第三十二話 再訪
食事を摂り終えた僕は、髪を整え最低限の準備だけをすると、玄関へ向かう。
「来たわね」
朝食を摂っていたこともあって、僕が一番最後だった。
「お待たせ。結構急いで準備したつもりだったけど」
「皆今来たところだよ」
「えぇ。それじゃ行きましょ」
僕が謝ると、上比奈知がフォローしてくれる。皆揃ったところで、アカリの号令で僕たちは家を出た。
「アンタの家ってここから近いんだっけ?」
「うん。学校よりは遠いけどすぐ着くよ」
アカリとそんな話をしながら歩いていると、上比奈知は羨ましそうにしている。
「いいなぁ。私は家遠いからあんまりすぐ帰れないんだよね」
「そうなんだ。てっきりこの辺りかと思ってたけど」
「私とアカリちゃんは校区も違うの。中学校とかで見たことないでしょ?」
上比奈知に言われて中学校のことを思い返してみるが、確かに一度も見かけた記憶がない。魔導科と普通科だからかと思っていたが、そういうわけではないようだ。
「言われてみれば見たことないかも。でもそれならどうしてここに?」
魔導科の設置されている学校は少なくない。校区が違うほど遠いのであれば、わざわざこんな辺鄙な所へ来なくても良いはずだ。
「メイちゃんがここに行くって言ったから私もついてきたの。それに……」
「ま、ここならサキもいるし。アタシはここに行くの決まってたから」
アカリは寮の方向を振り返りながら、苦笑いしている。アカリがいなければ先生はどうなっていたのだろうか。
「そっか。アカリってこんな感じだけど財閥の御令嬢だもんね」
「こんな感じって何よ」
聞き捨てならないとアカリは詰め寄ってくるが、正直アカリは財閥の御令嬢というよりは大家族の長女といった風体だ。
「まぁまぁ、しっかりしてるってことで」
「悪いな。ハルはいつも一言多いんだ」
アリスは僕を擁護になっているのか微妙にわからないような発言をする。
「ま、いいわ」
こうして歩いていると、学校が見えてきた。ここまでくれば後は半分くらいだろう。
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「こっちが僕の家の方で、向こうがアリスの家の方向なんだけど」
「二人ずつで別れるか。私の方はすぐ片付くだろうから、こちらを片付けたらハルの方へ向かおう」
僕たちはちょうど僕とアリスの家へ向かう分岐点へ来ていた。二人で別れるなら、ここが最後の地点だ。
「ならジャンケンしよ。負けた方が僕のところね。絶対片付ける量多いから」
「ハル、それ自慢気に言うことじゃないぞ」
僕が胸を張っていうと、上比奈知は笑ってくれたが、アリスとアカリには呆れられる。
「アカリちゃん、ジャンケンしよっか」
「はいはい。アタシは別にどっちでもいいけどね」
上比奈知に拳を軽く振って催促されたアカリは、手を前に出す。
「「じゃーんけーん、ぽんっ」」
勝ったのはアカリだった。負けた上比奈知には気の毒だが、僕の部屋の掃除を手伝ってもらうことにした。
「決まったわね。アタシはアリスのとこ行ってくるわ」
「あぁ。二人とも、また後でな」
「うん。また後で」
こうして二人はアリスの家へと向かっていった。上比奈知と二人、道路に残された僕たちもひとまず家へと向かうことにした。
「私たちも行こっか」
「うん。前上比奈知さんが来たとき部屋に荷物詰め込んだのに、結局見られちゃうね」
「ふふっ、確かに。どうせならあの時片付けとけば良かったね?」
「ほぼ初対面みたいな感じだったのに、そんなの頼めないって」
「それもそっか。でも、前行った時は結構綺麗だったよ?」
上比奈知はこの間のことを思い出しているようだった。だが、あれは床に落ちているものや部屋干しの洗濯物などを僕の部屋に押し込んでなんとか作った、見せかけの小綺麗さだった。
「その代わり僕の部屋は悲惨なことになってるんだよ。どうしようかな、あれ」
「美旗くん、寮の部屋も綺麗だし、あんまり想像つかないけど」
上比奈知とそんな話をしていると、マンションの前に着いた。
「着いたー!」
「そんなに日数経ってないのに久々な感じする」
「寮来てからも色々あったもんね?」
上比奈知はこちらに顔を傾けている。思い返せばこの数日は本当に長かった気がする。
「転科しただけなのに、全然違う学校行ってるみたいだったかも」
「美旗くんの様子見てたら普通科とはだいぶ違うみたいだし、大変だよね」
「うん。でも皆のおかげでなんとかなってるよ」
上比奈知と話しながらマンションの中を歩いていると、僕の部屋に辿り着いた。
「どうぞ」
僕は鍵を開けて、上比奈知を招き入れる。
「お邪魔しまーす。美旗くんの家来たの今週のことなのに、確かに久々な感じするね」
「皆も僕が増えて、普段とは違う生活だったからじゃない?」
それを聞くと、上比奈知は納得したらしく、何度か頷いていた。
「まぁそんな話は置いておいて、片付けと準備始めよう」
「私何すればいいかな?」
「とりあえず僕の部屋の物出すの手伝ってもらおうかな……。すごいことになってるから」
僕は自分の部屋の前まで来ると、恐る恐る扉を開ける。中はこの間放置していったままの状態で、それは悲惨な有様だった。
「わぁ……。これは……」
上比奈知は部屋の様子を見て若干引き気味だ。
「そんな目で見ないで……。高校生の一人暮らしなんてこんなもんだよ」
「アリスちゃんが見たら卒倒するんじゃない?」
「多分相当怒られるんじゃないかな。昨日の段階で覚悟はしてたんだけど」
アリスを呼ぼうと決めたときには既に、鬼のような形相をしたアリスを思い浮かべながら覚悟を決めていた。上比奈知にこんな部屋を見られるのはどうかとも思ったが、怒られなかったという意味ではラッキーだったかもしれない。
「この服なんてハンガーにかかったままだよ?」
「それは上比奈知さんが来たときに干してたやつだから……。そのままそこに放り投げちゃった」
「この前なんて、そんなに急がなくても良かったのに」
「焦ってたからね。外で待たせちゃ悪いし」
「これどうしよっか?」
上比奈知はハンガーにかかったままの服を持っている。皺だらけになっているからアイロンでもしたいところだが、それは向こうに持っていてからでもできそうだ。
「一旦寮に持って行こうかな。置いといてくれる?」
「うん! ……あ、これ私も読んでるよ?」
次に上比奈知が手に取ったのは読みかけのミステリー小説だった。確か本屋で平積みになっていたのを買った記憶がある。
「ほんと? でもそれまだ途中なんだよね」
「むぅ。色々話せると思ったのになぁ」
上比奈知は頬を膨らませていた。読みかけではあるが、小説自体は面白かったから、また読んでおこう。
「また読んどくよ。ミステリーとか結構好きなの?」
「ミステリーも好きだけど、その作家さんが好きなの。普段は小説じゃなくて漫画描いててね」
上比奈知はその作家のことを話してくれる。漫画家でありながら小説家らしく、器用な人もいたものだと感心する。
「ってことはいつもは漫画読んでるの?」
「えへへ、そうなの。小説は苦手かも。高校生なのにね」
上比奈知は自分の髪を撫でながら恥ずかしそうにしている。僕も小説は読まないわけではないが、漫画を読むことも多い。
「僕も結構漫画読むこと多いよ。アリスは結構難しそうな小説読んでるけど、僕もあんまり」
「そっか。似た物同士だね、私たち」
「確かに。結構似てる? かも」
僕は上比奈知と話しながらも、メモを見ながら寮で必要なものを集めていく。
「そのゲーム機取ってくれない?」
「これ?」
上比奈知はゲーム機が置かれている中から、据え置きのゲーム機を指す。
「ごめん、それの隣の小さいやつ」
上比奈知は携帯型のゲーム機を取ると、興味深そうにまじまじと眺めている。
「これ、どんなゲームなの?」
「ソフト色々あるよ」
僕は上比奈知の方へ行くと、棚を漁る。
「結構あるね」
「ほとんど古いのだけどね」
今魔mでは一人で過ごしていて、そこまでお金に余裕があるわけではなかったから、旧式のゲーム機を安くで買って、それで遊んでいた。
「あ、こっちのアカリちゃんの部屋でやったことあるよ」
上比奈知は棚に並んである対戦ゲームを手に取る。
「そうなんだ。……ちょっとやる?」
「やろやろ! 私結構強いよ?」
「ほんと?」
そんなことを言いながら、僕たちは据え置き型のゲーム機を起動する。
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