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68ピッチ目 冬季


俺の眼前には圧倒的な氷瀑がそびえたっていた。


氷瀑の高さは二百メートル以上に及ぶだろうかという高さだ。


この世界では、一年ごとに四季が回ってくる。


前回俺が登ったのが晩夏、それから約一年と少しが過ぎたから今は初冬というわけだ。


前世でもそうだったが、山というのは冬になると夏山と比べて恐ろしいほどに表情を変える。


いくら予想しようが百パーセント回避することはできない気まぐれな雪崩や、雪に隠されたあたかも悪意ある落とし穴のようなヒドゥンクレバス、そして何者をも寄せ付けない悪天候の衣。


その冬季のマシカラにこれから登ろうというところで、前回の下降ルートは表情を豹変させていたのだ。


確かに前回の下降ルートまるっきりそのままではないが、空中懸垂で降りたピッチは壁に向かって左側に大きな滝が流れていたのを記憶している。


その水が山中のどこから流れてきているのか分からないが、それなりの水量のある立派な滝だったはずだ。


それがそのまま凍り付いて見事な氷瀑を作り出していた。


「ラズ、それじゃあ俺はこの氷瀑を登っていく。ハングしている岩壁を登るのは嫌だし、この滝、かなりしっかり凍結しているみたいだからここなら安全に登れるはずだ。お前は村で待っていてくれ」


ラズは頷いて、気を付けてと一言だけ言った。


さて、俺だけのクライミングの時間だ。


氷の壁にアックスを打ち込む。


パキパキと小気味よくアックスが氷壁に突き刺さり、グッと体重を預けてもなんら問題はないといった感じだ。


これならいける。


氷瀑は段々になっていてスタンスも豊富にある。


決して難しいクライミングではない。


二百メートルの氷瀑は落ち口から滝つぼまでまっすぐに美しい氷の柱となっている。


自然の造形美とはまさにこのこと、キラキラと輝く氷柱をありんこのように小さな自分が少しずつ少しずつ、アックスの打ち込みを確認しながら登っていく。


あっという間に氷瀑は終わりをむかえ、落ち口はそのまま凍り付いた小さな洞窟につながっていた。


この洞窟が水の注ぎ口なのだろう。


今回の登攀はこの洞窟が目的ではない、先へ進む。


氷瀑を登りきるとここからは雪の緩傾斜帯だ。


と言っても、それなりの傾斜はあって下りは懸垂下降でないと歩いての下降は難しい程度の傾斜だ。


雪の積もり具合は概ね三十から四十センチほど。


もし表層が雪崩れたらそのまま二百メートル下の滝つぼまで真っ逆さまだ。


所々に飛び出しているピナクルがあるから、それを頼りに俺はそろそろと緩傾斜帯に入った。


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