6ピッチ目 夕食と本音
「お父さん、ノボル、夕飯が出来たよ」
オリビアが大鍋のシチューを持ってきた。
暖炉に火が入っていて心地よく温かいリビングだ。
転生してから数週間、俺はギデオンさんとオリビアを手伝いながら彼らの家に置いてもらっている。
彼らになら話しても大丈夫だろうと思って、俺は今日転生のことを話すつもりでいた。
「ギデオンさん、オリビア、実は俺、話しておかないことがいくつかあるんです」
はじめはどうした?という顔をしていた二人だったが、俺の真剣な顔を見て真剣な話だということが分かってくれたようだった。
「俺は、記憶を失っているわけではないんです。これまで記憶を失ったふりをしていてすみませんでした。それでなぜいろんなことを知らないかというと、実は俺…別世界から来た人間なんです」
二人ともぽかんとした顔をしている。
「待ってくれノボル、別世界っていうのは、どういう意味だ?どこか遠い国から来たってことか?」
理解できないのも無理もない。俺自身信じられないでいるのだ。
「いえ、別の国ではありません。俺が前にいた世界で俺はたぶん死んだんです。気が付くと真っ白な空間にいて、そこで女神と名乗る女性と話をして、この世界に送られました」
もう自分でもわけがわからない。そんなことあるはずないのに、俺の記憶には確かに前世の記憶もあるし、女神の記憶もある。
「前世で俺は、クライマー、つまり高い山や岩壁を登ることを生業にしていました。この世界にはクライミングという概念自体が存在していないみたいだから、理解するのは難しいかもしれませんが…とにかく普通は人が登れるとは思えないような山や崖を登って生きていました。その名残できっと俺のスキル、孤高の嶺が開花したんだと思います」
これだけのことをいっぺんに話して二人は完全にパンクしていた。
口をパクパクさせて金魚みたいになっている。その姿がちょっと可笑しくて笑ってしまった。
「それは、その、ノボルは、全くの別世界からきたってことだな?その世界に帰ることはできないのか?」
「それも分かりません。でも、前の世界で一度死んでいるから、あっちの世界に俺の生きる場所はもうないんだと思います…」
自分で言っていて悲しくなってきたが、恐らくそういうことじゃないだろうかと予想していた。
「そうか…正直混乱している。君が別の世界の人間だと言われたから何が変わるわけではないが、私たちに何かできることがあったら何でも言ってくれ。君はよく手伝ってくれているし、何よりいい人間だ」
だれにも話せなかったこの重たい事実を受け止めてくれて、やっとこの世界に居場所が出来た気がした。