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69ピッチ目 再びの山頂


緩傾斜帯は幸運なことに表層が雪崩れることもなく難なくクリアすることが出来た。


あとは最後の岩と氷のミックス壁。


この壁は垂直より少し被っている壁で、遠くから見た限りでは登攀対象にはならないと思っていた。


しかし実際に懸垂下降で降りる際に近くで見てみると、それはそれは立派なクラックが一筋、前傾壁の中央に美しく伸びていたのだ。


冬季はこのクラックに雪が詰まりそれが凍り付いている。


この氷を頼りに登攀するのだ。


アックスを氷に打ち込むと、氷は固く締まり、しかしアックスの歯がガッシリと食い込んだ。


これならいける…!


確信に近い安心感。


体重を預けてもクラックに詰まる氷はびくともしなかった。


ぐんぐん高度を上げる。


ところどころ体重を預けて休めるテラスがいくつかある、それを頼りに前傾壁を登っていった。


リップ部は小規模ながら雪庇が発達している。


乗っ越すためには雪庇を崩して地面を露出させなければならない。


アックスとアイゼンをしっかりと氷に食い込ませ、体を安定させた上で俺は右手でもつアックスで雪庇を下から叩いた。


音もなく雪庇が崩れて俺の上にバッサリと覆い被さってきたがなんとかそれに耐えて固まった雪が下に落ちていくのを見ていた。


見上げると俺の上だけ雪庇は綺麗に崩れていて、リップ部に積もった雪を少しどかせばなんとか乗り上がれそうだ。


俺は山頂稜線に出ることができた。


冬山らしく爆風は吹いているが、山頂の天候は安定している。


ゴーグルがなければ目も開けられないほどの爆風だが、冬山ではこのくらい日常的に吹いている。


力強い足取りで積もる雪をかき分けながら一歩ずつ山頂へ向かう。


俺はこんな風に雪をかき分けて一人山頂を目指すこの瞬間がたまらなく好きだった。


自分の限界に挑み、そして山に許された時にのみ山頂を踏むことが出来る。


山に許されなければ撤退することになるが、山は何度も撤退を呼びかけてくる。


その合図を読み取れずに登り続けると最後は怒り狂った山に飲み込まれるのだ。


山頂まであと数十メートル。


霧もなく、山頂付近はその爆風で飛ばされて雪はほとんど積もっていない。


そして俺は再びマシカラの山頂に立った。


西を見る。


その山々は相変わらず神々しい姿でそこに鎮座していた。


見惚れた。


晩夏に見た時より大量の雪を纏ったその姿は美しい神々のようでもあり、難攻不落の要塞に見えた。


いつか必ずあの山々を登りたい。


あの山と対話してみたい。


この光景を目に焼き付けて、俺は帰路についた。


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