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魔導科寮の黒一点!  作者: 花宮リオ
始まりの1週間!
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第十七話 対岸

 僕たちが校門で待っていると、昨日と同じ車がやってきた。


「お待たせしましたー! 今ロック解除しますね」


 窓が開くと、先生の声がする。鍵が開くと、僕たちは車に乗り込んだ。


「ワープ……できたらなぁ」


 上比奈知は窓の外を見つめながらそう口にする。


「メイったら、よくそんな得体の知れないもの試そうとするわね」


 アカリは若干引き気味だ。


「だって絶対面白いよ……?」


「アンタねぇ……」


 アカリは呆れた、といった顔で上比奈知を見ている。


「僕もちょっと気になるな。一回は試してみたいかも」


「ハル、悪いことは言わないから辞めておけ」


 アリスも有り得ないといった表情だ。そこまで危なくない気はするが……。


「絶対安全にしてみせますから、大船に乗ったつもりでいてくださいね!」


 先生は自信満々にそう答えるが、そこまで言われると逆に怪しく思えてきた。


「……確かにちょっと不安になってきたかも」


「少しでも安心してもらおうと思ったのですが……」


 先生は少し肩を落としている。アリスとアカリもあんなことは言っているものの、口ぶりからするとそこまで先生のことを信頼していないわけではなさそうだった。

 僕たちが話している間にも、先生の車はどんどん進んでいく。




♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎




「着いたー!」


「昨日よりはマシだったかも」


「慣れてきてるのよ。多分ね」


 僕たちは昨日と同じ道のりで、実習所へ到着した。綺麗な広場だが、手前に扉が二つ浮かんでいるのはやはり異様な光景にも思えた。


「さぁ、それでは実習を始めますよ」


「はーい!」


 先生は結界を起動する。石畳から紫の光が溢れていく様子は、どこか神々しくも見えた。


「それじゃ美旗くん、また後で、ね?」


「うん。そっちも頑張って」


「ありがと」


 上比奈知はそう言って軽やかに笑いながら、アリスとアカリの後を追って扉へ向かう。


「それでは先生、私たちは先に行きます」


「はい。頑張ってくださいね」


「ハルも頑張ってな」


「うん。アリスも気をつけて」


 僕たちと幾らか言葉を交わすと、アリスたちは扉の中へと消えていった。


「では美旗さんも、昨日の続きからいきましょうか」


「はい!」


 こうして僕も扉の中へ入ると、昨日見た橋の前に立っていた。


『それでは今日も頑張りましょうか』


 また先生の分身が現れる。半透明で浮いているのにはまだ目が慣れない。


「はい」


『昨日はかなり良い所まで順調に行っていましたから、指南は一旦置いておきます。このまま使用回数を増やしていけば、まだまだ伸びると思います』


「順調に……昨日ので、ですか?」


『はい。二時間の中でかなり成長したと思いますよ』


「そうだったんですね。実は……」


 僕は昨日上比奈知から助言を受けたことを話した。先生はどこか嬉しそうに首を振る。


『そんなことなら全然構いませんよ。そういった相談ができるのも寮の特権のような物なので』


「指導は後回し、って話だったので一応言っとかないといけないかなって」


『要は授業時間の使い方をどうするか、ということですから。授業外で学んでいただく分には何にも問題ありませんよ』


「分かりました!」


『それでは今日も張り切っていきましょうか』


「はい!」


 こうしてまた崩れ行く橋を崩落前に渡り切る実習が始まった。上比奈知は魔力がたまる感覚を逆立ちしている時に掴んだと言っていたが、実の所僕もそれでピンと来た。魔力は全身に流れているらしいが、それなら血液と似たようなものだ。

 僕は足が鬱血して、どんどん重くなっていくようなイメージを浮かべる。


(なんだか逆に遅くなりそうなイメージだけど)


 そんな事を考えながら僕は魔道具(クリード)を片手に走り出した。足が重たいイメージのまま、本当に走り切れるのかと思ったのとは裏腹に、昨日よりも明らかに速く走れている。


(これなら……!)


 そう思った瞬間、僕は思いっ切りつんのめって、橋の上を転がる。間も無くして橋の崩落に巻き込まれ、最初の地点へと戻される。


「なんで……?」


『魔力切れですね。普段よりも魔力が上手く回った分、ガス欠を起こしたのでしょう』


「もしかして、僕の魔力量ってそんなに多くないんですか?」


『多くないわけではないのですが、美旗さんの魔道具は壊れてしまっているので。栓が抜けた浴槽に湯を張ろうとしているような感じになっていますね』


 短時間であれば問題なく使えるので失念していたが、前に上比奈知も言っていた通り、僕の魔道具はまだ完全に治ったわけではない。先生の例えは分かりやすかった。


「なら、どうすれば良いんでしょう」


『私が答えを出しても良いのですが、良い機会ですから少し考えてみましょう。どうすれば良いと思いますか?』


 先生は微笑んで僕にそう問いかけてくる。

 先ほどは今までの半分くらいで魔力切れを起こしてしまった。最初からあの感じでは到底持ちそうにもない。

 

「うーん、上比奈知さんにまた時計治してもらうとか?」


『正直それが正攻法ではあるのですが、少し味気ないですね』


 先生は苦笑いをしている。半分冗談のつもりだったが、やはり先生の求めている答えはこれではないようだ。


「魔力が切れかけたらゆっくり走って転けないようにするとか、ですかね」


 途中で転けてしまったから橋の崩落に巻き込まれたものの、転けた時点ではまだ余裕があった。


『幻術の効果で環境がリセットされていますが、魔力の回復は意外と遅いんです。それでは間に合わないと思いますよ』


「うーーん」


『ではヒントです。昨日、美旗さんが足りなかった距離はどのくらいでしたか?』


「ほんとにあと少しだったと思います。あとほんとに……。あ!」


『気付きました?』


「はい!」


 確かに昨日足りなかった距離は後数歩程度だった。これなら最後にあのイメージで足に魔力を回せばいい。


『では再開しましょうか』


 こうして僕は昨日と同じように走り出す。


(これならさっきよりは全然マシだ)


 そろそろ橋の終わりも見えてきた。しかし、同時に橋が崩れる音もすぐそこまで迫ってきている。


(いける……!)


 僕は最後、イメージを思い浮かべて魔力を回す。足は先ほどに比べて随分軽い。


 意気揚々と最後の数歩を踏み出した僕だったが、そこに踏みしめる足場はなかった。


「うわぁぁぁぁ!!」


『惜しかったですね』


「いけたと思ったんですけど……」


『もう少し工夫が必要ですね』


「なら色々試してみます」


 こうして、僕はタイミングを変えたり、ジャンプをしてみたり、挙げ句の果てにはヘッドスライディングなどもしてみたが、どれも上手くはいかなかった。


「どうすれば……」


『まさか頭から突っ込んでいくとは思いませんでした』


「こっちならもしかして……って思ったんですけど、ダメでした」


『流石にこれ以上試すと見ているこちらの身体が痛くなってくるので、解答をお伝えしてもよろしいですか?』


「お願いします」


『実は先ほどやっていた中で、一番近いものが一つありました』


「ヘッド……」


『ジャンプです。ジャンプ!』


 僕がふざけると、先生は僕が言い終わる前に突っ込んできた。


『先ほどは加速してからジャンプしていましたが、今度はジャンプしてから加速してみてください』


「やってみます」


 そうは言ったものの、ジャンプしてから加速すれば本当に届くのだろうか。そもそもどういう感じになるのか、あまり想像できなかった。


 こうして僕は何度目か挑戦したかも分からなくなった橋に挑む。


(あのあたりで踏み切らないとな……)


 僕はある程度の所で見切りをつけると、しっかりと足を踏みしめて踏み切った。それと同時に先生に言われた通りのイメージで魔道具を使う。


「なにこれ!」


 僕が魔道具を使うと、ジャンプした僕の身体は一気に加速して宙を舞い、一気に前へと進んでいく。全身が鬱血しているイメージは流石に出来なかったので、上比奈知が前に言っていた、魔力が溜まっていくイメージを分からないなりに考えてみるだけ考えてみることにした。


(魔道具ってほんとにいろんなことできるんだ)


「え!? 落ちる!!」


 僕が余計なことを考えたからか、先ほどまでに宙に浮いていた身体は一気に高度を下げていく。


(浮き上がるイメージ、浮く浮く浮く……)


 イメージを変えると、ふわりと浮き上がったまま、なんとか対岸に着地した。


「た、助かった……!」


『ふふ、おめでとうございます。これで攻略ですね』


「ほぼ先生の言う通りにしただけですけどね」


『それでも最後、高度が下がった時はしっかり対応できていましたよ』


「焦ったんですけどなんとかなりました」


 些細なことではあるが、先生に褒められたのは素直に嬉しかった。


『それではそこの扉を開けて戻ってきてください』


 先生が指を指した所には入ってきた時と同じ扉があった。


『では、向こうで待っていますね』


「はい!」


 こうして僕は、先生と上比奈知の助言もあり、なんとか最初の実習をクリアすることができた。

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