第十六話 夢の?ワープ
洗面所で朝の支度を整えると、リビングへ戻ることにした。
「洗面所空いたよ」
僕がリビングへ行くと、アリスとアカリが食事をしている最中だった。
「ならメイ先に回して。2階にいると思うから」
「分かった」
いくらかアカリと言葉を交わすと、僕は二階へ向かう。階段を上がると、部屋が三つあった。しかし、どの部屋が上比奈知の部屋なのだろうか。
僕は一つずつ部屋をノックしていくことにした。一番奥の部屋までノックしていったが、どの部屋も反応がない。
(開けてみる……? いやでも流石に……)
そろりとドアノブに手をかけながら、そんなことを考えていると
「美旗くん、どうしたの?」
「うわぁ! か、上比奈知さん!?」
後ろから上比奈知に声をかけられた。いきなり後ろから声をかけられたものだから、素っ頓狂な声をあげてしまった。
「……覗き?」
上比奈知が明るい顔なのが逆に怖い。
「いやいや、アカリに上比奈知さん呼んでくるように言われたんだけど、どの部屋かわかんなくて……」
「ふふ、うそうそ。さっき下でアカリちゃんに聞いてきたから知ってるよ」
上比奈知は意地の悪い顔で笑っている。どうやらそれで僕を迎えに来たらしかった。
「私の部屋は一番奥だから。真ん中はアリスちゃんで、手前がアカリちゃんね」
「あんまり来ることないと思うけど、一応覚えとくね」
「魔道具治す時は来てもらうよ?」
「僕いなくてもいいでしょそれ……」
「いいえ、居てもらいます。何が起こるか分かんないし」
上比奈知とそんな話をしながら僕たちは一階へ降りてきていた。
「アンタたち、まだ二階いたの? 間に合わなくなるわよ」
「準備終わってたし、美旗くんで遊んでたの」
上比奈知は悪びれることもなくアカリにそう話す。揶揄われている自覚はあったが、口にされるとやはり恥ずかしい。
「全く、なら早く行きましょ」
「はーい!」
こうして僕たちは一旦部屋に戻り、荷物を取ると、家を出た。
♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎
「みなさん、揃っていますね」
始業時間になると、先生が教室へやってきた。一限目は国語の授業だ。
「「「「おはようございます!」」」」
寮だから当然なのだが、今朝会った人が教卓に立っているとなんだか不思議な感じがする。
「さぁ皆さん、宿題はやってきましたか?」
「え」
そういえば、完全に忘れていた。
「美旗さん? もしかして……」
「ごめんなさい、思いっ切りすっぽかしちゃいました」
「全く……。次はないですからね」
魔導科の実習や他のことに気を取られていたが、午前中は普通科と変わらない授業だ。当然宿題も出る。
(結構しんどいな)
「それでは今度こそ授業を始めましょうか」
♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎
午前の授業はあっという間に終わり、もう昼休みになっていた。
「全く、アンタ全部の宿題を忘れてくるなんて……」
「疲れてて忘れてたけど、皆普通の課題もやって実習もやってるんだよね……」
「慣れたら問題なく出来るようになるぞ」
「心配になってきたよ……」
「さ、怒られた話は忘れてお昼にしよっか!」
上比奈知は手を軽く叩いて、話を強引に切り替える。
「あぁ。今日も実習だし、早めに食べないとな」
「今日はサンドイッチです! 余裕あったからいっぱい作っちゃった」
上比奈知が大きな重箱を開けると、中いっぱいに色々な種類のサンドイッチが詰められていた。
「それじゃ、いただこう」
「そうね。どれにしようかしら」
アリスとアカリはサンドイッチを手に取って食べ始める。
「いっぱいあるから、遠慮なく食べてね」
「うん。いただきます」
僕たちがサンドイッチを食べていると、先生が戻ってきた。
「先生?」
「教卓にペンを忘れてしまいまして。皆さんはサンドイッチですか?」
「上比奈知さんが作ってくれて」
「そうでしたか」
「まだお昼買ってないなら、先生も食べませんか? 私作りすぎちゃって……」
「なら今日はご一緒しましょうか」
そうは言ったものの、この教室に余っている椅子はなかった。
「椅子、隣の教室から取ってきますね」
「はーい!」
先生は上比奈知に手を振って、教室を出ていった。
「明日、何買おっかな」
「今日あの部屋を攻略できたら、連れてってもらうんじゃなかったのか?」
アリスと上比奈知は昨日話していたショッピングモールの話をしている。確かに昨日の話してはアリスの言う通りだったはずだ。
「倒せるよ、多分」
「楽観的だな、メイは」
上比奈知は回復役だと言っていた。アタッカーとヒーラーで考え方が違うのだろうかとも思ったが、多分これは二人の性格によるものだ。
よく考えればアリスもアカリも上比奈知も性格はそれほど似ていないのに、意外と衝突が少ない……気がする。
「戻りましたー」
そんなことを考えていると、先生が椅子を抱えて帰ってきた。
「では私もいただきますね」
「どうぞどうぞ!」
上比奈知は先生の方に重箱を差し出す。
「美味しいです。いくらでも入りそうですね」
「ほんとですか? 嬉しいです!」
「食べすぎたら後で気分悪くなるわよ。この後実習所まで行かなきゃなんだから」
アカリは僕たちに釘を刺す。実習所までの道はかなり悪路になっている部分もあった。腹八分目で押さえておかないと、後でかなり苦しい思いをすることになるだろう。
「それなんですが、これからは簡単に移動できるようになりそうなんです」
「どういうこと?」
「詳しく話すと高校魔導理論の範囲を大きく超えてしまうので簡単に話しますが、要は結界の境界に私の幻術をかけて、その境界を曖昧なものにしてしまおう……ということです」
「それって、もしかして……!」
上比奈知はピンときたようで顔を輝かせている。反対に、アカリとアリスは顔を引き攣らせていた。
「僕だけ全然話についていけないんですが、僕でも分かるように言うとどういうことですか?」
「学校と実習所をワープしよう、ということです」
「ワープ!?」
「本来はどこへでも……と言いたい所なのですが、私が大規模な結界を構築しているのはこの二箇所だけなので、ここでしか使えそうにないですね」
それでも、三十分以上短縮できるのはすごいことだ。先生の能力は全く上限が見えてこない。だが、どうして二人は不安げな顔をしているのだろうか。
「いやいや、そんな上手いこと行くわけないでしょ! どうせそれ魔導学会にも発表できないようなやつなんじゃないの!?」
「……理論上は大丈夫なはずですよ。……理論上は」
「机上の空論だな」
急に旗色が変わって先生は慌てて弁明する。しかし最後はアリスにばっさりと切り捨てられて終幕した。
「これ、もしワープの途中で何か問題が起きたらどうなるんですか?」
「幻術が解けるので、この場所に留まることになると思います」
「まぁならある程度は安全……なのか……?」
「もしワープできるようになったら、私試してみたいです!」
上比奈知は平然と手を挙げる。僕も少し興味はあるが、最初の実験担当になれるほどの度胸はなかった。
「えぇ。でもしっかりと理論を確立させて、安全が確保できたらになりますが」
「当分は車だな」
「それがいいわ。狭いけどね」
夢のワープは、まだまだ先のことになりそうだ。
そんな話をしていると、昼休みも終わりを迎えようとしていた。
「ごちそうさまでした。それでは私は先に準備をしてきますね」
「はーい! また後で!」
先生はそう言って去っていった。
「ちゃんとサンドイッチなくなって良かった……!」
「流石に多かったもんね」
「男の子がどれくらい食べるかまだ掴めてなくって」
「皆よりほんのちょっと多いくらいだよ」
「さぁ、二人ともそろそろ私たちも片付けて準備しようか」
上比奈知との会話が一段落したところで、アリスは時計を見てそう話す。時間的にも良い頃合いだった。
「「「ごちそうさまでした!」」」
「ふふ、お粗末様でした!」
僕たちは机と椅子を片付けると、椅子が一つ余っていることに気付く。そういえば先程先生が持ってきていた。
「これ、どこから持ってきたんだろ」
「置いてて良いんじゃないかな? また一緒に食べることもあると思うの」
「ならそうしようか」
片付けを済ませた僕たちは、各々の魔道具を持って校門前へ向かうことにした。




