第二十話 同門
「──美旗くん! 大丈夫?」
「!?」
僕はいきなり起こされて、ベッドから飛び起きた。
「え、何、誰!?」
「私だよ、私!」
寝ぼけた目を擦ってみると、そこにいたのは上比奈知だった。
「あ、上比奈知さん? なんでここに……」
「今日出かけるって言ったのに、朝になっても全然起きてこないから起こしに来たの。そしたら美旗くんうなされてたから、手握ってて」
「うなされてた? 確かになんだか変な夢見てたような……」
「って、なんで手握ってるの!?」
そう考えて、ふと自分の手を見ると、その手は上比奈知にしっかりと握られていた。
「うなされてて辛そうだったから、ぎゅー、って」
「いや、それは……ありがとう……だけど、もう起きたから!」
「昨日の今日でまだ恥ずかしいんだ?」
そう言われた僕は昨日のことも思い出して、上比奈知の顔を見れなくなる。
「美旗くん、そっぽ向いてどうしたの? ふふっ」
上比奈知はどんどん僕で遊ぶコツを覚えているようだった。顔を覗き込もうとする上比奈知の対応に慌てふためいていると、外からアカリの声がした。
「ちょっと、メイ? まだアイツ起きないわけ?」
「今起きたよ?」
アカリがドアを開けて入ってくる時には、上比奈知は平然とした顔で椅子に座っている。
「アンタ、休みだからって寝すぎなのよ。さっさと準備しなさい」
「ごめんごめん。なんか最近寝過ぎちゃうんだよね」
「目覚まししなさいよ」
「明日取ってくるつもり」
そう話すと、アカリは呆れてため息を吐きながら部屋を出て行った。
「また怒られちゃった。準備済ませたらすぐリビング行くって伝えといて」
「うん。また後でね?」
上比奈知にまだ揶揄われるものだと思っていたが、意外とすんなり部屋から出てくれた。僕は服を着替え、洗面台で髪を整えてからリビングへ向かう。
「おはよう」
「あぁ、おはよう。昨日寝るのは遅かったのか?」
リビングにいたのはアリスだった。アカリはキッチンだろうか。
「そんなに遅く寝たつもりはないんだけど、もしかしたら寝付き悪かったのかな」
「まだ身体はここに慣れていないのかもな」
「そうなのかも。そういえば先生は?」
「まだ寝ている。そろそろ起こそうかという所だ」
先生のことはアカリがまた叩き起こすのだろうことが想像できた。毎日忙しく働いているのに、休日も生徒の相手をしないといけないというのは少し可哀想にも思える。
「全く、早くしないと着く頃には昼になっちゃうじゃない」
キッチンからアカリが朝食の乗った皿を二つ持って食卓へやってくる。
「これがアンタので、こっちがサキね。アタシたちはもう食べたから」
「ありがとう」
「食べたらさっさと準備しなさいよ」
「分かった」
こうして僕は手を合わせて朝食を摂ることにした。
「アリスはそれ、何飲んでるの?」
「私か? いつものコーヒーだ」
アリスは手に持っているコップをこちらに傾けて中身を見せる。
「今日はコーヒー淹れた匂いしないね」
「今日のは水出しだからな」
アリス曰く、淹れ方によっても味の変化を楽しめるとのことだった。
「おはようございます」
アリスと何気ない話をしていると、リビングに顔を出したのは先生だった。
「「おはようございます」」
「先生のご飯、こっちです」
「美旗さん、ありがとうございます。いただきますね」
先生の口ぶりからすると、どうやら僕が作ったのだと勘違いしているようだった。
「作ったのはアカリですよ」
「そうでしたか。……先程は布団の中に引きこもって抵抗しようとしたんですが、あえなく起こされてしまいました」
先生はアカリとの戦いに呆気なく負けてしまったらしい。アリスも先生に同情気味の様子だ。
「アカリは厳しいですからね。特に先生には姉妹な分、容赦がない」
「そうなんです。布団、引っ張り剥がさなくても剥がさなくても良いと思いませんか? あと五分だけでも寝れたら……」
先生は肩をすくめてそう話す。確かに休日くらいは二度寝をされてあげても良いのに、とも思う。
「でも先生はそう言って二度寝すると二時間は起きてこないでしょう」
アリスは半目で先生をじっと見つめる。二時間起きてこないとなると相当だ。
「先生それは寝過ぎなんじゃ……」
「アンタたち、喋ってて全然食べてないじゃない! 早くしなさいよ」
僕たちが話していると、アカリがリビングに戻ってきた。僕たちはアカリに急かされて急いで食べる。
昨日は面倒くさそうにしていたしていたアカリだったが、その内実は今日を楽しみにしていたのかもしれない。
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「それでは、出発しましょうか!」
「「「はい!」」」
僕たちは出かけるための用意を終えると、玄関に集まっていた。
「車って、実習行くあの車で行くのかな」
「ううん、また別の車だよ?」
流石にあのオフロード車で行くわけではないらしい。僕はまだ中を見たことはなかったが、隣に車庫があった。そこにまた車があるのだろう。
「では前に車出しますね」
「お願いします」
僕たちが玄関を出て少し待っていると、真っ白なSUVが出てきた。いつものオフロード車ほどではないが、これもまた大きな車だった。
「これも先生の……?」
「そうですね。これは色々と積み込むのにも便利ですし、重宝しています」
ここ何日かずっと生活を共にしているから忘れそうになるが、先生は財閥の代表だ。車を何台も持っているのはおかしな話ではなかった。
僕たちが車に乗り込むと、車はゆっくりと発進した。
「今日、美旗くんの服皆で選ばない?」
上比奈知は早速昨日言っていた話を切り出した。僕はもう皆の前で墓穴を掘らないように、観念して静観することにした。
「まぁ、私は構わないが。でもいきなりどうしたんだ?」
アリスから当然の疑問が飛んでくる。皆には昨日上比奈知の部屋に行ったことは話していない。もし上比奈知がその話をしたら、僕はどんな目で見られることになるだろうか。
「昨日美旗くんと今日何見たいか、って話してたの。そしたら、あんまり服買わないっていうから……」
「確かに最近はハルと出掛けることは少なかったな」
今まではアリスと十張へ行って服などを買うことが多かった。
「え、アリスちゃんと……?」
「うん。アリスも一人だったら荷物持つの大変だろうし。今着てるのもアリスと買いに行った時だと思う」
「それ去年買ったやつじゃないか。まぁ、男子なら同じものを使い回してもいい……のか?」
アリスは少し悩みながら首を傾げていた。
「やっぱり毎年服変えるのに越したことはないんじゃないかな?」
「そうだな。それにハルは身長もまだ伸びるだろうし」
僕の体格は去年からほとんど変わっていなかったが、それでもほんの少しは伸びていた。もう少し大きくなればいいが。
「アカリちゃんもやらない?」
どうせ断られるのが目に見えているのに、上比奈知はアカリを誘う。
「いいわよ。アンタで遊ぶの、面白そうだし?」
アカリはこちらを見て薄ら笑いを浮かべている。
──正直、嫌な予感しかしない。




