76ピッチ目 出航
それから南の大陸への出発までは適当に時間を過ごした。
アーガイルさんとガルバンさんに、二人の親父は意外と気が合うようでよく二人でガハガハ笑っていた。
賑やかな旅になりそうだ。
「あの船が連絡船?」
「そうだ。あれに乗って南の大陸に渡る。一週間弱ってとこだな」
連絡船は大型の帆船だ。
3番のマストに帆が綺麗に畳まれてしがみついている。
船体は細長く、見たところ高速船のようだった。
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「私が船長のコジヤックです。この時期は天候も落ち着いているので素晴らしい船旅になること間違いなしですよ」
「それは嬉しいです。よろしくお願いします。私たち三人は南の大陸に渡るのは初めてで…」
「おぉ、そうでしたか。南はいいですよ。暖かいし、食べ物も美味しい。それに人も皆親切です」
人の良さそうな船長でよかった。
船乗りというのは得てしてぶっきらぼうで粗暴なものだ。
ちょっとそういう人ばかりなのを覚悟していたが、さすがに定期運行の連絡船なだけあって客への対応はしっかりしていた。
「アーガイルさんは雪蜥蜴以外の蜥蜴人には会ったことあるんですか?」
「何度かあるぞ。南の大陸にこそ俺は渡ったことがないが、たまに北の大陸までやってくる砂蜥蜴や沼蜥蜴もいてな。そういう旅人なら会ったことがある」
蜥蜴人の旅人は蜥蜴人の国に行きたくなるものなのだろうか。
フローデンでは一度も蜥蜴人を見たことはないし、ポルトマルクでもアーガイルさん以外に見たことはない。
「蜥蜴人って人間の国にはなかなか来ないものなんですか?」
「ううむ…なんとも言い難いところだが、確かに蜥蜴人は人間の国にはなかなか行かんな。単純に体の作りが違うから生活がしにくいんだ。それなら蜥蜴人同士別の国に行った方がなにかとやりやすいってわけだ」
なるほど、確かに彼らの体はいわば蜥蜴だ、人間と全く同じようには暮らせないのだろう。
そんな雑談をしているうちに出航時刻が近づいて乗船案内が始まった。
甲板下の一室が俺たち四人に割り当てられた。
ベッドこそ二段が二台だが、それなりの広さのある過ごしやすそうな部屋だ。
荷物をひとしきり部屋に運び終えてゆっくりしていると、部屋のスピーカーのようなものから船長の声が聞こえた。
「みなさま、船長のコジヤックです。これより本船は南の大陸、ラッツァーニア地方に向けて出航いたします。お困りのことがございましたら、何なりとクルーにお申し付けください」
「伝声機まで付いてんのか。ありゃすごい発明でな、獅子の雄叫びっていう珍しいスキルがあってな、まあとにかく遠くまで届くでかい声が出せるってスキルなんだが、このスキルの能力を使って作られたもので、離れているところまで管を繋げば今みたいに遠くに声を届けられるってわけさ。ま、管を通さなきゃいけないから建物の中とか、それこそこういう船の中みたいなところでしか使えないんだがな」
なるほど、まさしくスピーカーみたいなものなのか。
こんなものまであるなんて、あながち前世と変わらないくらいかゆいところに手が届く世界だったりするな、なんて思った。




