86ピッチ目 街道と金と
翌日、俺たちは昨日壁の上からみた丘陵地帯の方へ延びる街道を馬車で往くことになった。
この街道を通って四つ目の町からさらに真南の方角に進んだところに目当ての沼蜥蜴の町があるらしい。
この街道は金銀街道と呼ばれていて、メリセナとはるか南西の鉱山都市、ガラヨアへと続いている。
ガラヨアでは金や銀といった貴金属が採掘されており、金銀街道を通してそれらが必要な場所へ輸出されていくのだ。
ガラヨアからメリセナへと延びる街道の途中には十二の都市があり、それぞれが金銀街道を往く旅人や承認、軍隊のおかげで潤っている。
さらにこの金銀街道と垂直に交差する小街道が無数にあり、そのおかげでラッツァーニアの西部は非常に交通の便がよかった。
十二の都市間にも村や旅籠がたくさんあり、旅人たちが宿に困ることはないそうだ。
俺たちの進むこの丘陵地帯も小さな丘がぽこぽことあるだけでほとんどは平地、馬車も進みやすい道だ。
時折すれ違う人々はみな何か荷を運んでいていかにこの金銀街道を通しての交易が盛んかを見て取ることが出来た。
「ガラヨアにはドワーフがたくさんいるらしいな。俺はフローデンで生まれたドワーフだから、ほかのドワーフ達とはあんまり交流したことがねぇんだ。ぜひ行ってみたいが、さすがにガラヨアまで行くのは遠いよなぁ…」
ガルバンさんはちょっと残念そうで、どこか哀愁の漂う顔をしていた。
それよりガルバンさんがフローデン生まれだったとは驚きだ。
ガルバンさんのいう通り、フローデンでほかのドワーフというと鑑定屋のアルフレッドさんくらいしかしらない。
同じ種族がいないところで生活するっていうのはどういう気持ちなのか、俺には想像できなかった。
◆
◆
◆
しばらく行くと向こうから一騎の兵士が駆けてきた。
「すみません、この先で大型の輸送馬車が通りますので、左右どちらかに避けて頂けますか?すぐに通過いたしますので」
兵士はそれだけ言うと俺たちの来た方に向かって駆けていった。
兵士の来た方をよく見ると、確かに大型の馬車がこっちに向かってくる。
俺たちは馬車を左側に寄せて一休みすべく馬車を降りた。
大型の輸送馬車は近づいてくるにつれてその大きさがあらわになった。
金属のプレートで覆われた馬車を四頭の馬が引いている。
荷台の窓には鉄格子がはめられており、さながら囚人をどこかに運んでいく護送車のようにも見えた。
「どうもありがとうございます、助かりました」
通過する時に護衛の兵士と思われる兵士がお礼を言っていった。
「この馬車は何を運んでるんですか?」
「あぁ、これは金を運んでいるんです。高価なものだから護衛もたくさんついているし、荷が重いから先に避けてもらっているんですよ。街道沿いは安全ですから、みなさんもお気をつけて良い旅を」
親切な兵士だった。
俺たちは輸送馬車がガタゴトと小さくなっていくまでその場でぼーっとその後ろ姿を眺めていた。




