第十話 変わるもの、変わらないもの
「皆さん、おはようございます」
「「「「おはようございます」」」」
僕たちが教室へ行くと、先生が中にいた。僕たちは先生に挨拶をして、席に着く。
「美旗さんもしっかり起きてこられたようですね」
「時計持ってくるの忘れてて、起こしてもらいました」
「そうでしたか」
僕がそう話すと、先生は軽く頷きながら、優しく微笑んだ。
「美旗さん、今日は魔道具の実習をしますから、昼休みが終わる頃には教室に戻ってきておいてくださいね」
「分かりました。魔道具の実習って、どんなことするんですか?」
「まず学園が所有している山へ行って、そこで私の幻術を使って行います。ここで話すよりも後で体感して貰った方が分かりやすいと思います」
昨日アリスは山の方へ行くと軽く触れていたが、先生の幻術を使って何かするということは、普通の山がこの間の教室のように変化するのだろうか。
「何だかちょっと楽しみです」
「それは良かったです。私も張り切っちゃいますね」
先生は顔をキラキラと輝かせているが、上比奈知たちの顔は少し引き攣っているようにも見えた。
「それでは私は一旦職員室に戻りますね。まだ始業まで時間もありますし」
「はい。また後で」
こうして先生は教室から去っていった後、口を開いたのはアリスだった。
「ハルの実習は大変なことになるんじゃないか」
「明らかに先生の顔色良かったもんね」
話を聞いていても微妙に話を掴み切れない。僕が少し困惑していると、それを見たアカリがこちらに寄ってきた。
「アンタが楽しみです、なんて言ったからサキがアンタにとんでもない部屋作るじゃないかって話」
「部屋?」
「サキの幻術で魔道具を使わないと出られない部屋が作られるのよ」
「最近はどんどん難しくなってきてるんだよね……」
上比奈知はアカリの言葉に頷きながら遠い所を見つめている。聞いている様子では、かなり厳しいようだ。
「そうなんだ。……出られなかったらどうなるの?」
「授業時間いっぱいまでやってダメなら、一旦出される。そして次の授業では前の授業で進んだ所から始まるんだ」
「クリア出来るまで?」
「あぁ。私たちが今やっている部屋もそろそろ終わりが見えてきた所だ」
アリス曰く、一応は現時点の私たちでもクリアできるようにはなっている、とのことだった。
「二週間ぐらいかかったよね」
「そうだな」
「さぁ皆さん、そろそろ授業を始めますよ」
そんな話をしていると、先生が戻ってきた。僕たちは席に戻って、一限の準備をする。
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午前の授業はあっという間に終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴った。
「ではここまでにしておきましょうか。ではまた後で」
そう話した途端、先生の姿が見えなくなった。四限に話していた先生は僕たちが見ていた幻術だったらしい。
「まだ慣れないな、この感じ」
「消える時と普通に出て行く時あるから……。私たちも見てるだけじゃ全然分からないし」
上比奈知は首を横に振りながら、そう話す。もう少し魔術に対する理解が深まれば分かるのかと考えていたが、当分区別をつけるのは無理そうだ。
「さ、二人ともご飯にしよう」
振り返ると、アリスは大きな弁当箱を持っていた。
「すごい量だね」
「四人分だからな」
「僕の分もあるの?」
「あぁ、昨日も作ろうと思ったんだが、自分で持ってくるかもしれないと思ってな」
アリスはいきなり来た昨日も作ろうとしてくれていたらしい。確かに転科の話はしていたが、遅い時間だったし、その話だけで通話を終えてしまっていた。
「いやいや、気持ちだけでも嬉しいよ」
それにアリスは軽く頷き、弁当箱を机の上に置いて机を動かした。僕たちも机を中央に寄せて、昼食の準備をする。
「今日はハルの分もあるから、まぁ食べてくれ」
アリスが弁当箱を開けると、中にはおにぎりにウインナーと卵焼き、昨日の唐揚げ、金平ごぼうなど様々な料理が所せましと詰められていた。これだけの量だと、かなり時間がかかったはずだ。
「凄い……。これを朝から?」
「ほとんど作り置きだからな。量の割に当日の負担はそれほど大きくない」
「そっか。でも、ありがとう」
「……あぁ」
アリスはポツリと返事をすると、そっぽを向いてしまった。
「アリス、顔真っ赤よ? 大丈夫?」
「ア、アカリ!?」
アリスが向いた方向はちょうど扉の方だった。教室から帰ってきたアカリはアリスと目が合って、心配そうな声をあげる。
「アリスちゃん、ちょっと照れちゃってただけなの」
「へぇ、そう。アリスって意外と乙女よね」
「意外にとはなんだ。全く……」
アリスは少し不服そうな顔をしながら、こちらに向き直った。
「ほら、私のことなんて良いから、ご飯にしよう」
「そうね。それじゃ、いただきます」
「「「いただきます」」」
こうして僕たちは昼食を摂り始めた。アリスが弁当を作ってくれていたのに、皆と話していると意外に時間が経ってしまっていた。
「あ、ツナマヨだ!」
おにぎりを一口頬張った上比奈知は、にこやかな顔でそう話す。
「こっちは昆布。結局これに落ち着くのよね」
一目見ただけで中身が分からないものもあったが、おにぎりには色々な具材が詰められているようだ。僕も早速一つ手に取って口にする。
僕が食べた物は明太子とマヨネーズが合わせられた物だった。僕自身あんまりに辛いのは苦手だが、マヨネーズが辛さを中和してくれていて、美味しく食べることができた。
「美味しい……!」
「明太マヨだ。いいなぁ」
「ほらメイ、それならこっちにあるぞ」
「アリスちゃん、ありがと」
そうして上比奈知は二つ目のおにぎりを手に取った。それを見たアリスは満足気な顔で、アカリも目を細めている。
魔導科は転科前とは違って、皆が銘々話していることでの活気は無い。しかし、ここは人数が少ない分、濃密な人間関係と心地よい温かさがあった。教室の雰囲気は変わったが、居心地の良さが変わらないのはやはり嬉しかった。
「「ごちそうさまでした!」」
「お粗末様でした」
僕が最後の唐揚げをつまんでいると、三人は一足先に手を合わせていた。それから程なくして僕も食べ終えた。
「アリス、ごちそうさま」
「あぁ。よく食べてたが、昼からは大丈夫なのか」
「もうすでにちょっと眠いかも」
「まぁ実習中に寝るなんてことはないだろう」
「そうだね」
アリスと話しながらふと時計を見ると、昼休みはもうほとんど残っていなかった。先生には早めにいるように言われているため、どこかへ行くほどの時間も残っていなさそうだ。
「そういえば、皆の魔道具って、どんな能力なの?」
「そういえば話してなかったわね。私のは招雷の振り鐘。ハンドベルね」
「ショーライ?」
「私の鐘は雷を招ぶのよ。ここじゃ使えないけど、取ってくるわ」
そう言ってアカリは席を立った。雷を扱えるなんて、物凄い魔道具だ。
「じゃあ、私たちも持ってこようか。どうせ後で取りに行かないといけないし」
アリスがそう話すと、上比奈知も席を立つ。
「美旗くんはアリスちゃんの魔道具は見たことあるんだっけ」
「見たことあるよ。鏡のやつ。あんまり詳しくは知らないけど」
「じゃあ、私たちも持ってこようか。どうせ後で取りに行かないといけないし」
アリスがそう話すと、上比奈知も席を立つ。三人とも、教室から出て行ってしまった。一人になると、流石に教室が広く感じる。
すると意外に早く扉が開いて、先生が入ってきた。
「あら、美旗さん一人だけですか?」
「皆魔道具取りに行っちゃって」
「そうでしたか。では皆さんが戻ったら、出ることにしましょう」
先生は手に何かの鍵を握っていた。その鍵をこれから何かに使うのだろうか。
「この鍵、気になります?」
「ちょっとだけ」
「これは車の鍵ですよ。これから移動しなくてはならないので」
先生は鍵を近づけて、僕に見せてくれた。確かにどこかで見たことのあるエンブレムが刻まれていて、車の鍵のようだった。
「「「ただいま」」」
先生と鍵の話をしていると、魔道具を手にした三人が戻ってきた。
「それでは行きましょうか」




