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魔導科寮の黒一点!  作者: 花宮リオ
始まりの1週間!
24/35

第二十四話 砂上の楼閣

「次はアンタの服買う?」


 昼食を摂っていると、アカリが口を開いた。特に予定を立てずに来たから、この後どうするかまでは考えていなかったが。


「皆の用事が終わってるならそれでも全然」


「他、何か用事ある人は?」


 アカリの言葉にアリスと上比奈知は首を振る。


「私も特にはありませんよ」


「ならアンタの服選んで、食料品買って帰りましょ」


「そうしようか。そういえばハルはどんな服が欲しいんだ?」


「何にも決まってないよ。なんか流れでそうなっただけだから」


「アンタねぇ、選ぶにしても要望がなかったら何にも選べないじゃない」


「とりあえず色々着せてみようよ」


「ま、それが一番面白いか」


 ここで面白い、という言葉が出てくるのが恐ろしいが、それはもう今朝車に乗っている時から分かっていたことだ。僕は諦めて黙々と昼食を食べ進める。


「すみませんが、私パン取ってきますね」


「はい」


 奥に座っている先生を通すために一旦席を立つ。先生が食べていたオムライスは昔ながらのシンプルなもので、パンに合いそうではなかった。

 食後に甘いものを取りに行くと言っていたからデザートのようなものを持ってくるのだろう。


「でも私たち男の子向けの店って全然分かんないよね」


 食事を摂り終えた上比奈知は紅茶を飲みながらそう話す。


「私は少しなら分かるぞ」


「珍しいわね。こういうの興味ないと思ってたけど?」


「ハルと買い物に行っていたからな。多少は知っている」


「そういうこと」


 アカリは納得した顔だ。男物の服でさえ、正直服選びのセンスはアリスの方が上だと思う。


「……アリスちゃんがどんな服選ぶのか見てみたいな!」


「選ぶと言うが、一から選んでいるわけではないぞ。ハルが持ってきたものが変な組み合わせだったら別の色や形のものを提案するだけだ」


「あと僕何も考えずに服買ってるとおんなじようなのばっかりになっちゃうから」


 それに最近はそもそも服を買う機会すら少なくなっていた。気心の知れた友人たちと遊ぶだけならそこまで服装に気を遣うこともない。


「ま、アタシたちに任せときなさいよ」


 かなり心配ではあるものの、大人しく皆に任せることにした。


「あ、先生お帰りなさい」


「色々取ってきちゃいました」


 先生の皿にはいくつものパンが盛られている。

 

「サキ、アンタほんとにそれ食べ切れるんでしょうね……」


「大丈夫ですよ。食べ切れなくなったら結界の強度を上げて、魔力を消費しますから」


 先生は自信満々に答えているが、アカリは引き気味だ。確かに何もそこまでして食べなくとも良いと思うが。


「この後はどうします?」


「美旗くんの服見に行こうかって話してたんです」


「ふふ、今日のメインイベントですね」


「先生まで……」


「大丈夫です。ちゃんと選びますよ」


 先生はそう話しているが、アカリは先ほどからずっと笑いを堪えている。なんとなく察せられるが、見て見ぬふりをしておくことにした。




♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎




「いやぁ美味しかったですね!」


 昼食を摂り終えた僕たちは、僕の服を探すためにショッピングモールを歩いていた。


「まさかほんとにあの量食べ切るなんて……」


「なんで先生ってあんなに食べてその体型維持できるんですか……? 私にも分けて欲しいですその能力」


「メイ、やめておけ。先生と同じことするなら脳が焼き切れるぞ」


 前聞いた話によると、先生は常に魔力を使って実習所や学校、寮の結界を維持しているらしい。魔導科に来た時、アカリは同じ人間と思わない方がいい、と言っていたが、確かにその通りかもしれない。


「それに私は万が一体重が増えてしまっても分身がありますから」


「それ前も言ってたけど昔太った時分身の方も体重増えてたじゃない」


 アカリはすかさず突っ込む。それなら結局意味はない気がするが、本体が時間を取れれば痩せられるということでもあるのだろう。


「それで、これどこ向かってるわけ?」


 飲食店が集まっているフロアから降りてきた僕たちだったが、どこへ向かっているかはその実僕も知らなかった。


「とりあえず近い所から見て回ろうかと思いまして」


「そう。ならここにもメンズ服ありそうじゃない?」


 アカリの目線の先には、店先に肩や胸のあたりにトゲがついた服一式が飾られている店だった。

 ここは僕も友達と一緒に来た時に見たことがあるが、奇抜な服ばかりを取り揃えているこのショッピングモールでも一番異色の店だ。


「ここ!? いやあるにはあるだろうけど……」


「何よ、文句でもあるの?」


「文句っていうかここ明らかにキワモノの店でしょ! 普通の服選んでよ……」


「ふっ」


 僕が命乞いをしていると、アカリは鼻で笑う。上比奈知もかなり茶目っ気のある方だと思っていたが、アカリはストレートに遊ばれているという実感が湧いてくる。


「ま、流石に冗談だけ──」


「ではここから見ていきましょうか」


 アカリが半笑いで別の店へと歩きかけた時だった。

 先生は真顔で躊躇いなくこの店へと入っていく。


「「え」」


「? どうしたんです? 皆さん固まって」


「「いらっしゃいませ──!!」」


 先生が店の中に足を踏み入れてしまったものだから、店員に大きな声で挨拶をされる。こうなってしまっては入るしかなさそうだ。


「……とりあえず入りましょ」


「うん……」


 店内は薄暗く、どこから持ってきたのかもよく分からないような服が並んでいる。


「美旗さん、これはどうでしょう」


 先生が手に取ったのはダメージジーンズだった。……だったが、よく見てみると前側の生地がほとんどない。正直服と言えるのかも怪しかった。


「いやこれはちょっと……」


「そうですか? うーん、どんなのがいいですかね」


 先生は困惑する僕を横目に店の奥へと進んでいく。


「ちょっと、サキほっといたらほんとにここで買うことになるわよ」


「さっき店の中で笑い堪えてたからなんとなく察してたけど、先生のセンスって……」


「壊滅的よ」


「どうしよう」


「美旗くん! こんなのどう?」


 上比奈知は悪戯っぽく笑って服を持ってきた。広げてみると、筋骨隆々な身体が服全体にプリントされている。


「もう! 上比奈知さんは分かっててやってるでしょ」


「普段は入らないけど、変わったのあって面白いね」


「それはそうだけど、さっさとサキ捕まえるわよ」


「うん。って何これ、首輪?」


 アクセサリーが並んでいるところにはなぜか赤色の首輪が置いてあった。その横には首だけのマネキンも。


「首輪、欲しいの? お手する?」


 上比奈知は僕の前に手を出す。さっき僕を揶揄っているところをアカリに見られて恥ずかしがっていたのに、性懲りもなくそんなことをするとは。


「……わん?」


 こちらを揶揄ってくる上比奈知が意外と脆いことに気付き始めていた僕は、あえてそれに乗っかることにした。


「! ……もう、ばか」


 僕が上比奈知の手に手を重ねると、上比奈知は顔を真っ赤にして、少し俯く。


「美旗さん、これは……。あら?」


「「先生!?」」


「どうしたんですか? そんなに驚かれて」


「それは……その……」


「って、なんですかその服! 店の前に置いてあったのとほとんど同じじゃないですか」


 先生が手に持っていたのはヴィジュアル系バンドが着ていそうなトゲトゲした服だった。


「かっこよくないですか? これ」


「いや否定はしませんけど、普段使いはできませんよねそれ」


「こういう人が歩いても面白いと思うのですが……」


 先生はキョトンとした顔でこちらを見つめている。本気で言っているらしい。


「あ、いた! サキさっさと行くわよ!」


 店の中で先生を探していたアカリとアリスが戻ってきて、事なきを得た。


「戻してきます……」


「それじゃ、店先で待ってるから」


 こうして僕たちは一足先にこの変わった店を出ることにした。

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