第二十五話 邂逅
「お待たせしました」
「凄い変わったお店だったね……」
「頭痛くなりそうだったわ」
「……先生、何を買われたんです?」
アリスは先生の持っている小箱が気になっているようだった。確かに先ほどまでは持っていなかった。
「これですか? 可愛いものを見つけてしまいまして。思わず……」
先生が取り出したのは木目調のマグカップだった。しかし取っ手にコアラの人形が付いていて、着脱ができるというわけでもなさそうだった。
「それ、マグカップとして使えないんじゃないの」
「置き物でもいいかなと……」
「はぁ……。今度こそ行きましょ」
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「こんなとこでいいわよね」
「あぁ。ここなら男物もあるな」
アカリが選んだ店は先ほどとは打って変わって無難な店だった。
間口は広く、メンズと書かれた札が上から吊り下がっているのも見える。
「それでは選んでいきましょうか」
「サキ、アンタは荷物持ってて」
「そんな……」
先生は肩を落として落ち込んでいる。確かにセンスは独特だが、先生も真剣に選んでくれているのだから、このまま放置というのは流石に可哀想だ。
「僕が持っときますから先生も服選んできてくださいよ」
「いいんですか?」
「アンタねぇ……。よくやるわ」
「まぁ先生も悪気があるわけじゃなさそうだし」
「それじゃあ僕は一旦外で待ってるよ」
「見にこないの?」
「見てたら面白くないかなって。荷物も多いし」
「ならそこで待ってなさい」
こうして僕は店先で上比奈知たちを待つことにした。皆の荷物が増えてきて、一人で持つとなるとそろそろ大変になってきた。
「お前、変な匂いがする……」
「へ!?」
僕が壁にもたれていると、突然紫髪の少女が声をかけてきた。
「えと、どちら様……?」
「魔道具使い……? でも……」
こちらの話は耳に入っていないようだった。僕の胸元のあたりで仕切りに匂いを嗅いでいる。側から見れば僕たちまとめて明らかに不審者だ。
「ママー。あの人たち何してるの?」
「ちょっと、ジロジロ見ないの!」
通りすがりの親子は僕たちの様子を見て慌てて去っていった。明らかに異常だが、どうしようにもここまで近寄られていては身動きが取れない。
「おい、何をしている」
少女の肩を掴んで僕から引き剥がしたのは紺のジャケットにローブを羽織った銀髪の男性だった。
「すまない。連れが不躾な真似を」
男性は僕に向かって頭を下げる。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「悪いが、俺たちはこれで」
「これ……何……?」
男性は独り言を話す少女を強引に引っ張って去っていった。
(なんだったんだ今の人たち……)
変わった人もいるものだなと思っていると、一足先に先生が戻ってきた。
「あれ、先生どうかしたんですか?」
「今の方達は?」
先生に心配そうな顔で質問される。店内からも見えていたのだろうか。
「なんか男女二人組でした。女の人がブツブツ言いながら僕に近づいてきて」
「何もされませんでした?」
「はい。男の人が僕に謝って女の人連れてっちゃいました」
「なら良かったです。先程のローブを着た人たちは十張の魔導学院の生徒ですね」
何事もなかったと知ると、先生の顔は明るくなる。
「そうなんですか?」
「えぇ。こんなところで見かけるのは珍しいと思います」
「それにしても先生が駆け寄ってきたから何事かと思いました」
「二人組に詰め寄られていたので何かトラブルでも起きたのかと思いまして」
「そんな、カツアゲなんてされないですよ」
「それでも心配になるものですよ。やっぱり皆さんと一緒にいませんか?」
僕が一度外でいると言った手前、先生は控えめに提案する。僕は自分が何を着るか分からない方が面白いかと思っただけだったので、先生の提案に従うことにした。
「はい。また変な人に声かけられたら面倒だし、そうします」
「では皆さんの所へ行きましょうか」
こうして僕は店内へと入ることになった。
店の中に入ると、入って左手の方に皆の姿が見える。茶髪に赤髪、青髪とカラフルだからすぐ目に止まった。
「あ、美旗くんだ」
「外にいたら変な人に声かけられちゃって。皆と一緒にいようって先生が」
「そうだったのか。何かされたりはしなかったか」
「うん。大丈夫」
三人とも、不安気な顔でこちらを見つめている。余計なことは言わない方がよかっただろうか。
「そういえば皆、僕の服のサイズとか知らないのにどうやって選んでたの?」
僕は先程流れで出てきてしまったが、一体皆はどういう基準で選んでいたのだろうか。
「私が大体知っている」
「あ、そっか」
普段からアリスと買い物に行っていたから、よく考えればアリスは覚えていてもおかしくない。先程アカリにはなんでも入りそうだと言ったが、僕こそなんでも着れるちょうど良いサイズ感だった。
「それに美旗くんちょうどMサイズぐらいでしょ?」
「そうだね。いっつもそれくらい」
「ってことで色々選んであるから」
アカリが取り出したのはショッキングピンクのポロシャツだった。
「さっきの店から持ってきたの? これ……」
「そんなわけないでしょ。着てみなさいよ、それ」
「嘘でしょ?」
「ほら、試着室行きましょ」
アカリにカゴを二つ渡される。普通に選ばれたものから、明らかなキワモノまで、様々な服が入っていのが分かる。僕は諦めて試着室へと向かうことにした。
「ちゃんと上下で揃えてあるから、上から取ってね?」
試着室に入ると、外から上比奈知の声がする。確かにカゴの中を覗いてみると、組み合わせがしっかりと考えられているようだった。
「分かった。とりあえず一番上から着てみるよ」
こうして僕はカゴの一番上から服を取っていく。一番上にあったのは先程のポロシャツと、その下から出てきたのは真っ白なスラックスだった。
(よくこんな組み合わせ思いつくな……)
「美旗くん、何か着れた?」
「うん……」
僕がその格好で試着室のカーテンを開けると、アカリは必死に笑いを堪えている。
「ア、アンタ想像以上ね……。くくっ」
「ハル、律儀にそれを着なくても……」
アリスは若干引き気味だ。僕も別に着たくてきてるわけじゃないんだから勘弁してほしい。
「手に取ってる時からも思ってたけど、美旗くんに着てもらったらほんとに凄い色だね?」
上比奈知は笑いを通り越して感心している。
「十分可愛いと思いますが」
先生は満足げな顔だ。ということはこれを選んだのは先生なのだろうか。
「これ、もしかして先生が……?」
「よく分かりましたね」
「いやまぁ分かるというか……」
「私たちはちゃんと選んだよ? 変なのもちょっと混ぜたけど」
上比奈知はしれっと、変なものを混ぜたと公言する。分かってはいたことだが、少し気にもなってきた。
「とは言っても、組み合わせが変なだけだ。ここまでのは流石にもうないぞ」
アリスの言葉を聞いて、僕は胸を撫で下ろす。今と同じようなのがずっと続けば、流石に試着する意味がない。
「それじゃ、着替えてみる」
「あぁ」
こうして僕は一旦、カゴの中を漁ってみることにした。上はTシャツから七部丈のもの、重ね着をしているように見えるものから、下はチノパンやカーゴパンツ、ジーンズまで色々なものが入っていた。
しかし、見ている限りほとんどまともな組み合わせになっていた。三つだけ明らかにおかしな組み合わせがあったから、三人が一セットずつ考えたのだろう。
僕は先にふざけたものから着てみることにした。
「着替えたよ」
「アンタ、それ野球帽被らないと」
「ほんとに!?」
僕がきている服はYシャツのような服にカーゴパンツ、それにカーディガンがセットになっていた。これだけでも何がなんだか分からないのに、この上から野球帽も被らないといけないらしい。
「これはアタシのコーデね」
「コーデって言えるのこれ……」
「ギリギリ野球場ならいけるでしょ」
アカリは笑いながらそう話す。これで外に出かけるのはいくらなんでも無理がある。
「いけないよ!? もう、次の着るから」
「はいはい」
こうして僕は、次の服に着替えることにした。




