81ピッチ目 次なる難関
テラスで大休憩をとろうと腰掛けると、はるか眼下に三人の姿が見えた。
これまですでに三時間ほどの時間が経過しているが、各々椅子を借りてくるなどしてうまいこと時間を過ごしているようだった。
オリビアが大きく手を振っている。
俺も手を振りかえした。
声は到底聞こえるはずがないが、俺がここまで問題なく登ってきていることは伝えることができる。
まだ下にいてくれていることが俺を勇気づけた。
上を見上げると、そこからはフィンガーとハンドが入り混じったサイズのクラックがどこまでも伸びていて、その突き当りに巨大なルーフが見える。
そのルーフを正面から乗り越すことは不可能だ、おそらく十メートル近く奥行きのあるルーフだし、下から見上げたところルーフの面はつるっとしていてクラックどころかホールドもそうは無さそうだ。
「あのルーフに突き当たって、そこからトラバースだな。ホールドがあると良いんだが…」
懸念していたのは突き当りのルーフまで行ってトラバースが不可能だった場合だ。
その場合、カム、もしくはピトンを支点に懸垂下降で降りてこなければならない。
とりあえずもう少し近くまで登ってみよう、よく見えるところまで登ってから検討すればいい。
俺はクラックに手を突っ込んだ。
さっきまでのワイドクラックとは打って変わって、快適なクラッククライミングが続く。
三十メートル、四十メートルとロープを伸ばしていくが、特に休めそうなテラスなどもない。
どこかでピッチを切らなければならないが、どうやらこのクラック上のどこかで一度無理に切る必要がありそうだ。
六十メートルいっぱいまでロープを伸ばしたところでピッチを切った。
フリーで登ってきたところも仮にロープを出したと仮定すると、ここまで六ピッチくらいになるだろうか。
ただしこの六ピッチのうち何ピッチかはロープをいっぱいに出してのピッチだから、長さにするとなかなかの登攀距離になる。
ルーフ部まではあと三ピッチはかかりそうだ。
だが幸いにもクラックはどうやらこの快適なまま突き当りまで続いているようだった。
このまま登って行って道が開けるのか、それともあの大ルーフに阻まれてどん詰まりになってしまうのか、それはわからない。
このクラックの途中で別のルートに分岐できそうな部分も無く、両サイドの壁は相変わらずのっぺりしてつかみどころがない。
でもここまで来たんだ、登るしかない、なんとかしてあのルーフ部を攻略してやる。
俺は次のピッチをスタートした。




