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50ピッチ目 ブラスハイムへの帰還


それから数日間、俺たちは探検隊のベースキャンプで南壁を見て過ごした。


見れば見るほど覆いかぶさるように立ちはだかる南壁の攻略法が分からなくなる。


実際に取り付いてみて初めて分かったが、考えているよりずっと滑らかな岩だった。


ルート上で使えそうな細いクラックや外傾した小さなテラスは所々に散見されるが、それらを繋ぐ滑らかな岩壁をどう攻略したものか…


いや、そもそもその何もない岩壁をフリークライミングで攻略すること自体が不可能なのか…


そんな自問自答がぐるぐると脳内を何周も何周も駆け回って思考がまとまらない数日間だった。


「よし、今回の採掘は終わりだ!ブラスハイムに戻るぞ!」


ブラスハイムへの帰還が決まったのは俺が墜落して負傷してから六日後のことだった。


帰りも行き同様、氷河の上をそりで進む。


行きと違うのは、体を休めるために横になって運ばれる俺と、元気さを失ったラズ、そして採掘にて出土したものがたくさん載せられていることだった。


氷の中から出てきたものは本当にいろいろあるようだった。


古い農具のようなものや、鉄の輪、中には何かの骨のようなものもあった。


なぜこんなものが氷の中にあるのかはわからないが、大方、大昔にこのあたりに住んでいた人のものなのだろう。


帰りの道中、ワイバーンが現れる様子はなかった。


ジークは相変わらず怖い顔をして周囲の山々を警戒していたが、だんだんつまらなそうにあたりを眺めるだけになった。





「探検隊が帰ってきたぞ!開門だ、門を開けろ!」


兵士たちがあわただしく木製の門を開いた。


隊列は既にそりから馬車に変形し、土の道をゴトゴトとブラスハイムへ入っていった。


「ヨルハ、今回は連れて行ってくれてありがとう。実際に近くで見て課題がいろいろ見つかったよ。またそのうち頼むかもしれないから、その時はよろしくな」


「全く、だから登れないって言ったじゃないか。まあでも、あんたたち二人が百メートル以上高いところまで登っているのを見てみんな驚いていたよ。落ちて全身ボロボロになって帰ってきた時にはさすがに驚いたけどさ」


ヨルハはそう言うとカラカラと笑った。


こっちは体を起こすのがやっとなくらい痛い思いをしたというのに…


でもなんだか憎めないんだよな、このヨルハって女は。


「それからジークさん、ワイバーン狩りの腕、見事だったな。またよろしく頼むよ」


ジークさんはフンっとそっぽを向いたが悪態をつかないところを見ると恐らく悪い気はしなかったんだろう。


一週間近く共に過ごしたことで、なんとなくジークさんの考えていることが分かるようになっていた。


そんなこんなしているうちに隊列は出発した時と同じ広場に到着した。


「ノボル!そんなボロボロになっていったいどうしたの!?」


眉毛をきれいにハの字にしてオリビアが駆け寄ってきた。


「まって、大丈夫だから、抱き着かないで」


今抱き着かれたらきっとまた全身に激痛だ。


「落ちたんだ。命に別状はなかったんだけど、落ちた時の衝撃で全身ボロボロでね…しばらくは体を動かすの難しそうなんだ。もちろんちょっと歩いたりくらいはなんとか出来るけど、山に登るのは無理だな、ハハ…」


「笑い事じゃないよ…命があってよかったけど、もし死んでたらどうするつもりだったの!?待っている人の気も知らないで、無茶ばっかりしないで!」


オリビアは怒っていってしまった。


クライミングをやっているとどうしてもこういう場面には直面する。


一度は親から、一度は昔の恋人から同じようなことを言われた。


これを言われると、クライマーは立つ瀬がないんだよな…


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