73ピッチ目 ダイナミックロープ
ダイナミックロープ、優れた伸縮性を持つクライミング用のロープだ。
文字通りクライマーの命綱となるそのロープは、絶対に切れることがあってはならない。
前世でのクライミング用ロープの構造は、主に荷重を支えるコアと呼ばれる部分と、コアを擦れや汚れなどから守り、コアに均一に荷重をかけるバランサーのような役割を持つカバーと呼ばれる部分に分けられる。
コア部は十数本の細いロープが均整を取って並べられていて、一本当たりの荷重は約百キログラム、つまり約0.1キロニュートンということになる。
それらの細いロープ一本一本は落下の荷重に到底耐えられるものではないが、カバーが内部のロープをぎっしりと締め上げていることによってすべての細引きに均一に荷重がかかり、結果としてロープ全体で約2.4キロニュートンの荷重に耐えることが出来るわけである。
ワイバーンの翼膜はその特性上、伸縮性、擦れへの強さ等、カバー部に使うことが出来れば高強度なダイナミックロープを作ることが出来る。
重量は作ってみないとなんとも言えないところだが、翼膜をやすりで薄くして使用すればどうにか軽量化できそうな気もする。
そうと決まれば早速ガルバンさんの工房だ。
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「今度はロープを作れって?まあいいさ、どうせ俺はなんでも屋だ」
ガルバンさん、だんだん鍛冶仕事以外を任されることに抵抗を感じなくなってきている。
やけくそって感じだ。
「それで、構造はこういう風にしてほしいんです」
ざっくりした設計図を渡した。
「なるほどな、この内側のコアって部分のロープは割と簡単に手に入ると思うが、ワイバーンの翼膜を細長く使うのは難しいぜ?せいぜい翼膜って一メートル四方くらいしかないサイズ感だろ?それを六十メートルのロープの外皮に使うのは無理なんじゃねぇかな」
「その点は俺も考慮しました。翼膜を切るんです。それらを並べて何かしらある程度の伸縮性が保たれる方法で接合できないかと思っているんですが、なにかそういう方法は無いですかね?」
アイギスと相談したが、接合方法は思いつかなかった。
ガルバンさんなら何か知っているかと思って一縷の望みをかけて聞いてみたが…
「ううむ…そんな都合の良い方法は俺も知らねえな…接着剤で接合すればどうしてもその部分はがちがちに固まっちまって伸縮性なんかほぼゼロになっちまうし、そもそも俺は翼膜加工なんてやったことねぇからな。専門のモンに聞くのが一番だと思うが…」
(アイギス、翼膜加工に詳しい人はだれか分かる?)
(ブラスハイムのワイバーンの翼膜加工の専門家は不明ですが、似たような動物でギバランという動物がいます。ギバランは南の大陸に生息しており、蜥蜴人がその素材を加工することに長けているので、翼膜加工の技術も持ち合わせている可能性が高いです)
南の大陸か…クムジュンガもどうせ雪がある程度減ってくるまではトライできないし、蜥蜴人の国に行ってみるのもありかもしれない。




