90ピッチ目 路地裏の少年
「宿屋通り、このあたりだよね」
広い通りを馬車で行くと道の左右にちらほら宿屋が出てきた。
どこもさほど大きくは違いの無い、何の変哲もない宿屋のようだったが、巡礼者たちでにぎわっていた。
家々の間から見える少々くらい路地にも宿屋は軒を連ねている。
表通りの宿屋はどこも埋まっているようだったから、俺たちは路地に入っていった。
馬車同士のすれ違いが出来ないほど狭い路地を俺たちが行くと、向こうからやってくる人々はそれを避けて道の端を歩いていた。
そうして少し進んでいくと、道端に座り込む少年がいた。
その少年は痩せこけてうつろな目をして地面を見つめていた。
いや、地面を見つめているように見えるその瞳にはなにも映っていないように思えた。
アーガイルさんが馬車を止めた。
「少年、大丈夫か?帰る家はあるのか?」
アーガイルさんに意外とこういう面があったことに驚いた。
少年はわずかに、ごくわずかに首を左右に振った。
「一緒に来るといい。行くところを探そう」
少年は動かなかった。
「とりあえず飯を食いに行かないか?そのあとのことはそのあと考えればいい」
少年は伏せていた目を重く持ち上げると、アーガイルさんをじっと見つめた。
ゆっくりと立ち上がるとアーガイルさんは少年に手を差し伸べ、少年もその手を取った。
「すまないなみんな、勝手に決めて。だが見過ごせないんだ、この子みたいな子は。早いとこ宿屋を探して、まずは飯を食いに行こう」
俺たちもみんな賛成だった。
路地であんな風に、人生を諦めたような眼をした少年がいることは気持ちのいいものではなかった。
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宿屋はそのあとすぐに近くのところに決めた。
なんの変哲もない普通の宿だ。
「飯にしよう。少年、好きな食べ物はあるか?もしくはこの町の名産とか」
少年は答えなかった。
「お肉食べに行きましょうよ。肉料理ならいろんなものがあるし、ボリュームのあるものが食べたい気分ね」
これにもみんな賛成だった。
肉料理の店はたくさんあった。
この町の周りには牧草地帯が広がっていて、宗教の話にもあった通り、牛飼いを生業とする人がいるように食肉の生産も盛んな地域だ。
宿屋のおやじに聞いておすすめの肉料理屋に入った。
「いらっしゃい、空いてるところに適当に座ってくれ」
いかにも肉料理屋の店主って感じの太った男が調理場から顔をのぞかせて言った。




