56ピッチ目 ホールド制作
いよいよ粉末状のドーバークラブの殻がある程度溜まってきた。
ここからは実際に発泡させてホールドを作っていく。
ビールと混ぜると反応するって言ってたな…
「ガルバンさん、それじゃ行きますよ」
ガルバンさんもうなずく。
一すくいの粉末を型に入れて、そこにゆっくりとビールを流し込んだ。
ビールが粉末に触れた瞬間こそ反応はなかったが、すぐにブクブクと発泡し始めた。
やがてそれは気泡が立つ程度だったものがあっという間に膨張をはじめ、粉末はビールを飲みほしてなお膨らんでいく。
型いっぱいに膨張して膨らんだその粉末は、しばらくすると静かになって動かなくなった。
そうなったときには既に硬化していてしっかりとした持ち感の物体に変化していた。
「すごい膨張率ですね。これなら今ある分だけでもかなりの数を作れそうです」
発泡して膨張したその物体は、懸念していた気泡でスカスカになる現象も起こらずある程度の密度を保っている。
正直、なんでこうなるのか全く分からないし、質量保存の法則とか無視してそうな気もするけどまあここは異世界だ、深いことを考えてもキリがないだろう。
ともかく、これであとは型から外して壁に設置する面を平らに研磨すれば完成だ。
表面がザラザラになるよう、粘土製の型の内側に砂を練り込んでおいた。
そうすることによってホールドの表面がザラザラになり、より岩に近い質感、よりクライミングに適した質感に仕上げることが出来ると考えた。
その思惑は的中して、前世のホールドのようにはいかないがある程度狙い通りのザラザラ感を出すことが出来た。
順調すぎる。
粘土型を増産して何人かで作業をしてもらったらあっという間に大量のホールドが出来上がるだろう。
粘土型を作ってくれているのはガルバンさんのところで働いている粘土細工師。
彼のスキル、クレイマンのおかげであっという間に粘土質の土と水から粘土を作ることが出来る。
そのスキルのおかげで粘土を豊富に作ることの出来る彼は昔から粘土を使って何かすることが多く、その膨大な経験から粘土細工師の道に進んだのだった。
彼の作る型は独創的で、俺の思い描くホールドのイメージをきっちり再現してくれる。
いやむしろ、俺が想像もできないような造形のホールドまで作り上げる、まさに年度の魔術師のような男だ。
「それじゃあ、ホールド制作あとはお願いしますね。俺は建物の方見てきますから。完成したホールドはガマさんに頼んで運送を手配しておくので置いておいてくれれば大丈夫です」
あとは俺がホールドを使って壁にルートを描いていくだけか…
この作業ばっかりは俺がやらないと意味がないからな。




