72ピッチ目 思案
(アイギス、ワイバーンの翼膜ってどんな素材なんだ?)
翼膜の使い道がないか、俺は自宅で天井を見上げながら思案していた。
思案と言ってもアイギスとの相談だが…
(ワイバーンの翼膜は防水性に優れた素材です。ただし透湿性や重量に難があります。水筒などに向く素材ですが、空間拡大式水筒が普及した今では安価な以外メリットがありません)
思っていたよりも使い道が限定される難しい素材なようだ。
特に登山用品として最も向かない点はその重さだろう。
もちろん強度や性能、使い勝手との兼ね合いもあるが、登山用品は軽ければ軽いほど良い。
登山をしたことがある人ならわかると思うが、自分が担いで登る時、一キログラムの差は明確に体力の消耗に差が出る。
これがクライミングになるとさらに顕著で、クライミングギアのメーカーは数グラムの削減に苦心している。
実際、カラビナに小さな穴をいくつか空けて肉抜きすることで軽量化を図るメーカーもある。
そこには数グラムの差しかないが、この数グラムが十枚、二十枚と重なることで全体の軽量化に寄与するのだ。
(強度はどうなんだ?引っ張り強さとか、対貫通性とか)
(強度は申し分なく、大抵の衝撃には対応可能です。また、翼になる部位である性質上、伸縮性も備えています)
高強度に伸縮性…
閃いた。
ロープだ。
ワイバーンの翼膜をうまく加工してロープにできないだろうか。
以前リーゼホルンで俺が墜落して負傷した時、ロープの伸縮性がもっとあれば人体に掛かる落下荷重はさらに小さくなりおそらく怪我には至らなかったはずだ。
前世ではクライミング用のロープはダイナミックロープと言って、最大で約三十五%ほどもの伸縮性を持つ。
それだけロープが伸びるということは、荷重が掛かった時にそれだけロープが吸収してくれるということだ。
この世界のロープは未だダイナミックロープのような伸縮性を獲得するには至っておらず、かねてから課題の一つだった。
ワイバーンの翼膜、まさかロープの材料になり得るかもしれないとは思いもよらない素材が候補として上がったものだ。
(加工は難しいのかな?例えば翼膜をロープのように長くつなぐことは?)
(データがないので正確なことは申し上げられませんが、繋ぎ目の強度が課題になることが予想されます)
アイギスのデータベースに無いということは、かつて試した者がいないということだ。
ということは、ガルバンさんに相談してみるしかなさそうだ。




