5ピッチ目 天才クライマー、ノボル
「そんなに肩を落とさないで、欲しいものがなかったのは残念だけど、またどこか置いているお店を探しに行こ?」
オリビアが慰めてくれているのには訳があった。
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俺はあの登山用品店の品ぞろえを誇らしげに語るオリビアに本当のことを言い出せなくて用のない登山用品を見ながらうろうろしていた。
その中で現実世界では見たことの無い「炎のホットキーパー」という商品を見つけた。
これは熟練した炎の能力者の力を小さな鉄の円柱状の容器に閉じ込めたもので、端のつまみを回すと温度を調整できる。
普段は最弱にしておけばぬくもりを感じる程度だが、つまみを回していくとテント内くらいなら温められるストーブ代わりにもなる。おまけに軽量。
「中には便利なものも売ってるじゃん」
とつい言ってしまったのだ。
店員さんがいなかったからよかったものの、横にいたオリビアにはガッツリ聞こえてしまった。
オリビアが悲しそうな顔をしているのを見て取り繕おうとしたが言ってしまってからは後の祭り。正直に欲しいものが無いことを話したのだった。
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「せっかく連れてきてくれたのにごめんな。また他のお店も時間がある時に教えてくれよ」
その時、あっ!という声がして驚いて後ろを振り返ると、子供が離してしまったのか風船がゆっくり空に向かって昇っていってしまっていた。
「待ってて」
まだ風船は屋根の高さの半分くらいまでしか上がってない。いまならまだ捕まえられる。
辺りを見回すとレンガ造りの壁があった。ここなら登れる。
レンガの小さな凹凸を指でとらえすいすいと体を上げていく。俺だったらこれくらいの壁は地面を走るのと変わらないペースで登れる。
最後は屋根から張り出した梁に向かって飛び移りながら風船をキャッチした。
パチパチパチパチ!
気が付くと下には周りの大人から子供までギャラリーが出来て俺を称賛してくれていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうお兄ちゃん!お兄ちゃんはなんであんな風に壁を登れるの?」
子供に風船を返して聞かれたこの質問に、俺は上手な返事をすることが出来ずにこう答えた。
「お兄ちゃんは、クライマーなんだ」




