、こんな形でからかわれることが増えてきた気がする。まぁでもそんなに悪質なものではないし、気にするほどのことでもない。それに、ちゃんと聞きたいことには真面目に返してくれる。


「でもこんなにずっと魔道具使ってて大丈夫なのかな」


「ここは先生の結界の中だから大丈夫だと思うよ」


「結界?」


「結界は魔道具の能力をその場所限定で固定化してる?みたいなイメージみたい。できる人が本当に限られてるから詳しくは分からないんだけど、先生は前、この中なら『私はほとんど魔道具を使わずに過ごせてる』って言ってたから」


 とにかく、先生はこの魔導科棟であればほとんど魔道具を使わずに過ごしているらしい。魔道具は使いすぎると精神を磨耗する。だが、先生にその心配は無用だった。

 そんなことを言っていると、休憩時間が終わり、授業が始まった。そのあとは、本宮先生が本当に昼休みまでの科目を全て終わらせてしまった。どの授業でも同じ先生というのは、なんだかすごく懐かしい感じがする。


「もうお昼か。でもなんだか結構疲れたな」


「まぁ四人しかいないとはいえ、新しいクラスだから仕方ないんじゃないか?」

 

「それはそうかも」


 人数が少なくなったから、いつもより集中していたし、アリスや上比奈知がいたからあまり意識していなかったが、新しいクラスに馴染むというのも本来体力のいることだ。


「美旗くん、ご飯どうするの?」


「食堂で食べてこようと思ってるけど」


「せっかくだし、ここで食べない?」


「それなら購買で何か買ってくるよ」


 アリスたちは前に並んでいた机を真ん中に集めて昼ごはんの準備をしていた。こうして食べると知っていたら、弁当か何か持ってきたのに。


「私もついていってもいい? お菓子買いたくて」


「うん。なら行こう」


 こうして僕と上比奈知は購買へ行くことになった。教室を出たところで僕は、まずある変化に気付いた。教室の中にいた時には三階からの景色が窓から見えていたのに、廊下に出たタイミングで、廊下の窓には一階からの景色が映っていた。


「一階になってる……」


「今までは三階まで上がってたって言ってたよね」


「うん。玄関のとこにある階段だと三階まで上がれなくてさ、教室も三階の一番奥にあるし……」


「そんな風になってたんだ。魔法にかかってないと、階段はあるけど、普通に三階まで上がれるよ」


 そんなことを話していると、階段を見つけた。先生の術にかかっていない状態でも階段自体は存在しているらしい。試しに二階に上がってみると、そこには三階に続く階段が見えた。


「普通の階段だね……。そういえば、先生ってどこにいるんだろ」


「多分三階のどこかなんじゃないかな。今は空き教室のはずだし」


「あら、二人とも、どうされたんです?」


 僕たちが先生の話をしていると、たまたま先生が三階から降りてきた。この時間に何かあるわけでないから、多分本人のはずだ。


「ちょうど今先生がどこにいるんだろうって話してたんです」


「普段私は先ほどメイさんが言っていた場所にいますよ。何かご用でしたか?」


「いや、授業中に先生の分身が、本体はどこかにいるって言ってたので。購買に行く途中で話してたんです」


「そうだったんですね。私も今から購買に行こうかと思っていまして」


 先生も購買に行くつもりだったらしい。こうして僕たち三人は揃って購買へと行くことになった。購買は普通科の生徒も使う場所だ。もしかすると、普通科で同じクラスだった友達に会えるかもしれない。


「美旗くんはいつも購買で食事を?」


「僕は普段は食堂で食べてるんですけど、魔導科は人数少ないから皆で集まって食べてるみたいで。それで何か買ってくることに」


「私も購買でお昼を買っているんです。私自身は朝起きるのが苦手なので」


 先生は朝が弱いと言っているが、実際には仕事のしすぎなのではないかと思う。先生の話を少し聞いた僕でも業務量が明らかに多いことが分かるくらいだ。それに魔導科棟はいつも夜遅くまで電気がついていて、これは先生が授業の準備をしているのだろうと想像がついた。

 

「私はそれについてきたんです。ついでにお菓子でも買おうと思ってます」


「そうですか。メイさんはいつも皆さんでお弁当を作っていますね」


「はい。今日の当番はアリスちゃんなので、どんなお弁当か楽しみです」


 魔導科の皆は交代で弁当を作っているらしい。こうしてなんでもない会話を聞いているうちに新しいことを知れるのは久しぶりで、新しいクラスに来たのだと改めて実感する。

 そんなことを話しながら歩いていると、すぐに購買に着いた。魔導科棟から食堂は結構な距離があるが、購買はすぐ近くにある。これからは購買で食事を買うことが多くなるかもしれない。


「あれ、美旗?」


「あ、佐藤くん。ごめん急に転科することになっちゃって」


 購買に入ってそれぞれ買い物を始めたところで、クラスメートだった佐藤に声をかけられた。つい昨日まで普通に会っていたのにもう久しぶりな感じがする。


「ほんとだよ。なんか魔導科に転科したって川原と福島から聞いたけど、魔道具が治ったとかなんとかって」


「うん。あそこにいる上比奈知さんが治してくれて」


 僕は菓子を選んでいる上比奈知の方を指した。皆にはなんの説明もすることなく転科になってしまったから、ここで説明できるのはちょうど良い。


「あの可愛い子? どうやって知り合ったんだよ」


「僕が時計無くしちゃって。上比奈知さんが拾ってくれたんだ」


「なるほど。そこから関係がスタートしたのか。それで、どこまでいったんだ?」


「変なこと言わないでよ、もう」


 大袈裟にうなづきながら僕を茶化す佐藤のせいで、時計を治す上比奈知の姿がよぎった。気まずいからできるだけ思い出さないようにしていたのに……。


「それじゃ、もう行くわ。また飯でも食おうぜ」


「うん。また行こう」


 こうして佐藤と別れた僕は買い物を済ませることにした。適当におにぎりとパンを何個か買って、レジに向かう。


「さっきの人はお友達?」


「前いたクラスの友達。何にも話せずにこっち来ちゃったから、とりあえず説明だけできて良かったよ」


「そうなんだ。でも良かったね、早めに会えて」


「うん。多分あいつなら皆にちゃんと話してくれるだろうから」


 佐藤はとにかく口が軽い。言わなくてもいいことまで言うようなやつが、僕の話を聞いてクラスの人たちに話さないわけがなかった。そう考えると、一番最初に出会ったのは都合が良かったのかもしれない。


「お二人とも、買うものは選び終えましたか?」


「「はい」」


 上比奈知と少し話していると、先生も戻ってきた。菓子やパンなど、かなりの量がカゴに詰まっている。


「ここは私が出しますよ」


「そんな、悪いです」


「大丈夫ですから。さぁ、こちらにカゴを」


 そう言って先生はレジにカゴを置くように促す。僕と上比奈知は少し顔を見合わせた後、先生の好意に甘えることにした。


「「ありがとうございます!」」


「ふふ。これを食べたら、午後の授業もがんばりましょうね」


 先生に購買で昼食を買ってもらった僕たちは、そのまま魔導科棟に戻ってきた。先生は三階の教室に戻るらしく、階段のところで別れることになった。普通科にいた頃には担任の先生に何か買ってもらうなんて想像もしなかった。これも人数が少ないことの影響なのか、先生と生徒の距離がすごく近い。


「本宮先生、優しい先生だね」


「でも宿題忘れたらすっごい怒られるよ?」


「それは忘れる方が悪いんじゃ……」


「むー。それは言わないのがお約束」


 多分、先生は上比奈知が言うほど怒っていないのだと思う。正直先生がそんなに怒っている姿を想像できないし、上比奈知も僕がそれを分かった上で話している気がした。

 少し話しながら歩いていると、教室に着いた。今までは三階まで上がっていたのに、不思議な感じがする。


「「ただいまー!」」

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