第十四話 団欒
僕がリビングに行くと、間も無くして扉が開いた。
「ただいま戻りました。なんだか良い匂いがしますね」
帰ってきたのは先生だった。キッチンでハンバーグを焼いていた上比奈知もこちらへ来る。
「お帰りなさい! 今、美旗くんとハンバーグ作ってたんです」
「そうでしたか。家の外まで良い匂いがしていて、何を作っているのか気になって。荷物部屋に置いてきますね」
「はーい!」
そう言って先生は部屋へと戻っていった。
僕はガランとしたリビングで一人、ソファーに腰掛ける。今朝も点いているのは目にしていたが、リビングには大きなテレビもあるし、四人掛けであろうサイズのソファーにいかにも高そうなガラステーブルと、色々な物が置いてある。皆がいる時はともかく、一人でいる分には落ち着いて過ごせそうな空間だった。
ダイニングの方に目を向けると、木目調のテーブルと人数分の椅子が置いてある。あれを見ていると、昨日皆が歓迎会をしてくれたことを思い出す。その先にはキッチンがあって、今も上比奈知がハンバーグを焼いているのだろう音が聞こえてくる。
一人暮らしの時よりも一気に物が増えたり、物自体もサイズが大きくなったりしているのも、この二日で少し目に馴染んできた気がする。今はダイニングに置かれいる食卓と、キッチンにしか目立った記憶はないが、これから少しずつ思い出が増えていくのだろうと感じる。
「今日はハンバーグって聞いたけど」
考え事をしていると、リビングへやってきたのはアカリとアリスだった。
「うん。もう焼いてるから、すぐにできると思う」
「そう。それで? アンタはボーッとしてどうしたのよ」
「昨日からちゃんとリビングとか見てなかったから、色々見てたんだ」
アカリは何よそれ、と言わんばかりの顔だ。アリスも少し呆れ顔でこちらを見つめている。
「ご飯出来たよー!」
アカリ達と話していると、上比奈知もやってきた。
「なら食事の用意をしないとな。ハル、こういうのは先にやっておくんだぞ」
僕はアリスに少し怒られる。一人の時は、洗い物を減らすために鍋敷きを敷いてフライパンを皿代わりにしていた。アリスには昔、同じことで小言を言われた記憶がある。
「あ、ごめん。忘れてた」
「まぁ一人だったら自分の分しか必要ないわよね」
アカリは僕のことを庇ってくれる。
「美旗くんここ来て二日しか経ってないからお皿の位置もあんまりわからないと思うし……」
「そういえばそうだったな」
アリスはハッとしたような顔でいる。僕も少しは馴染んできたということだろうか。もしくは顔馴染みということもあるのかもしれない。
「そういえばサキは?」
「一回ここ来て、カバン置きに行くって言ってたけど」
「それっきり戻ってこないのなら、また部屋で寝落ちしてるわね。起こしてくるわ」
そうしてアカリは呆れ顔で部屋を出ていった。
「それじゃ、私たちは準備をしようか」
アリスの一言に僕と上比奈知は頷くと、早速準備を始める。
「美旗くん、ここにお茶碗あるから、ご飯装って?」
僕は冷蔵庫の隣にある戸棚から茶碗を取り出す。
「分かった。……皆どれくらい食べるんだろ」
「茶碗一つ貸してくれ」
アリスに茶碗を一つ渡すと、アリスはそれに米を盛る。それは僕が思っていたよりも少なかった。
「これくらいだな」
「ありがとう。覚えとく」
「あぁ。後、先生のはこれの倍くらい盛っておいてくれ」
「うん。って、倍!?」
昨日見た限りだとそこまで食べる人ではなかった気がするが、本当にそこまで入れて大丈夫なのだろうか。
「なんでも魔力を使った日は凄く腹が減るらしい」
僕はアリスが入れた量を目安に皆の米を装い、注文通り先生の量はその倍ほどを盛って食卓へと運んでいく。 その間にアリスと上比奈知はハンバーグと付け合わせを皿に盛り付けている。
「皆さん、おはようございます……」
僕が食卓で準備をしていると、アカリに連れられた先生が戻ってきた。頭には寝癖が付いているところを見ると、しっかり寝ていたらしい。
「あ、先生お疲れ様です」
「カバンを置きに行っただけのはずが、睡眠の誘惑に勝てなくてですね……」
先生は伸びをした後、食卓についた。
上比奈知もこちらへとやってくる。
「先生、また寝てたんですか?」
「この時間に寝るのが最近癖になってる気がします。健康にはあんまり良くはないんでしょうけど」
「先生朝早いですし、仕方ないんじゃないですか?」
「メイったら、サキを甘やかさないで」
アカリは御立腹のようだ。上比奈知達の話によると、先生は帰りも遅い時があるようで、普段からかなり忙しそうに働いているとのことだった。
「さぁ皆、ご飯にしようか」
食事の準備もほとんど整ったところでアリスもこちらへやってきた。
「はーい! 結構時間かかっちゃったね」
「まぁ、何にも決まってなかったにしては、早かったんじゃない」
「それでは食事にしましょうか」
「「「「「いただきます!」」」」」
皆で手を合わせると、ようやく食事が始まる。いつもよりかなり多い量を作ったから、少し疲れた気がする。
「美味しい!」
上比奈知はそう言ってハンバーグを頬張っていた。
僕もハンバーグを切って、口に入れる。タネを捏ねすぎた気はしたが、そこまで気にならなかった。
「ちゃんと出来てて良かった……」
「お二人で作られたんですよね。ありがとうございます」
そう話す先生の前には三人前くらいの量が置かれていた。これを全部平らげるのだろうか。
「いえいえ、先生は疲れてるでしょうし、これくらいは私たちが」
「美旗さんの方は簡単なものとはいえ、二つの結界を構築するのは流石にハードですね」
「ほんと、どれだけ魔力量があればそんなことできるのかしら」
アカリは羨ましそうな声でそう口にする。まだ魔道具にそこまで詳しくない僕でも、明らかに格が違うと分かる。同じく魔道具使いで、しかも姉妹となれば思う所もあるのだろう。
「あまり良いことばかりでもありませんよ。良くも悪くも目をつけられますし」
そう話す先生はどこか寂しげだった。魔導学院でも珍しいと言われるほどの才能を持っていれば、これまでには色々とあったのだろうと容易に想像がつく。
「私たちには分からない苦労もあるんだろうな」
アリスの言葉も、どこか重たげに感じた。たわいもない話から、一気に空気が重くなっていくのを感じる。
「そんなに重たい話にするつもりはなかったんです。……上比奈知さん、何か良い話題はありませんかね」
先生は少し困った顔で、上比奈知の方を見る。強引に話題を変えるものだと思ったが、上比奈知は慣れた様子で少し笑っている。
「ふふ。はい。明日で今やってる部屋、攻略出来そうなので攻略出来たら週末どこか連れてって欲しいです!」
確かに今日帰ってくる時に皆がそう言っていた。魔道具を持った先生の分身と戦うという話らしいが。
「そうですね。どこへ行きたいですか?」
先生は上比奈知から明るい話題が出て安心したのか、柔和な表情を浮かべている。
「お洋服買いに行きたいです。後は皆の都合次第で」
「私はどこでもいいぞ」
「僕もなんでもいいよ」
「食料品もついでに買いたいわね」
「となると、いつものショッピングモールですか」
ショッピングモールはここから車で二十分くらいの所にある。僕はあまり利用しないが、たまに自転車で遊びに行くこともあった。
「あそこなら別に毎週行ってるじゃない」
アカリは少し笑っている。だが、この辺りで言えばあそこが一番大きな商業施設で、他の場所となるとあまり思い付かなかった。
「他の場所にします?」
「十張まで行くなら私はパス。遠いし」
「ならあそこで決定ね? 皆で行こうよ」
アリスと先生は二人の会話を楽しげに見守っている。
会話と並行して食事を摂っていたが、残りは少なくなってきていた。
「ごちそうさま。美味しかったぞ」
一足先に食べ終えたアリスが席を立つ。
「洗い物アタシが当番だから向こうに置いといてちょうだい」
「分かった」
「ごちそうさまでした。また作ろうね」
「うん! 今日はありがとね?」
「こちらこそ。一緒に作るの楽しかったよ」
食事を食べ終えた僕は、上比奈知に声を掛け、片付けへ向かった。
こうして団欒の時間は過ぎていく。




