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魔導科寮の黒一点!  作者: 花宮リオ
始まりの1週間!
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第十一話 意外とスパルタ

「校門に車を回してきますから、皆さんはそこで待っていてください」


 魔導科棟を出たところで先生にそう告げられた僕たちは、校門前まで移動してきていた。 


「すぐ来るかな」


「多分? 先生の車おっきいから、すぐ分かるんだよね」


「どんな車なんだろ」


「うーんなんていうのかな、あれ」


 上比奈知とそんな話をしていると、大きなオフロード車がやってきた。


「もしかして……」


「皆さん、お待たせしました」


 やっぱり乗っていたのは先生だった。山に行くには確かにこれが最適なのかもしれないが、とにかく大きいし車高も高い。これくらいの車でないといけない程険しい山なのだろうか。


「さ、行きますよ。美旗さんは前の席へどうぞ」


「はい」


 僕は先生に促されて、助手席へ座った。僕自身あまり車に乗る機会は多くなかったが、それでも明らかに普通の車とは違うことには気付く。


「今まではアタシが前だったのに」


 アカリは不満気だが、後部座席に僕が乗ると狭い上に、他の二人とも距離が近すぎる。こうなるのは仕方なかった。


「まぁまぁ、アカリちゃんが真ん中でお願いしますね」


「はいはい。わかってるわよ」


「それでは出発しますね」


「はーい」


 上比奈知の返事とともに、車は走り出した。ここ、桔梗ヶ峰(ききょうがみね)には長く住んでいるが、山まで行ったことはない。

 こんな車で行かなければならないほど険しい所なのだろうか。


「ここからどれぐらいかかるんですか?」


「30分かかるかといった所ですね。山といっても整備されてありますから」


「なんだ。獣道とか行くのかと思ってました」


 僕がそう話すと、車内に少し沈黙が訪れた。嫌な予感はしたが、一旦は先生の言葉を信じてみることにした。




♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎♡♦︎




「ほんとにここ行くんですか……?」


「行きます。すぐ着きますから」


 僕たちは山の中腹まで来ていた。来た道は確かに整備されていたが、僕たちの進行方向には、この先私有地につき立入禁止、と書かれた看板が立てられているだけで、到底道路と呼べそうなものは見当たらない。


「もう慣れちゃったよね。最初は死ぬかと思ったけど……」


 上比奈知がサラッと怖いことを言う。


「では行きますよ。口は閉じていてくださいね。舌を噛むので」


 先生の忠告に従い、口を固く結んだ。道無き道を走り始めた僕たちだったが、とにかく車が揺れる。凹んだ部分が来ると身体が浮くし、段差に乗り上げればフロントガラスに突っ込んでしまうのではないかという錯覚さえ感じた。

 後ろに気を配る余裕は到底なかったが、僕が後ろだったら本当に耐えられなかった気がする。


「着きましたよ。お疲れ様でした」


「あ、ありがとうございました……」


「初めて後ろ乗ったけど、これはキツいわね……」


「やはり後ろに三人では無理がありましたか。一応五人乗りではあるのですが……」


 フラフラと車から降りた先には、ここまで来た道とは打って変わって、石畳が敷き詰められた綺麗な円形の広場が見える。そしてその広場の手前には、扉が二つ。


「これは……?」


「これは私の結界です。あの扉を開ければ、実習が始まります」


 先生が実習についての説明をしようとした所で、アカリが割って入る。


「サキ、実習のことある程度は話しといたわよ」


「そうでしたか。では後は実際に初めてみるのが良いかもしれませんね」


「そうね。アタシたちも始めちゃっていい?」


「はい。結界、起動してきますね」


 先生は手元のカバンから、手のひらくらいの旗を取り出した。


「思ってたより小さいんですね」


「ふふ。見ていてくださいね」


 先生が旗をコツンと叩くと、旗はみるみる内に大きくなって、先生の身の丈よりも更に大きい物になった。


「大きい……!」


「私の魔道具(クリード)はこんなこともできるんですよ」


 こうしてかなり大きくなり、みるからに重そうな旗を軽々と持って先生は広場の中央に突き刺した。すると、旗を起点に石畳の隙間から紫の光が漏れ出す。最終的にその光は円形の広場を囲う柱となって、天高くまで登り、光り輝いた。


「すごい……」


「こんなことが出来るのは、日本でも数えるほどだ。身近にいるから忘れそうになるが」


 アカリが先生は飛び級を重ねていると言っていたが、こういった部分も大きいのだろう。


「さぁ、どうぞ」


「それじゃ、行ってくるわね」


 二人はそう言って扉の方へ向かう。


「美旗くん、また後でね」


 上比奈知も、こちらに軽く手を振りながら、扉へ向かった。三人が扉の前に揃った所で、アカリが扉を開け、中へと進んでいく。扉が閉まると、三人は跡形もなく消え去っていた。


「隣の扉が、美旗さん用の部屋に繋がっています。扉を開けて中へ入ったら、そのまま扉を閉めてください」


「はい。それじゃあ行ってきます」


「えぇ。最初ですから、チュートリアルのようなものです。あまり気負わずに」


 先生に別れを告げると、僕は扉を開けた。中に入ってみると、そこは先程の広場だった。しかし、外から見た時とは違って、先生が結界を起動した時の紫の光が広場の外に立ち込めていて広場より先は全く確認できない。

 周りを確認した後、僕は先生の指示に従って扉を閉めた。そして広場の方を振り返ると、先程までの広場ではなく、切り立った崖の前に立たされていた。目の前には橋が一本かかっている。


『美旗さん、聞こえますか?』


「うわっ、先生!?」


 いきなり先生の声がして顔を上げると、ホログラムのように半透明になった先生が目の前に浮いていた。


『目の前の私とは私の結界に入ったことで見えている幻術です』


「ここは橋……ですよね」


『はい。今から美旗さんには、この橋を渡って、向こう側にある扉から戻ってきてもらいます』


 見たところ、なんの変哲もなさそうな橋だが、これを渡るだけで良いのだろうか。僕は少し不思議に思いながらも、先生の言葉に頷いた。


『この橋は、時間が経つにつれて後方から落ちていく仕様になっています。魔道具を使ってしっかり渡り切ってくださいね』


 どうやら僕の加速の力を使って、橋を渡り切れればゴールということらしい。確かにこれは鍛えられそうな感じはする。


「はい。もしこれ落ちちゃったりしたらどうなるんですか?」


『これは幻覚ですから、何もありませんよ。一瞬の浮遊感はあると思いますが、すぐに橋の手前へと戻されます』


「分かりました。ちょっと怖いですけど、やってみます」


『では、準備してくださいね』


 僕は先生の指示に従って、時計を取り出して橋の上に立つ。


『では初めましょうか』


 僕がそれに頷くと、先生のホログラムは消え、声だけが聞こえるようになった。


「3・2・1で行きますよ。……3・2・1スタート!」


 先生の合図と同時に僕は走り出した。時計をしっかりと握り、加速の力を使う。


『速いですね。思っていた以上です』


 先生のそんな言葉が聞こえたところで、後ろから轟音が響く。少し振り返ると、橋の手前が崩れ落ちていた。


『さぁ、ここからはドンドン速くなっていきますよ』


 先生の言葉通り、手前が落ちたのをきっかけに、次々に橋脚が崩落していく音がする。最初は音もかなり離れていたが、徐々に近付いてきた。

 橋の崩落速度が上がっているのも勿論だが、僕の加速の力も少しずつ落ち始めている。最初見た時はそこまで長くない橋だと思ったが、渡ってみると意外に長くゴールに辿り着きそうもない。


「あ……!」


 橋が崩れる音がついに背後まで迫ってきたのを感じた瞬間、足元の感覚が消え、僕は空中に放り出された。強烈な浮遊感が身体を襲い、橋の瓦礫に(まみ)れて地面に衝突する…………という直前の所で僕は、先ほどの橋の手前で尻餅をついたような格好で座っていた。


『どうでしたか? 多少スリリングだったとは思いますがこんな形です』


 目の前には先生のホログラムが、さも何もなかったかのような顔で立っている。


「死んだかと思いましたよ!? 多少の浮遊感っていうより死の片鱗っていうか……」


『美旗さんはジェットコースターなどは乗られませんか?』


 先生は少し首を傾げながら、なんだ絶叫系は初めてか、とでも言いたげな顔をしている。これはジェットコースターというよりはフリーフォールな気がするが、問題はそこではない。


「乗ったことありますけど、ジェットコースターは垂直に落下しません!」


『ふふ、確かにそうですね。でも惜しかったですよ。もう少しでした』


「まだ結構距離あった気がしましたけど」


『あれは私が途中で少し延長したので。本来の位置はもう少し手前です』


 知らぬ間に距離が延びていたらしい。言われてみれば、結構速いなどと言っていた気がする。


『美旗さんの魔力量と魔道具の出力を見るとこれくらいが適正かと思いましたが』


 先生は少し首を捻りながら、何か考えているようだった。


『魔道具を使っている期間が短いですし、壊れかけですからまだ上手く魔道具に魔力を伝えられていないのかもしれませんね』


「自分ではあんまりよく分からないです」


『魔道具を使い初めて間もないですから、それは仕方ないと思います。さぁ、もう一度』


「え、もう!?」


 驚く間もなく、また先生のホログラムが消える。まだ先程の疲れは残っているが、仕方なく立ち上がった。


『さぁ、行きますよ』


「分かりました……」


 僕はまた走り出す準備をする。こうして地獄の実習は始まったのだった。

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