第一王子視点5 フランを最後はケーキで釣りました
俺は集められるだけの中央騎士団の騎士を率いてファリエール伯爵領に出撃した。
捕まった騎士たちの証言を元にファリエール伯爵が黒幕の可能性が大きいと判断したのだ。
元々ファリエール伯爵は王家の出で、宮内庁の長官も歴任している。そのような人物がフランの誘拐を仕掛けたとは到底信じられなかった。
しかし、騎士たちに確認したところ、どうも黒幕がファリエール伯爵らしいのだ。更には最近ファリエール伯爵領で行方不明者が次々に出ているのが確認された。
俺にはあの伯爵がそんな事をするなんて考えられなかった。
でも、それを伯爵が全く報告していない事自体が怪しかった。
何かが伯爵領にあると俺は踏んだのだ。
その何かが、まさか魔王だとは思ってもいなかったが……
しかし、俺達が着いたときにはすべてが終わっていた。
なんと、フランが一人で魔王を退治したというのだ。
本来は魔王は世界最強最悪の存在だ。それが出現したらそれを倒す為に全世界が一致団結して軍を集めて対処するのが基本だ。それも何年もかけて。
それをフランがたった一人で退治したというのだ。
それを聞いた時はおれは驚愕した。
俺は取り敢えず、フランの無事を確認するために全力で走ったのだ。
「フラン、大丈夫か!」
俺はフランの無事な姿を確認してフランを抱きしめようとしたのだ。
しかし、次の瞬間にその父の公爵に弾き飛ばされたのだ。
こいつは王子を王子とは絶対に思っていない。
しかし、フランを嫁にほしい俺としてはあまり強くも言えない。
まあ、その公爵もフランに避けられていたが……
「フラン、あなた、私がつけるように言ってあった、魔封じの腕輪を外したんですって。
どういうことなの?」
フランの母の破壊の魔女が凄い事を言い出したんだが……いやいやいや、フランって魔封じの腕輪をしていて、あれだったのか……。
俺はフランの潜在能力の高さに驚いたのだが。
そもそも相手は魔王なのだ。普通は全力で戦うだろう。
「まあ、アンナ殿。フランはまだ、6歳なのだ。6歳の子にそれ以上を求めるのは流石に酷いのではないか」
俺が横からしゃしゃり出たのだが。
「はああああ! 殿下は何を仰るのですか? フランは私とテオドールの娘なのです。魔王なんて雑魚に手こずって良い訳はないのです」
破壊の魔女は取り付く島もなかったのだ。魔王を雑魚と言い切るあたり、この人も只者ではないのだが……。
その上、俺がフランを婚約者にするのに、貴族に対しての根回しもできていないことをなじられたのだ。
「いや、そこは、本当に申し訳ない。今、鋭意詰めているところだ」
俺の必死の言い訳を
「ま、そう言う事は詰めきってから仰っていただきますか。フラン、帰るわよ」
破壊の魔女はそう言うとフランを連れてあっさり帰ってしまったのだ。
俺は唖然とした。
せっかく貴族共と詰めていたのに、その母にフランを連れていかれてしまったのだ。
これもそれも反対した貴族共のせいだ。
今回、フランが魔王を倒したという報はあっという間に世界に広まった。
そして、フランの手元に大量の釣り書が舞い込み始めたらしい。
その時点になってやっと母と父が焦りだしたのだ。
フランを他国に取られればまずいと思ったのだろう。
遅いのだ。
俺はむその母と父の焦りを利用として、反フラン派の有力貴族の二三に査察を入れたのだ。
一伯爵はお取り潰しに、一子爵は男爵に降爵したのだ。
反対派の貴族連中は恐慌が走った。
俺の意向に逆らうとどうなるか目にもの見せてやつたのだ。
慌てて、フランを妃にしたほうが良いと手を変え品を変えて王宮に運動を始めたのだ。
ラクロワ公爵は、夫人が元々王妃に対しての嫌がらせでグレースを出してきたに過ぎないので、あっさりとこちらに寝返った。
基本的にルブラン家は武に圧倒的な強さを示すだけで、内政には干渉してこないのだ。それに元々武はルブランの領域だからフランが王妃になろうがなかろうが関係はなかった。
やっと貴族共はフラン一本でまとまった。最後は教会が愚痴愚痴言ってきたが、教会にはフェリシーを礼儀作法の講師で派遣するぞの一言の脅しで、あっさりと文句を引っ込めてきた。
最後の難関はフランの父だった。
王宮のような魑魅魍魎のいる所に可愛い娘はやれんと言ってきたのだ。
俺は何度も連絡し、何とか公爵に一太刀浴びせられたら、婚約を認めてやろうと言われたのだ。
俺は交渉しているときも、剣聖を召し出して必死に訓練していたのだ。
最初は嫌がっていた剣聖も、俺がルブラン公爵に1太刀浴びせるために力を貸してくれと頼むと言うと喜んで手を貸してきたのだ。
剣聖は公爵には余程の恨みつらみがあるらしい。
俺は剣聖の手も借りて、必死に訓練したのだ。
そして、公爵と戦って何とか様にはなるだろうと見込みが立って、やっとルブラン領に向かったのだ。
しかし、さすがの公爵は強かった。俺は一太刀も浴びせられずに、ぼろぼろになっていた。
でも、このままでおめおめとやられるわけにはいかなかった。
「小僧、降参するか」
公爵が言ってきた。
「まだまだ、私は決して諦めません」
俺はそう答えた。
その時だ。フランがこちらに駆けてくるのが見えたのだ。
よし、今だ。今こそ決めるしか無い。
俺は奥の手を出すことにしたのだ。体を沈めるとただ一直線に公爵めがけて突きを入れたのだ。
フランを見て公爵の顔が一瞬緩むのも見逃さなかった。
俺の行動に一瞬公爵の反応が遅れたのだ。
何とか剣先が公爵の額に届いた。次の瞬間公爵の剣で地面に叩きつけられていたが、何とかなったはずだ。
「フラン」
俺は気付くとフランの腕の中にいた。
「もう、何むちゃしているのよ」
「男にはやらないといけない時があるんだよ」
俺が格好つけて言うと
「お父様に挑みかかるなんて無茶よ」
「でも、フランを得るためには絶対に一太刀浴びせないといけなかったんだ」
俺は言い張ったのだ。
「一太刀っていうか、一針は届いたと思うけれど……私を得るってどういう事?」
フランが聞いてくれた。
俺はそう言うフランの前に跪いたのだ。
「フラン、私と婚約して下さい」
そう言うや手を差し出したのだ。
「えっ」
フランは驚いていた。
でも、この勢いで手を取ってはくれなかった。
「だめか?」
俺が念押しすると
「だって王妃様とかフェリシー先生が……」
フランが懸念事項を言ってきた。やはりそうか。
でも俺は最後の奥の手を準備してきたのだ。
王宮のシェフを総動員してお菓子の家を作ってきたのだ。ここまで運ぶのが本当に大変だった。
「ええええ! これってお菓子の家?」
フランの青い瞳が驚愕に見開かれた。
「そう、これは王宮のシェフたちが腕によりをかけて作ってくれた正真正銘お菓子の家だ。彼らは俺の婚約者になる者の為に作ってくれたのだ。でも、フランがなりたくないのなら……」
俺が少し残念そうに言うと
「なる。なるわよ」
フランは俺の想定通り、即答してくれたのだ。
ここまで苦労して運んだかいがあったというものだ。
俺は喜びの余り、お菓子の家を食べるのに必死なフランを抱きしめたのだ。
フランは流石に送り主を邪険にもできずに、俺に抱かれてもそのまま食べ続けていたんだけど、何か違わないかと思わないでも無かったが。
まあ、6歳の女の子は、特にフランは花より団子、恋よりもケーキだろうと諦めたのだった。これを後でケーキしかプレゼントをくれたことがないと言われるのは学園時代の別の話だ。
でも、この時はどう見ても花よりもケーキだったのはフラン自身だったのに!
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
新作はじめました。『聖女として召喚されたのに王宮を追放されて我儘貴公子の奴隷にされました。でも、いつの間にか溺愛されるシンデレラストーリー』
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下に説明とリンク貼っています。
読んで頂けたら嬉しいです。






