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91ピッチ目 少年の正体


「お待ち。牛のテール煮だ。熱いうちに」


ちょっとぶっきらぼうな雰囲気のある店主だが料理の腕は確からしく、運ばれてきた料理は食欲をそそる最高にいい香りがしていた。


ここにきてようやく少年の目にほんの少しだけ光が戻った。


「ほら、少年、店主もああ言っていることだ。熱いうちに食べなさい」


アーガイルさんの方をみて初めて口を開いた。


「僕が食べていいの?僕なにも払えるものを持っていない…」


「もちろんだ。なにも取ろうと思っちゃいないよ。腹いっぱい食いたいものを食えばいい」


親切にされることに慣れていないのだろう、戸惑った様子の少年だったが空腹には抗えず、テール煮を食べ始めた。


一口食べて目を輝かせて二口目、そこからはもう止まらなかった。


あっという間にテール煮を食べつくすと少年はアーガイルさんに深々と頭を下げた。


「蜥蜴人のおじさん、ありがとうございました。すごく美味しかった」


道端で死んだ目をしていた少年は、血色もよくなって別人のようになっていた。


いや、そうなったように見えただけで、実際は空腹が少し満たされただけだった。


「それはよかった。少年、名前は?それになんであんなところで座り込んでたんだ?」


「僕はマルセロ。父さんが死んで…一人になってどうしようもなくなって…」


少年、マルセロの顔に再び影が降りた。


「父さんが死んだのは僕のせいなんだ…僕が、聖壁を登ろうとしたりしなければ父さんが死ぬこともなかったんだ…」


聖壁…聖地になっている岩壁のことだろうか。


「なにがあったんだ?」


少年は語りだした。


「いつものように僕は父さんと聖壁にお祈りに行ったんだ。僕はいつも、いつか聖壁を登ってみたいって思ってた。僕はその日、いつもみたいに父さんがお祈りしている間に近くで遊んで待ってるって言って崖の下に回って、聖壁を登り始めたんだ。そんなに大きな崖じゃないから、大変だったけどなんとか登りきれた。登り切ってお祈りしている人たちのところに出ると、みんな驚いてこっちを見ていた。崖を登ってきた僕をみて驚いているのかと思って、喜んで僕は父さんに駆け寄ったんだ。そしたら…父さんは僕をすごく怒って、周りにいた人たちもみんなすごく怒ってた…それからはもう、あまり覚えていない…気がついたら父さんが傷だらけで倒れていて、それで…」


少年はどうやら聖地を穢したとして糾弾されたようだ。


そしてその監督責任を問われ父は袋叩きにされて、そのまま誰も助けてくれることは無く…


そしてこの路地裏の少年へとつながっていたのだ。


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