第二十三話 ツーカー
「それにしてもハルとここに来るのは初めてな気がするな」
「僕たちが買い物行く時はほとんど十張だったもんね」
アリスが去年入寮するまで、僕たちはよく一緒に買い物へ出掛けていたが、車でなければかなり遠いこちらのショッピングモールではなく、電車で十張の方へと出かけることが多かった。
「ここって車ないと来るの面倒だもんね。私もここの寮に入るまではあんまり来たことなかったよ」
「便利なんだけど辺鄙な場所にあるよね。僕もたまに友達と自転車で来ることあったけど、すっごい時間かかって……」
「うんうん。って、美旗くん自転車で来たことあるの!?」
上比奈知は一瞬スルーしかけたが、すぐに目を丸くする。
「一時間くらいかかったよ。冬場だったからすごい寒くて」
「何してるんだ全く……」
アリスは呆れ顔だ。一度やって後悔してからは皆大人しく十張で遊ぶようになったから勘弁して欲しい所ではある。
「よし、揃ったわね」
少し前を歩いていたアカリと先生は店の前で待ってくれていた。僕がここにきたときは大体皆とフードコートで食べていたから、こういう所で食べるのは初めてだ。
「それではいきましょうか」
「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか?」
「五名でお願いします」
「かしこまりました。ではご案内いたします」
こうして僕たちは奥のテーブル席へと案内された。
「お決まりになりましたらこちらを押してください」
店員はテーブルに置いてあるベルを差し、席を離れていった。
「私は決めてありますので。皆さん遠慮しなくとも構いませんよ」
「まぁ散々探すハメになったし? 何食べようかしらね」
「僕はオムライむ頼もうかな。先生の話聞いてたら僕も食べたくなってきちゃった」
「ならアタシはヒレカツにしようかしら。ここのそれなりに美味しいのよね」
アカリはメニュー表を見ることもなく決めてしまう。
「私は海鮮系のものが食べたいな」
アリスはそう話すとメニューを手に取ってパラパラとページをめくっている。
「皆ここよく来るの?」
「たまにだけど、何回かは来たことあるよ?」
上比奈知とメニューを見ながら話を聞いていると、どうやらアカリと先生はもう少し多く来たことがあるようだった。
先生は遠慮をしなくていいと言ってはいたものの、値段を見るとやはり躊躇してしまう。僕はメニューの一番端にあったアヒージョを頼むことにした。
「なら僕、このアヒージョにしようかな」
「メインはどうするのよ」
「メイン?」
「それオードブルでしょ」
「え、そうなの?」
「アンタねぇ……。メインはこっちよ」
アカリはため息をつきながらメニュー表をめくっていく。
「グラタン美味しそう」
「ならそれにしたら? ……金額なんて気にしてもしょうがないわよ」
「え、」
「分かるわよ、それくらい。二人だって最初はそうだったし」
「美旗さんを見ていると去年のお二人を思い出しますね」
先生はそう言って微笑んでいる。
「今まで外食する機会は少なかったので。それに四人分全部出してもらうのも……」
アリスは遠慮しがちにそう話す。
「いいんですよ、気にしなくて。私が出したくて勝手にやっているんですから」
「そうは言ってもやっぱり気にします」
「ね。私もアカリちゃんに背中押されないとまだあんまり……」
「難しいですね……。皆さんにあまり気にして欲しくはないのですが」
先生は肩をすくめている。いくら先生がお金を持っているとはいえ、それとこれとは別問題だ。
「ま、なんでも頼みなさいよ。どうせサキが一人で持ってたって使い切れないんだから」
「なら私はこのアクアパッツアでお願いします」
「私はこれ食べようかな」
上比奈知が見ていたのはカマンベールの乗ったカルボナーラだった。
「皆さん決まりましたか? それでは頼みましょうか」
皆が何を食べるか決まった所で先生はベルを押した。
「お決まりでしょうか」
「オムライスと、ヒレカツ、グラタンにアクアパッツアとカルボナーラでお願いします」
「かしこまりました」
店員は一礼すると店の奥へと消えていった。
「そういえばここ、パン食べ放題なのよね」
「そうなんだ」
「皆の料理来たら取りにいきましょうか」
「はーい!」
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「お待たせしました」
少し待っていると、店員がカルボナーラとヒレカツを持ってきた。
「「ありがとうございます!」」
「二人とも、冷めない内に食べてくださいね」
「ん。でも先にパン取ってこようかしら」
「アカリちゃん、いこっか!」
こうして上比奈知とアカリはパンが陳列されているところへ向かっていった。
「アリスさんと美旗さんは幼馴染なんですよね?」
「そうですね。ハルとは随分長い付き合いになります」
「最近お二人を見ていると、長く一緒にいるのだと分かることが増えてきましたよ」
「ほんとですか? 僕は自覚ないです」
「えぇ。美旗さんはアリスさんと二人でいる時だけ、メイさんやアカリちゃんを前にした時のぎこちなさのようなものが見えないので」
「それはそうかもです。気心知れた仲ですし」
「魔導科に転科するにあたってアリスさんのような方が一人でもいたのは幸いでしたね」
「はい。これからも頼りにさせてもらいます。ね、アリス」
「……あぁ。なんでも任せてくれ」
アリスからは笑みが溢れた。最近は上比奈知といることが多くてアリスとも中々話せていなかった。アリスのこんな顔を見るのも久々な気がした。
「お待たせしました」
そんな話をしていると、残りの料理が運ばれてきた。
「お二人とも、パンを取ってきていいですよ」
「ありがとうございます。先生は何か要りますか?」
「私はオムライスなので……。あとで何か甘いものを取りに行こうかと」
「分かりました。では行ってきますね」
僕たちが歩いていると、アカリと上比奈知がちょうど戻ってきた。
「アンタたちの料理届いたの?」
「うん。先生は後から行くって」
「そう。それじゃ、アタシたち先に戻ってるから」
二人と別れ、パンが陳列されている場所へ向かう。
「どれにしようか迷うね」
「あぁ。私はどうしようかな」
口ではそう言いながらも、アリスはパンをいくつか取っていく。色々なパンが置いてあるが、アリスが取っているのはどれも堅めなパンだった。
普段からトーストにもしっかり焼き目をつける方だし、煎餅などをつまんでいることもある。
「そのトング貸して」
「あぁ」
アリスは僕の欲しかったパンを取ると、僕の皿に入れてくれる。
「ありがと」
「それ」
「うん」
僕はちょうど取ったパンをもう一つ取り、アリスの皿へ入れる。
「このくらいでいいか」
「そうだね。戻ろう」
いくつかパンを取った僕たちは席へ戻ることにした。
「早かったわね、アンタたち」
「時間をかけると冷めると思ってな」
「そうね。悪いけど、アタシたち先に食べ始めてるわよ」
「あぁ。私たちもいただくとしよう」
僕とアリスは席に着いて早速昼食を摂ることにした。
「「いただきます」」
「美旗くんとアリスちゃん、取ってきたパンほとんど同じじゃない?」
「アリスと食の好みは似てるかも。僕も堅いの好きだし」
上比奈知の皿には柔らかそうなパンがいくつも載っていた。
「上比奈知さんは柔らかいのが好き?」
「うん。ふわふわのが好きかも」
「メイはなんでも柔らかいのが好きだもんな」
アリスの言葉に上比奈知は何度か頷いた。
「サキはなんでも食べるわよ」
アカリは半笑いで先生の暴露を始める。
「な、アカリちゃん、人を悪食みたいに言わないでくださいよ」
「夜な夜な珍味だかなんだか変なのお酒と一緒に食べてるの知ってるんだから」
「あれは……その……」
僕はまだ見かけたことはないが、アリスと上比奈知は納得した顔で顔を見合わせている。
「ま、好みなんて人それぞれよね」
「あれは別に変なものでは……!」
先生は釈明しているが、アカリは気にも留めていなかった。諦めたのか、先生は肩を落として食事に戻る。
僕も食べ物が冷め切らない内に手をつけることにした。




