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78ピッチ目 メリセナの壁


キャメロットですっかり酔っぱらった俺たちは結局マスターと意気投合してワイワイ楽しんでいた。


「マスターはこの店開いてから長いんですかー?」


「あぁ、俺がまだ二十代のころにこの店を開けたんだ。それ以来たいして繁盛もしてないが細々やってるよ。俺はビールが好きでな、エール以外にもいろいろ種類があるぞ」


どうやらビールが有名なバーらしく、俺たちのほかに来ていた常連客もいろいろな種類のビールを頼んでいた。


「これなんかおすすめだ。こいつはな、ラッツァーニアの中でもなかなか行くやつのいない、エスカライって湖沼地帯で育つホップがあるんだが、それを使ってるんだ。ホップってのは普通は乾いた土で育つんだが、そのホップは特殊でな、なぜかエスカライの湖沼地帯でしか育たないんだ。通常より苦みが強くてコクが出るから美味いビールができるってわけだ」


こんな感じでマスターはビールうんちくを滔々と話し続け、俺たちもそれを聞いて楽しんだ。


「俺たちが今回行くのもエスカライの方だ。沼蜥蜴に会いに行くからな」


行き先の情報も聞けて有意義な飲み会になった。





翌朝、二日酔いで動かない体を引きずって俺たちは大岩壁、メリセナの壁を見に行った。


岩壁の基部に立つとさらにその迫力は増してくる。


地元の人に聞くと、俺の目算を上回る七百メートル近い壁だということを教えてくれた。


「ノボルはこんな壁を登ってるのか…?」


ガルバンさんも俺が戦場にしている岩壁を初めてその目で見て、自分がこれまでどれだけ危険なプロジェクトに協力していたかを実感したようだった。


「こんな壁、人間に登るなんて不可能だ!」


アーガイルさんも信じられないといった様子だ。


「いいえ、ノボルはこれよりもさらに高いマシカラの岩壁を登攀したわ。私はそれをずっと下から見ていたから知ってる。このくらいの壁ならノボルなら登ってしまうわ」


一方オリビアはあきれた様子だった。


「この壁、明日トライしてみてもいいかな?一日では登り切れないと思うけど、天気も一週間くらいは安定しているみたいだし、どうせなら登ってみたい」


みんなからの異論はなかった。


ガルバンさんとアーガイルさんは、ノボルの登攀を見てみたいと口々に言っていた。


メリセナの壁は見たところ巨大な花崗岩の一枚岩だ。


ところどころクラックやフレークが発達している。


アメリカのヨセミテ渓谷、世界最大の花崗岩の一枚岩であるエルキャピタンと瓜二つだ。


だとすると、かなりハードなクライミングが求められることになる。


ソロでのトライは少々荷が重いかもしれない…。


だがこの大岩壁を前にしてトライしないというのは俺のプライドが許さなかった。


トライして、岩と戦って、その結果敗北したならそれはそれでいいじゃないか。


何度も扉を叩き続ければいつかは開いてくれる。


俺は再び、メリセナの壁を見上げた。


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