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魔導科寮の黒一点!  作者: 花宮リオ
始まりの1週間!
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第二十八話 お披露目

「皆さん、着きましたよ」


 先生の優しい声がして、目が覚める。


「あれ、もう……?」


「はい。皆さんぐっすりです」


 先生が後ろを振り返って話すので、釣られて後ろを見てみると、三人が肩を寄せ合って眠っている。


「もう着いたのね。二人とも、起きなさい」


「あぁ……」


 アリスはまだ眠たげだ。上比奈知も目を覚ましたらしい。


「おはようございます……?」


 上比奈知はまだ若干寝ぼけているようだが、ともかく皆起きた。


「それでは荷物を中に入れましょうか」


「はい」


 僕たちは車から降りると、少し伸びをしてからトランクの荷物を運び出す。


「これどこ置く?」


「後で片付けるから、そこ置いといて」


 僕はアカリに指示を仰ぎながら、荷物を下ろしていく。


「これで最後かな?」


 上比奈知が持っているのは僕の服が入った袋だった。


「あぁ。それが最後だな」


 荷物を取り出していたアリスも玄関に顔を出す。


「では私は車を仕舞ってきますね」


「お願いします」


 先生が車に乗り込むと、すぐに車は車庫へと消えていった。


「こっちも残り片付けるわよ。メイとアリスも手伝ってちょうだい」


 アカリはリビングから戻ってくる。残りは半分ほどだ。


「うん。これ持ってくね」


「って、それ自分の服じゃない。なんでリビングに持っていくのよ」


「皆のまとめて入ってるし……。皆で着替えようよ」


「コイツもいること忘れてない?」


 堂々とリビングで着替えようとする上比奈知に対して、アカリは僕の首根っこを掴んで上比奈知にそう話す。


「美旗くんには部屋で待っててもらう、ってことで……だめ?」


「ダメに決まってるでしょ!」


 アカリはすごい勢いで上比奈知に突っ込む。


「もう、冗談だよ。上で着合わせてみる?」


「そうしましょ」


 こうして上比奈知は服を上へと持っていく。やはりそちらの方が良いだろう。


「片付けも終わったし、ちょっとお茶でもしようかしら」


 アカリはリビングへと向かう。そんな所でちょうど先生が戻ってきた。


「ただいまです」


「お帰りなさい」


「サキ、アンタもお茶要る?」


「はい。いただきます」


「なら淹れとくわ。……アンタは?」


 アカリは僕の方を一瞥するが、お茶をする気分でもなかった。


「僕はいいかな。部屋の片付けでもしてくるよ」


「そう。それじゃ、また後で」


 こうしてアカリと先生と別れた僕は自分の部屋へと戻ってきた。先ほど買ってきた服を取り出して、タグを切る。これであとは洗濯に回すだけだ。

 あの時は結局アリスが選んだものを買ったが、今になってせっかく皆が選んでくれたのだから、セットでとはいかなくとも、どれか一つずつでも買っておけば良かったと後悔の念が生まれ始めていた。


(今度行った時はそうしようかな)


 そんなことを考えていると、ふと明日ここに持ってくるものを書いたメモが目に入った。持ってくるものをこうしてみていると、明日から本格的にここで暮らすのだという実感が湧いてくる。


(そう言えば、寮費とかってどうなってるんだろ)


 先ほども先生が支払いをしていたから、寮費は当然かかっているはずだ。今思えば僕は一度もそんな話をされていなかった。


「美旗くん、いる?」


 部屋の戸が叩かれたのはそんな時だった。外からは上比奈知の声がする。


「いるよ。どうぞ」


 僕がそう言うと、すぐに扉が開く。そちらに目をやると、先ほど買ってきたのであろう服を着た上比奈知が目の前に立っていた。


「ほら、アリスちゃんも」


「な、なんで私まで……!」


 後ろから、アリスも引っ張られてきた。アリスは壁に張り付いて抵抗していたが、最後は折れて部屋に来た。


「なんでここに……?」


「美旗くん、私たちが服買った時いなかったでしょ? だから見て欲しくって」


 上比奈知はそう言ってくるりと回ってみせる。上比奈知の格好は薄ピンクのジャケットとスカートに、白いシャツといった少しフォーマルなものだった。


「何か、感想は?」


「えっ、感想……?」


 上比奈知は意地悪な顔で近づいてくる。感想と言われても、変なことを口走れば確実に揶揄われるだろう。いやもうすでにこの状況が揶揄われているのかもしれないが。


「え、えぇ……と、か、かわいい、よ……?」


「ほんとに?」


 上比奈知はそう言って顔を寄せる。僕が座っているせいで、普段よりもずっと顔が近く感じる。


「ハル、わ、私のは……?」


 アリスは少し俯きながらこちらを見つめていた。僕がアリスに目を向けると、アリスはサッと目を逸らしてしまう。

 アリスが着ていたのは黒で統一されたセットアップだった。こちらも上比奈知と似たフォーマル寄りなものだが、これは可愛いというよりもかっこいいというのが僕の正直な感想だった。


「可愛い……」


 僕の感想に反して口から漏れ出たのは、可愛いという言葉だった。この気持ちはどちらかといえば、服装に対しての感想というより、アリスの仕草に対して抱いていた感情だった。


「な、なんだそれは……! かわいい……なんて……」


 俯いていたアリスだったが、今はもうほとんど上比奈知の影に隠れてしまっていた。


「アリスちゃんったら照れちゃって」


「も、もういいだろう」


「ふふ、それじゃ戻ろっか。ごめんね? 突然押しかけて」


「ううん、全然」


 こうして上比奈知はアリスを連れて部屋から去って行った。急に来た時は何事かと思ったが、アリスの珍しい姿も見れたし、悪くなかった。


(何かゲームでもしようかな)


 そう思って僕は辺りを見渡したが、ゲーム機は持ってきていなかった。ここ数日は何かとバタバタしていて、ゲームをすることもな買ったから気づいていなかった。

 課題は昨日のうちに済ませてしまったし、こうなればもう寝るくらいしかできることがない。


 あまり眠くはなかったが、僕はベッドで横になることにした。




♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎




「ちょっと、寝てるの?」


 外からアカリの声がして目が覚める。何か呼ばれているようだった。


「う……ん。起きてるよ……」


「ほぼ寝てるじゃない」


 僕はベッドから起きて、部屋の扉を開ける。


「今起きたんだ」


「起こしちゃって悪いわね」


「どうかした?」


「酢飯冷まして欲しくって」


 アカリは手にうちわを持っていた。あまりよく分からないまま僕は軽く頷くと、アカリからそれを受け取る。


「もう夜ご飯の時間?」


「そろそろね」


 僕はアカリについてリビングへ行く。すると食卓には小ぶりの木桶にご飯が敷かれていた。


「パタパタ扇いでたら良いから。やったことある?」


「ごめん、ないかも」


「そ、うちわ貸して」


 アカリはうちわを持って酢飯を冷ましていく。僕は一人暮らしの期間がかなり長く、こう言った大人数で食べる物はほとんど経験がなかった。


「あとはこれで味調整してくれても良いから」


 アカリは自身の手元に置いてあった寿司酢をこちらへ渡す。といっても酢飯の調整なんてしたことがなかったから、一旦それは置いておくことにした。


「それじゃ、アタシは柵切ってくるから」


 こうして僕はリビングで一人残された。このリビングも大分見慣れてきた気がする。ふと窓の外に目をやると、日がとっぷりと暮れ始めていた。


「アンタ、手が止まってるわよ」


 キッチンの方からアカリの声がして、慌ててうちわを動かす。知らぬ間に手が止まっていたらしい。


「ごめんごめん」


「全く、サキじゃないんだから、ちゃんとやってよね」


 アカリの声はその声だけでも表情の想像がつくほどだったが、依然として僕はアカリに怒られない程度に手を動かしながら、日の暮れていく窓辺をゆったりと見つめていた。 

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