59ピッチ目 開店前夜
「明日いよいよこのクライミングジム"パラレル"開店です!ここまで急ピッチで立ち上げに携わってくれた皆さん、本当にありがとうございました。そしてこれからも宜しくお願いします!それじゃあ、この店の繁盛に乾杯!」
開店前夜パーティー。
このジムの立ち上げに携わってくれたみんなや、近所の方々が参加していた。
ガルバンさんと工房のみんな、ガマさんと商会のメンバーを中心に、商会が手配した建築屋や運送屋の面々もいた。
もちろんオリビアとギデオンさんも来てくれていた。
わいわい盛り上がって、中にはウォールを登ってみている人もいた。
「ノボルさん、これすごく楽しいね!絶対流行るよ!」
「通おうかな」
みんなが声をかけてくれるたびに嬉しくなった。
この世界にない新たな娯楽を提供すること、それはある種のギャンブルと同じだと思っている。
それがイマイチ流行らなければ投資したお金が無駄になるわけだし、なにより自分が良いと思って提供したものが受け入れられなかったという喪失感が生まれるだろう。
だが今回は来てくれているみんなが楽しそうにウォールを登って、仲間たちと食事やお酒を楽しんでくれている。
涙が出そうなくらい嬉しかった。
「ノボル様、大成功のようですね」
「ガマさん、おかげさまで。でもこれからですよ。明日から、開店してからが本番です。そもそもスポーツは金持ちがするもの、という感覚もありますし、俺はお金を掛けずに楽しんでもらえる場を提供したいんです」
「私もこのクライミングジムのおかげでこの町がもっと活気づいてくれると期待していますよ」
ガマさんとはこのクライミングジムの立ち上げについて本当にいろんな話をした。
ガマさんが専門とする経営に関することももちろんたくさんアドバイスをもらった。
客層はどうするのか、ターゲットとする時間帯は、利用料金は、道具は、などなど。
はじめはなかなかうまくいかないかもしれないけど、少しづつ改善していけばいい。
ふつふつとやる気が湧き上がってくるのを感じている。
俺がこの異世界に転生してきた本当の目的はこれだったのかもしれない。
でも、自分のクライミングも大切にしていきたいと思っている。
マシカラから見たあの高峰、リーゼホルンの南壁、ほかにも世界にはだれも登ったことの無い名峰がたくさん眠っていることだろう。
そういう山を登りたい、壁を登りたい。
山と、店と、その両輪で俺は進んでいく。




